アイツは優等生みたいな顔をして、その癖沸点は俺よりも低くてすぐ手の出る奴だった。手だけじゃない、クソ真面目に呪霊の登録だってしてるくせに、それだってすぐに繰り出しては二人して夜峨先に怒られて。結局問題児だったのは二人ともだった。
けれど、同時にすごく優しい奴だった。甘党だなんだって人を笑うその口が紡ぐ言葉はいつだって甘っちょろくて、ガキみたいな理想を信じていた。意識しないで人を煽れるクズのくせに、人を守ることで自分が救われるような奴だった。「弱きを助け、強きをくじく」なんて、今日日小学生だって言わねぇんじゃねえの。普通の小学生がどうだなんて知らねェけど。
そんな奴だと知っていた。親しくもない、どうでもいい他人のために怒ったり悲しんだり出来る奴だった。全員を守るだなんて術師にはもちろん、最強の俺達にだって無理な話で、そんな理想なんて掲げていたら、すぐに折れちまうよ。保たないよ。イカれてなくちゃ生きていけないんだ、こんな世界。正気なんて捨てちまえ。
でも、俺達二人なら笑えるからさ。それでいいじゃん。十分だろ?
だけど、オマエはやっぱりオマエのままで。
諦めることもしなかったせいで、とんでもない方向に突き抜けちまった。バーカ。
無理に決まってんだろ。わかってんだろ、「馬鹿げた理想」って自分の口で言ってんだからさ。なら、止まれよ。止まってくれよ。
せめて「一緒に」って言ってくれればよかったのに、それすら言ってくれなかった。なあ、俺はオマエの中でそんなに軽かったの? は? ムカつく。
俺は、オマエの。
***
あの日の夢を見る。
周りの連中なんか全部おぼろげなのに、俺を見つめるオマエの目だけははっきりしてた。
あの時は言えなかった。
手も伸ばせなかった。
でもこれが夢なら、オマエにすがれるかな。
「他人のために生きるって言うなら、どうでもいい奴等の為にオマエが全部捨てるっていうなら、俺のために生きてよ」って。
せめて夢だけでも。目覚めたら逆夢だとしても。
そうしたら。
そうしたら、アイツは笑って。
「悟は一人で生きられるだろ」