Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    aka_dori

    @aka_dori

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 6

    aka_dori

    ☆quiet follow

    雨でびしょ濡れ黒曜の黒リン
    そのうち支部にも載せます

    #腐ラスタ
    rotatorCuffStar
    #黒リン
    blackPhosphorus

    びしょ濡れ黒曜 バイク乗りにとって天気の確認は大切な事前準備だ。昼頃に恋人宅に遊びにいく予定の黒曜は起きてすぐにお天気アプリを確認した。それは、もしも、天気が悪いようであれば予定変更の必要があるからだ。
     車と違い生身剥き出しで走る二輪車にとって視界が悪いというのは命取りだ。雨天時は晴天時の約五倍も事故が起きるというデートもある。その他の移動手段が潤沢な大都会で被害者にも加害者にもなり得る、そんなリスクを背負ってバイクに乗る必要はない。賭けるべきでないタイミングで命を賭けるのは愚か者のやることだ。
     それだけでも天気を把握することの重要性は十分だが、バイク乗りにとって天気の確認が重要な理由はそれだけではない。同じ二輪の乗り物でも自転車とは比較にならない速度が出るそれで雨の中を走るのは単純に寒いのだ。事故だけでなく、体調を崩す可能性まで上昇してしまう。まだスターレスのオーナー岩見だった頃に夕立に降られながら出勤して翌日見事に風邪を引いた経験がある黒曜はそれ以降同じ轍を踏まぬよう、出掛ける前に必ず天気を確認していた。
     昨晩テレビで見たときは晴れの予報だった。そして、今確認したものも、夜までずっと晴れマーク。なんなら、数日晴れが続くらしい。これなら、バイクに乗っても問題はなさそうだ。気温もあまり上がらないようだから、彼がいいと言えば後ろに乗せてどこかへ出掛けるのもいいだろう。恋人であるリンドウは誕生日に黒曜じゃらプレゼントされたヘルメットを収納場所に困った挙句、ネコメに与えられたぬいぐるみに被せている。そのせいで、同じチーム故にリンドウの側にいることが多い男からの贈り物を毎回嫌でも見てしまう。見るたびに「リンドウは俺のだ」と独占欲を刺激されている彼はできるだけ多く、ヘルメットに活躍の機会を与えてやりたくもあったのだ。
     今日のデートはバイクでお出掛けに決定だ。行き先は決まっていなし、リンドウの同意も取れていない。けれども、黒曜はすっかりその気になっていた。現在朝九時。今からシャワーを浴びて身支度を整えれば、十一時になる前には愛しい人の手を握れるだろう。昼頃に来てください、と言っただけで具体的な時刻は言わなかった。それを盾にして、やや早すぎる訪問を受け入れさせよう。黒曜はベッドから抜け出すと大きく伸びをした。

    ***

     天気予報は昨日からずっと晴れだった。念の為に出発する直前にチェックした予報も問題なかった。だから、安心してバイクに跨った。気温も高過ぎず低過ぎず丁度いいし、道路は空いているしで黒曜はとてもいい気分だった。更にこれからリンドウに会えるのだ。フルフェイスのヘルメットで隠れた強面は花のようにふわりと微笑んでいた。しかし、それが渋面に変わった。理由は交通渋滞に巻き込まれたからでも、事故に遭遇したからでもない。この世の中に百パーセントというもが存在しないせいだった。要するに、雨が降り出したのだ。

     あと十五分も走れば目的地だというところでゴロゴロと雷鳴が聞こえてきて、嫌な予感に背筋が震えた。間に合え、そう強く願ってみたが残念なことに間に合わなかった。無慈悲にも天からは一時間で五十ミリとか言われそうな、体に当たる雨粒が痛いくらいの大雨が降り出してしまったのだ。赤信号での停車中の赤い瞳には既にリンドウが住まうマンションが写っている。天気は操作できないと分かっていてもこの状況は悔しい。大きなネコのぬいぐるみに被された赤いヘルメットに活躍の場を与えてやれなかった。かれこれ二ヶ月の間あの場所から動いていないそれを思い浮かべると黒曜は大きな大きな溜息を吐いた。

