Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    ao510c

    @ao510c

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 17

    ao510c

    ☆quiet follow

    ひろラハ、頭出し。

    タイトル未定 嵐が過ぎ去った朝、オールド・シャーレアンにある林の片隅で大きなもみの木が倒れた。
     倒木は樹齢百年をゆうに超える大樹だ。幹はルガディンの成人男性より太い。加えて背も高く、こちらはエレゼンの男性十人をつれてきても敵わない。まっすぐに立っていたころ見上げたとして、頂は確かめられなかっただろう。これが根こそぎ横倒しになって、地面がめくれている。むき出しになった根から、ときどき思い出したように砂の粒がこぼれた。
     むごたらしい嵐の爪痕を前に、発見者のグリーナーは何を思っただろう。倒木を見物に来たグ・ラハ・ティアは、思わず息を飲んだ。
     まばらに木が生える、人の手が入った林だ。まだ風によってむしり取られた草木や濡れた地面のにおいがつんと湧き上がってくるような朝に、人のざわめきが満ちていた。
    「ひどい風だった」
    「建物に被害がなかったのは奇跡だ」
     周囲の木と比べて、今回倒れた木はずいぶん立派だ。それだけ、昨夜の嵐はすさまじかった。数十年に一度の嵐と呼んで差支えない。めずらしい出来事なら、知的好奇心旺盛なシャーレアンの研究者は大好きだ。すでに専門家が調査を終えて、木の根が弱かったこと、木の中央に空洞があったことが明らかになっている。
     午前のうちに、林全体の大規模な調査を行うと決定された。もともと大撤収が予定されていただけに、近年はもみ林の手入れが不十分だった。倒木の危険が高い木は、この機に倒して、新しい木を植えようというのだ。森林の調査ならグリーナーにもできる。だが、その後の手入れまで見越して、哲学者議会はグリダニアの園芸師ギルドに森の調査を依頼した。
     そんな中、グ・ラハは倒れた木を見物に来た。野次馬をしたかった訳ではない。ただ、現実には野次馬たちにまぎれて倒木を見た。濡れた地面に倒れ伏す大木は、グ・ラハにひとつのインスピレーションを与えた。
     ──こんなに立派な木が、突然倒れる。内側は腐っているかもしれない。
     木の状態は外からわからない。腐食は、倒れて初めて明らかになる。
     胸の柔らかい部分がぞわりとした。冷たく、したたるような不安が押し寄せてきた。
     この時グ・ラハの胸によぎったのは、第一世界にいた頃から彼の胸に巣食う不安だ。
     無性に英雄の顔を見たいと思った。
     彼のおおらかな顔を見たら、少し安心すると思ったのだ。



