2023.02.01
意識がほんの少し浮上するちょうどの頃、不可思議な音が耳をくすぐった。敵意のない、その音の正体には覚えがある。この時間、ショコラは別室でおとなしくしてる。人の習慣をなぞる体の、腹の虫が鳴いたのでもない。聞こえたのは、来主が発する意味を成さない寝言だろう。
そっとまぶたを上げると、拳一つ分もない向こうに半開きの口があった。来主の寝相は大まかに二パターンあって、動くか、ちっとも動かないか。今日は動く方らしい。俺を抱え込むみたいにしながら、すやすやと眠りこけている。
「む……ぁう」
またなにか呻いた。続きを発しながら、寝返りを打とうとする体を抱き寄せる。意識をよそに置いているからか抵抗はない。ぽつぽつと発される音に意味を見つけたくて、もぞつく口へ耳を近づける。
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