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    クシャナ@切り裂きの嫁が好き

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    支部に上げた「魔女とオッドアイ」「弟と姉と物理」と同じ世界線の続き物
    難産過ぎてとりあえずこっちに誤字脱字確認の為の投下

    小説家と姉と弟重厚な木材で誂えられた空間と明り取りの為の大きなガラス張りの吹き抜け。
    古びたスピーカーから流れる軽快なジャズは、散らかる喧騒をも軽やかなバックミュージックへと昇華させる。
    漆黒の液体から上る芳醇な香りは私の鼻先を楽しませてくれるだけでなく、難解な謎を解き明かすために稼働し続ける灰色の脳と、人に追われ疲れ果てた心を癒してくれる。
    目まぐるしい日常の束の間の休息。
    まさかこんな観光客で賑わう人目の多いサンジェルマン・デ・プレの喫茶店で、私が優雅にティータイムをしているとは追手はおろか世の名探偵達も思うまい。
    更に奴らの情報源である闇の男爵夫人(ナイトバロニス)は海の向こうの島国へと飛んでおり居ない事は確認済みだ。
    彼女さえ居なければ、情報は奴らに渡らずこの私を捕まえる事が出来る者など早々現れ―――…

    「犯人(ホシ)を確保したわ」

    落ち着いた女性の声が聞こえたと同時に、私の肩に繊手が置かれた。
    私が視線を上げると、窓ガラス越しに反転して映った女性が奇麗に微笑んだ。

    「鬼ごっこは終わりにしましょう、優作さん?」
    「………………はい……」

    本当に束の間の休息に終わった事に、優作はテーブルへと突っ伏した。


    +++++++


    「身体の方はもう大丈夫なようだね」

    世に名を響かせる推理小説家の工藤勇作は数歩後ろに立つ女性を振り返ると、話を振られた彼女は淡く微笑んだ。

    「えぇ。もう殆ど痛む事は無くなりました。優作さんと有希子さんのおかげです」

    彼女は妻の有希子が連れてきた女性だ。
    名をイリゼ・ブロンシュ。勿論偽名だ。
    有希子が言うには命を狙われているから助けてあげて欲しいと友人に頼まれ彼女を引き取ったようだった。
    白銀に輝く長い髪と透明と青い瞳をウィッグとコンタクトレンズで隠した彼女は、聞けば新一が追う世界的犯罪組織の元幹部だったと言う。
    組織でのコードネームはキュラソーと言ったらしい。
    事細かな詳細は聞かなかったが組織から逃げようとして殺されかけて、有希子の友人にギリギリのところで助け出され有希子に引き合わされたようだった。
    初めて彼女と顔を合わせた時は包帯どころかギブスも松葉杖も外れていなかった。
    あの時と比べると随分と顔色も良くなった。
    今は落ちた身体能力を元に戻すリハビリの途中だと言っていたか。

    「あの子の事も……ありがとうございます」

    そう言って微笑む彼女の笑みは柔らかい。

    「なに、我々も君達が居てくれるおかげで助かっているからね。Give and takeと言うヤツさ」

    彼女は優作の話を聞きながら、周囲を警戒しつつ優作を車へとエスコートし、優作が車に乗り込むと運転席側へとその身を滑り込ませた。
    やはりどこか身のこなしが一般人のそれとは異なる彼女に、優作は小さく苦笑した。
    車は滑るように走り出し、直ぐに雑多な観光地を抜け出す。
    アクセルの強弱のみの揺れる事も無い見事な運転技術に、これが本調子ではないと言うのだから末恐ろしいものがあるなと優作は思う。
    流れるように飛んでいく景色を眺めながら優作は口を開く。

    「……一つ、今後の参考のために聞いても良いかな?」
    「はい?」
    「どうやってあの短時間で私があそこに居る事が分かったのかな?」
    「あぁ、それはピン…いえ、アトゥが街中の監視カメラを使って足取りを追ってくれたんです。あの子、そう言うのがとても得意なので」

    なるほど、電子技術に長けた彼がバックアップし、潜入隠密に長けた彼女が自分を追ったと言うわけかと優作は特に驚くでもなく納得する。
    殆ど確認の様なものだ。
    文句などつけようもない役割分担。
    そして恐らく、それは組織でもそうだったのだろう。
    電子の麒麟児に瞬間記憶タレンテッドの天才。
    どう言った経緯で例の組織に足を踏み入れる事になったのかは優作の頭脳をもってしても理由を絞り込めないが、表の世界でも引く手数多の能力だ、後ろ暗い組織でもそれはもう重宝された事だろう。
    すぅ…と車が速度を落とし、住宅街にある一軒の屋敷の駐車スペースへと車は滑り込んだ。


    +++++++


    「ただいま」
    「おう、無事捕まったようだな」






    -------------
    イリゼ・ブロンシュ(irisé blanche):キュラソーの偽名
    アトゥ・ブロンシュ(atout blanche):ピンガの偽名



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