     この不安を説明するには前段が必要だ。
     遠い日のこと、グ・ラハと冒険者はクリスタルタワーを調査するため霊砂を集めていた。別行動で、まだ出会ってすらいない頃のことだ。グ・ラハは物陰に隠れて冒険者を見ていた。彼が敵陣に一人で乗り込む、果敢な背中に見惚れた。
     あれは北部森林、タホトトル湖畔を占領するイクサル軍伐採所でのことだ。
     白昼堂々の強襲だった。湖畔には無数のイクサル族が武装して集い、ときの声を上げていた。対する冒険者は愛羽だけを率い、斧を携えている。
    「多いな」
     彼は面倒そうに呟いた。傲岸な態度だった。
     空は明るく澄んで、吹く風はのどか。どうかすれば眼前の鉄火場を忘れそうだ。
     一瞬の空白。
     衝突が始まった瞬間、グ・ラハはしびれた。冒険者に近づいたイクサル軍は、まばたく間に倒れ伏す。冒険者が斧を一振りすると、竜巻が起きるように見えた。彼は紙を切るような軽快さで颯爽と進んだ。
    「──!」
     声にならない叫びが、イクサル軍の兵士たちをひるませる。イクサル軍が装備した斧や片手剣、槍は、おもちゃに見えた。軍用狼を蹴り倒し、かぎ爪のある羽をかいくぐって、みるみる内に中枢へ踏み込む背中を慌てて追った。彼は勇猛で、並ぶ者のない武人に見えた。
     あの瞬間、土埃と怒号の中でグ・ラハは興奮していた。これほど強い男を初めて見た。全身の毛が逆立って、まばたき一つを惜しいと思った。この戦いがいつまでも続けばいいと、本気で思った。
     元来グ・ラハは負けず嫌いな性格で、競争となれば手を抜かない。何としても冒険者より先に霊砂を手に入れるつもりでいた。彼がさわぎを起こしてくれれば、こっそり霊砂を持ち去れるとさえ考えた。だが実際は、敵を平らげた彼が霊砂を回収するその瞬間まで見惚れていただけだ。
     あの瞬間から、冒険者はグ・ラハの憧れの人になった。
     比類なく強い武人。敵の渦中に颯爽と現れて獲物を攫って行く豪胆さ。何より、笑った顔がよかった。さわやかで影のない笑顔が、脳裏に焼き付いた。いいな、と思った。男にこれほど見惚れたのは初めてだ。
     ところが、冒険者は話してみると明朗で気さくな男だった。
    「こいつらの生息域はもっと北だ」
     グ・ラハは弓を引きながら言った。
    「へえ」
     冒険者は斧を振るいながら応じる。
    「時々、増えすぎたやつらがこうして南下してくる。ほどほどに狩っておかないと、どんどん増える」
    「難儀だな」
    「ああ。調査の邪魔になるし、うるさいし!」
     最後は叫び声になった。
     コイナク財団のキャンプ近くで暴れ始めたハパリットをこらしめながらの会話だ。ハパリットは二足歩行の魔物で、腕は二本、牛のような頭を持つ。赤みを帯びた肌は岩のようにひび割れ、雄たけびをあげながら群歩する姿は圧巻だ。
     救いは、ある程度脅かせばあきらめて北上してくれるところだろうか。数日とおかず戻ってくるが、対処せずにもいられない。
     コイナク財団お抱えの手練れの冒険者に彼が加わるだけで、対応速度は何倍も加速した。グ・ラハの手伝いは気のせい程度だ。
     それでも彼はグ・ラハを振り向いて笑う。
    「お疲れ様」
     冒険者は拳を胸の高さに軽く掲げた。グ・ラハはその意味を、すぐ理解する。グ・ラハも同じように拳を掲げ、そっと突き出す。二人の拳は軽くぶつかった。
     こつり、と音がする、それだけの触れ合いだ。これが、グ・ラハにはたまらなく嬉しかった。彼の手は、決して必要以上にグ・ラハの手を押さない。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💘🙏👏☺❤❤❤❤❤❤❤❤
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    ao510c

    DOODLEひろラハ習作。ラハ不在。ちょっぴり前作とつながりがある。ひろしが右足を痛めていてたまにすごく痛くなることだけ知っていれば読めます。
    マノーリン 黄色い風が吹いていた。乾いた風に砂が巻かれて黄色い紗のように見えるのだ。
     サファイアアベニュー国際市場では、広い通りの左右に並んだ露天商たちが慌てて品物を布で被う。色とりどりの毛織物がはためき、人の声がけたたましい。行きかう人々は顔を被い、足早に駆け抜けていく。そうしていても砂がかかるのは避けられない。冒険者の口にも砂は滑り込み、不快感が募った。
     珍しい風が吹く日だ。
     冒険者は顔をしかめ、路地へ入った。ひとつ奥の通りに入るだけで、少しばかり黄色い風から逃れられる。左右を埋めるのは石の壁。忌々しい砂を固めて作ったような色の石で、表面はざらついている。狭い路地を挟んで両脇に壁がそびえ立つため、空はひどく狭い。路地の狭さといったら、向かいの家の窓に紐を渡して洗濯物を干せる程なのだ。狭い空を洗濯物が被うと、この通りはさらに閉塞感を増す。とはいえ、今日は布を干した者はいないようで、紐だけが風に揺れていた。風は黄色い帯を描いて見える。見上げていると目にも砂が入りそうで、冒険者はうつむいて足を進めた。
    3754