2023.02.25
スキンシップは得意な方じゃない。自分からするのも、されるのも。
「こ〜〜〜うよう!」
「ゔっ」
それを伝えてからも、来主は構わず抱き着いてくる。俺にもかわそうってつもりはない。避ける方が痛い目を見たからだ。それに万が一、転んで怪我でもされたらたまらないし。
ランチタイムを終えたばかりで、一騎は総士の様子見で一時帰宅。店内には俺達しかいない。不得意と言っても、触れられて悪い気はしないのだ。来主もたぶん、人目がなければ引き剥がされないってわかっててやってる。痛いものは痛いのだけど。
「ぶつかってくるのやめてってば」
「えー?」
「えーじゃない。普通に話せばいいだろ。なんでやめないの」
「だって、ほら」
飛びついた勢いのままの指先が腹をくすぐる。抱き寄せられるほど力強くはないのがぞわっとくる。
「甲洋のおなかって薄いから。ちょうど手がまわせるんだもん」
「理由になってないんだけど」
俺が動かないのをわかっているから、もう一歩近づいた来主にますます密着される。きゅうっと脇腹をくすぐるように撫でられて、ちょっと声が出そうになる。
「ッ」
「甲洋? どしたの」
「べ、べつに」
俺ってこんなくすぐったがりだっけか。気を許すと敏感になりやすいとかどうとか。俺ってやつは、思考より体のが素直らしい。少しでも気取られないようにしないと。無駄な努力だろうけれど。
「……ふーん」
「……なに?」
読心がなくても、目を合わせれば大体伝わってしまう。だからなるべく来主を見ないように。泡につけた皿だって残りがあるし、おやつ時からの準備が終わってない。来主だけを構っている暇はないのだ。
「ううん。なんだか胸のあたりがふわってなったの。今の気持ちが「かわいい」ってやつなのかな?」
せめて誤魔化せるよう、表面くらいは店のことで埋めないと。そんな努力をたった一言で台無しにする。
手から滑り落ちた皿が水中を踊る。幸いメラミン製だから割れはない。助かった。
「ね、どう思う? 合ってるかな?」
一方俺は助からない。問いはしたけれど、こいつは絶対理解してる。
今の、一体どれを気に入られたんだ。さっぱりわからない。
「……自分で考えたら。来主の心なんだから」
「そうする。「かわいい」ね、甲洋」
同意はしない。でも、さっさと離れろって、一言目に言えない時点で負けている。