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    ao510c

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    ao510c

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    練習用に書いたひろラハの続きです

    鹿の園「わざとだろ」
     冒険者はグ・ラハを睨みつけた。
    「何が」
     グ・ラハはいたずらっぽく笑い、開いていた本をダイニングテーブルに置く。
     冒険者の小さな家でのことだ。
     夜半は疾うに過ぎている。同じ部屋で、それぞれに過ごしていた。正確には、冒険者がクラフト仕事をしているところに、グ・ラハが訪ねてきたのだ。グ・ラハは冒険者の仕事が終わるのを待つつもりで本を開き、いつの間にか待つ者と待たれる者が逆転していた。
     冒険者はグ・ラハの傍に座り、グ・ラハが顔を上げるまで根気強く待っていたらしい。そうする内に日が変わったのだ。
     部屋の中には間接照明がいくつも配置されている。趣味良く照らされた空間で、グ・ラハはやんわり首を傾げる。
     何を指摘されているか、分かっているつもりだ。
    「学生をダシにするな」
     冒険者は念押しするように言った。昨日のカ・デラの訪問に物申すつもりなのだ。グ・ラハは口を尖らせる。ダシにしたつもりはない。あれは社会見学だ。
    「あいつ、興味津々、って顔するんだ」
    「初心なんだろ」
    「だろうな」
     はあ、と溜息をついた冒険者はグ・ラハの傍にカップをひとつ置く。湯気を上げているのはハーブティーだ。すでに深夜である。もう寝よう、という冒険者の意図を察して、グ・ラハは唇に短く礼を乗せた。「ありがとう」という声に、さらに短い応答が「ん」と返ってくる。
    「腹に据えかねてるなら聞く」
     冒険者は静かに言った。何かに怒っているのか。問われれば否だ。グ・ラハは首を左右に振って明るく応じる。
    「別にないよ。ただ、ちょっと刺激」
    「刺激?」
     冒険者は怪訝そうだ。グ・ラハは得意になって、首を傾げて見せた。
    「若くて初心なミコッテの雄、好きだろ」
     だから、カ・デラを冒険者の元に使いへやった。冒険者が彼に興味を持てば面白いと思った。だが、この手の気遣いはいつも冒険者を怒らせる。
    「俺がキレそう」
     キレそう、といいながら、冒険者は額に青筋を浮かべている。それはもう憤怒しているのと変わりない。グ・ラハは今度こそ声を上げて笑った。
    「冗談だよ」
    「どうだか」
     これまでに数回、グ・ラハは冒険者の元に学生を送り込んだ。結果は奮わない。冒険者は誰ともそう仲良くならなかった。グ・ラハはそれを、口惜しく思う。
    「あんたがああいう子たちをさ、ちょっとしたフィールドワークに連れ出してくれたら、面白いだろうと思って」
     それだけではないことは、お互い百も承知だ。だが、冒険者はこの額面上の言葉を、ひとまず受け入れてくれた。やっと笑って頷いたのだ。
    「……そうだな」
     どこか曇った笑いだった。
    「足、また痛んだのか」
     グ・ラハは冒険者に問うた。薬棚の痛み止めが減っているのは確認済みだ。困ったようにうなずく冒険者の体に頭を寄せて、彼の背を叩く。励ましの意をこめて、何度も。
    「義足の調子は?」
    「悪くない」
    「そっか」
     ラザハンの錬金技術で作られたそれは、ほとんど生身の足と変わらない動きをする。冒険者は、行こうと思えばどこへでも行ける筈だ。
     だが、彼の旅は少しずつ短くなっていった。
     一月の放浪が二週間になり、一週間、三日、最近では、この家にいる時間のほうが長い。時々長く出かけることはあるが、家を訪ねれば、おおむね会うことができる。
     別におかしなことではない。いまでも、グ・ラハと比べれば冒険者はよく出かけている。けれど、そうではないのだ。
    「なあラハ」
     冒険者はおもむろにグ・ラハの背へ腕を回した。そうして脇の下に抱きしめられると、グ・ラハは今も、陶然とした気持ちになる。
    「なんだ?」
     応じながら、ぴったり体を寄り添わせる。
     よく馴染んだ体同士、互いの凹凸を知り尽くしているようにかみ合った。こうしていると互いの顔は見えない。ただ、体を通して、声帯の震えが伝わってくる、
    「外へ出ない俺はつまらないか?」
    「そんなことない」
     これには即答できた。
    「助かってる。カ・デラや、ほかの留学生の教材も、作ってるのはあんたじゃないか」
    「……そうか」
    「なんだよ。不安になったのか?」
    「お前を煩わせてないかは不安だな」
    「俺? なんで?」
    「俺が若いやつになびけば満足か?」
    「ああ……」
     こだわるのか、と思った。
     だが、そうだ。
     グ・ラハは少し笑った。自嘲の混じった笑いだった。
    「俺が、あんたを引き留めてるんじゃないかと思ったんだよ。昔ほど、身軽じゃなくなったから」
    「それは違うな」
     冒険者は短く言った。
    「ただ、痛みにやられてるだけだよ。痛むと、お前を思い出す。お前がいたら、と思う」
    「……何もしてやれないだろ」
    「いてくれればいいんだ」
     応えは短く、明確だった。
     グ・ラハはぐっと呻いて、冒険者の体に頭を刷り寄せる。そうする以上に何もできなかった。頬が熱い。
    「わかった」
     何度も頷きながら、冒険者の手にそっと指を触れる。するり、と指が絡まった。
    「お前、明日の予定は」
    「休み」
    「よし。出かけるぞ」
    「どこに」
    「ラザハン。義足の調整に」
    「……付き合う」
     短く応じながら、絡ませた指を握ったり、離したりを繰り返す。そうして指先で戯れていられるのが、ひどく幸せだった。
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    ao510c

    DOODLEひろラハ習作。ラハ不在。ちょっぴり前作とつながりがある。ひろしが右足を痛めていてたまにすごく痛くなることだけ知っていれば読めます。
    マノーリン 黄色い風が吹いていた。乾いた風に砂が巻かれて黄色い紗のように見えるのだ。
     サファイアアベニュー国際市場では、広い通りの左右に並んだ露天商たちが慌てて品物を布で被う。色とりどりの毛織物がはためき、人の声がけたたましい。行きかう人々は顔を被い、足早に駆け抜けていく。そうしていても砂がかかるのは避けられない。冒険者の口にも砂は滑り込み、不快感が募った。
     珍しい風が吹く日だ。
     冒険者は顔をしかめ、路地へ入った。ひとつ奥の通りに入るだけで、少しばかり黄色い風から逃れられる。左右を埋めるのは石の壁。忌々しい砂を固めて作ったような色の石で、表面はざらついている。狭い路地を挟んで両脇に壁がそびえ立つため、空はひどく狭い。路地の狭さといったら、向かいの家の窓に紐を渡して洗濯物を干せる程なのだ。狭い空を洗濯物が被うと、この通りはさらに閉塞感を増す。とはいえ、今日は布を干した者はいないようで、紐だけが風に揺れていた。風は黄色い帯を描いて見える。見上げていると目にも砂が入りそうで、冒険者はうつむいて足を進めた。
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