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    ao510c

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    ao510c

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    フールク君生存ifです

    臆病 両足が地を離れた時、浮遊感がフールクをとらえた。
     奈落は深く続いていた。
     アルダースプリングスの奈落は、底が見えない。取返しなど、つく筈がない。
     瞬き一つの時を、永遠に感じた。
     靄の満ちる奈落へ転落しながら、フールクは目を閉じなかった。これが最期の勇気である。まばたきせず、これからたたきつけられる地面を見出そうと睨む。
     結局のところ、フールクに宿っていたのは勇気ではない。臆病だ。
     人はすぐ、もう二度と人を信じない、信じてたまるものか、と考える。
     これは臆病からくる思考である。
     また裏切られたらどうする。
     また罪を擦り付けられたら。
     自身が損なわれることを恐れるあまり、臆病になる。
     その臆病を覆い隠すための勇気……実際のところは、小さな獣の威嚇に等しいものが、フールクの全身にみなぎっていた。
     いま、臆病な勇気の鎧は砕け散って、赤裸のまま落下していく。崖からせりだす岩にぶつかって弾んだとき、笑いが漏れた。
     たとえばあの冒険者を信じていたら。
     いまの槍術師ギルドへ戻っていたら。
     違う道が開けただろうか。
     ありえない仮定だ。
     なぜならフールクは、彼らがたまらなく怖かった。得体のしれない存在に見えた。
     そして、今もまだそうだ。
     遠くに、高く鳴り響く笛の音。
     あれは、空を飛べるチョコボを呼ぶ音だ。
     そしていま、ほんのひと時。
     岩に続いて崖からせりだしたハンノキの巨大な根によって、フールクの落下は止まった。
     すでに数回、あちこちをぶつけた末の停止である。
     正直なところ、もう一度這ってこのまま滑り落ちていきたい。
     けれど、そうするだけの勇気が、もう残っていないのだった。
     やがてチョコボの羽ばたきを間近に聞いたとき、フールクの意識はすとんと落ちた。



    「丸くなった」
     冒険者に笑いかけられて、フールクはむっすり目をそらした。
     結局フールクは、槍術士ギルドに戻った。もちろん、一人分の盗みの罪を償った上だ。
     グリダニアに冷たい雨の降る日のことだった。
     今日もまた、ひやりとした空気の満ちる鬼哭隊詰所で、ギルドの面々が槍を振るっている。
     フールクも、つい先ほどまで彼らに混じって汗を流していた。手を止めたのは、イウェインに呼ばれたからだ。
     お前の後見人が来ている、と言うのだ。
     その言葉が示す人物は、たった一人である。
     瀕死の重傷を負っていたフールクをグリダニアの病院に預け、その後しばらく身元を保証してくれたのは、この冒険者とイウェインだ。
     そのまま槍術士ギルドに復帰することになった。
     もう一度やり直す機会が与えられた。
     また、そのチャンスをつかむ勇気が湧いた。
     振り返れば、イウェインは何度も手を差し伸べてくれていたのだ。
     彼の手をとる勇気が、フールクにはなかった。いまもまだ、半信半疑だ。
     それでもこのまま、やっていくのだろうと思った。
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    ao510c

    DOODLEひろラハ習作。ラハ不在。ちょっぴり前作とつながりがある。ひろしが右足を痛めていてたまにすごく痛くなることだけ知っていれば読めます。
    マノーリン 黄色い風が吹いていた。乾いた風に砂が巻かれて黄色い紗のように見えるのだ。
     サファイアアベニュー国際市場では、広い通りの左右に並んだ露天商たちが慌てて品物を布で被う。色とりどりの毛織物がはためき、人の声がけたたましい。行きかう人々は顔を被い、足早に駆け抜けていく。そうしていても砂がかかるのは避けられない。冒険者の口にも砂は滑り込み、不快感が募った。
     珍しい風が吹く日だ。
     冒険者は顔をしかめ、路地へ入った。ひとつ奥の通りに入るだけで、少しばかり黄色い風から逃れられる。左右を埋めるのは石の壁。忌々しい砂を固めて作ったような色の石で、表面はざらついている。狭い路地を挟んで両脇に壁がそびえ立つため、空はひどく狭い。路地の狭さといったら、向かいの家の窓に紐を渡して洗濯物を干せる程なのだ。狭い空を洗濯物が被うと、この通りはさらに閉塞感を増す。とはいえ、今日は布を干した者はいないようで、紐だけが風に揺れていた。風は黄色い帯を描いて見える。見上げていると目にも砂が入りそうで、冒険者はうつむいて足を進めた。
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