フィの養子になったファのフィガファウ「ファウスト。君は今日から俺の家族になるんだよ」
フィガロがそう声をかけると、ファウストのアメジストの瞳がゆらゆらと揺れた。
「かぞ、く……?」
「そう。……とは言ってもすぐに心の整理をするのは難しいだろうし、俺は君のお父さんになりたいわけでもないから、まずは心の治療を優先しようか」
心の治療、という言葉に、ファウストは不思議そうに首を傾げる。
「……僕は、治療が必要なんですか?」
「うーん、そうだね……。一般的には両親が亡くなったら悲しくなるものだと思うけど」
君は違うの?
フィガロがそう問いかけると、ファウストは再び首を傾けた。
「……分かりません。両親のことは好きだったと思います、けど……」
ほんの数日前、ファウストの両親は揃って交通事故で亡くなった。残されたファウストはまだ十二歳。親がいなければ生きていくこともできない年齢であるというのに、彼の瞳は少しも涙に濡れてはいなかった。
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