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    クシャナ@切り裂きの嫁が好き

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    いつものごとく唐突に始まって唐突に終わる
    これを支部に上げていいものか悩んだ結果こっちに投下

    #ベルモット
    vermouth
    #キール
    keel

    魔女と幻聴とゾンビその日、冷たい雨が降っていた。
    寂れた郊外のとある広大な敷地には、敷き詰められた灰色の石畳と白や灰色といった墓碑が並んでいる。そこは弔う縁者のない死者のための墓場だった。
    名すら刻まれぬ膨大な死者たちの墓の前を、喪に服した女がゆっくりとした足取りで通り過ぎていく。
    墓地の最奥、白くひときわ飾り気の無い墓石の前で女は脚を止め膝をついた。
    飾り気の無い墓石には『生年不詳~xxxx/xx/xx没』とだけ刻まれている。
    女は墓の前で目を閉じて暫く手を合わせ、ポツリと呟いてから目を開けた。

    「…全部…何もかも終わったわよ、キュラソー……」

    千の顔を持つ魔女、ベルモット、銀幕の大女優など幾多もの名を持つ女、シャロン・ヴィンヤードが静かに呟いた。
    何もかも終わった。
    半月ほど前に組織は壊滅し、主要メンバーの殆どが捕らえられ、あの方は死んだ。
    ベルモットことシャロンはCIAから潜入していたキール―――本堂瑛海の根回しの結果、CIAのエージェントとして生涯飼われる事を条件に、組織で犯した罪が執行猶予とされた。

    「それにしてもあの娘…遅いわね…」

    昨晩、零時も回ろうかと言う時間にキールからこの場で待っているようにと連絡が入り、随分と急な話だと文句を言うと、悪いことは絶対にないから待ってなさいねと押し切られ今に至る。
    待ち合わせの時間はとうに過ぎている。時間や約束ごとにきっちりしている彼女にしては、連絡すらとれないと言うのは珍しいことだ。
    着信を入れても出る気配は無く、LINEのメッセージも既読にならない。
    何かトラブルがあったと考えるべきか。
    ベルモットは立ち上がり、スピーカから吐き出される呼び出し音は変わらず話し中の音声のままで、次は誰に確認すべきか考えながら仕方なく通話を切ったその時だった。

    「こうやって自分のお墓を眺めるって不思議な気分ねぇ……キールなら…あぁ、今は瑛海か。瑛海なら眠気覚ましの珈琲を求めて自販機を探してゾンビみたいに彷徨ってるわよ。貴女は何か飲みたいものある?」

    突然背後からかけられた声に、ベルモットは驚きに肩を跳ね上げた。
    あとどこからか「誰がゾンビよ!」と言う声が聞こえた気もするがそっちの声は無視する。
    もう二度と聞くことはないと思っていた声。
    それがただの幻聴で、期待に振り向けばなにも居ないと言うことが恐ろしくて、後ろを振り向けない。
    振り向くのが怖い。
    千の顔を持つ魔女と言われた、この、私が怖くて振り向けない。

    「ベル?」

    すぐ後ろから声がするが矢張り振り向けない。
    心臓が破裂するのではないかと思うほど、早く大きく痛いくらいに鼓動する。
    このまま走ってこの場から逃げ出したい。
    けどそれ以上にこの心地よい声を聞いていたい。
    そんな色んな感情が一斉にベルモットに襲い掛かってくる。
    ベルモットは身を硬くし、ぎゅっと己の肩を抱き締めた。
    身を硬くしたベルモットを背後から見ていた人物が、ふと溜息をついて、コツコツと足音をさせながら背後までやってくる。

    「…ベル、怖がらなくても大丈夫。私はここにいる」
    「……」
    「だから、こっちを向いて?」

    優しく包み込むように言われて、逃げると言う選択肢を棄て、意を決してゆっくりと振り返った。





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