     全身から水が滴った状態でエレベーターに乗るのは憚られたから、非常階段を使ってリンドウの部屋まで向かう。何故十階なんかに住んでいるんだ、と七階あたりで文句を吐いて、それでも低層階に住んでベランダから変なやつに忍び込まれるより自分の体力が削られる方がマシか、と考えを改めて頑張った。いくら美人で薄幸未亡人みたいでもリンドウだって成人男性だ。必要以上に過敏になる必要はない。けれども、前職や本人の危機感のなさのせいで黒曜はイチイチ色々なことが心配になってしまうのだ。そして、そんな可愛い恋人は黒曜が来る日は鍵を開けて待っている。それは本当にやめてほしいのだが、今日だけはありがたかった。
     いつもなら施錠されていないと知っていてもドアを開ける前にインターフォンを押して内側から扉が開けられるのを待つのだが、一連の動作を省略して中に入った。大雨にプラスで風まで吹いてきたせいで寒くて堪らなかったのだ。全身鳥肌が立って、夏の屋外だと思えない冷えっぷりに黒曜は軽くパニックになっている。
    「リンドウ!」
     玄関で名前を呼ぶと、バスルームの扉が開いてひょこっとリンドウが顔を覗かせた。身支度の途中だったのかTシャツとパンツしか着ていない。いつも通りの黒曜なら、その刺激的で間抜けな姿を揶揄っていた。けれども、今日の彼には無理だった。とにかく寒いのだ。寒い以外のことが考えられないのだ。彼はそんな切羽詰まった状況なわけなのだが、眼鏡もなければコンタクトもしていないらしいリンドウには赤い髪から滴る雫も逞しい体に貼り付く衣服も見えていない。「いらっしゃい。随分早かったですね」と言ったきり早く室内に来てくれ、と、口角を上げて待ち構えている。けれども、そのリクエストには答えてやれない。頭から爪先まで水浸しのまま人の家に入るなんてできないから。けれども、リンドウは黒曜が一歩も動かないでいることに気付かずニコニコしている。このままでは埒が明かない。
    「タオル取ってくれ。濡れた」
    「雨だったんですか?」
     降り出した頃に丁度シャワーを浴びていたため、リンドウは雨が降っていることを知らなかった。これは悪いことをしてしまった。慌てて玄関まで駆けつけると、
    寒さで唇を震わせる黒曜の頭にタオルを掛けてやった。

     背伸びをして、濡れた頭を拭いてくれる。けれども、髪はヘルメットを脱いでエントランスまで走ったときに雨を被っただけだから熱心に拭いてくれなくてもよかった。それより体が問題だった。指先は悴んで感覚がない。黒曜はタオルをこっちに寄越して欲しかった。拭いてくれるのは嬉しいが、そこじゃない。そう言いたかったが声を出す気力もない。
     眼鏡を掛けていないせいで黒曜の顔色が悪さが分からないリンドウはずっと髪を拭いてくれている。大切な人が風邪をひきませんように。と丁寧に仕事をしている。十センチメートル上にある頭を拭くのに難儀しているのは可愛らしいが、その仕事が完了するまで待っていられなかった。
    「悪ぃ」
     小さく呟くと、黒曜は風呂上がりでほんのり色付いている体を思い切り抱き締めた。

     抱き締めた体は温かかった。それでも、足りない。氷になってしまった体は触れ合う皮膚の温度だけではどうにもならない。早く温まりたい。自分の行動の身勝手さは理解しているが、黒曜は逃れようと暴れる体を力で抑えこむと薄桃色の唇に噛み付いた。体格でも腕力でも劣る相手を無理矢理捕まえて熱を奪うなんてどうかしている。けれども、今は許されたかった。寒さや驚きで細い腰がビクン、と跳ねる。それを可哀想に思っても止まれない。むしろ、もっと寄越せ、とここは蹂躙させまいと立ち向かってくる舌を己のそれで押さえつけて奥の奥まで貪ってしまった。
     
     深く長い口付けにやられて肩で息をするリンドウ。それを黒曜は抱き上げる。お姫様抱っこをされた王子様は何か言いたそうに口をパクパクしていたが、すっかり冷えてしまったせいか音は出てこなかった。落としてしまったタオルも服を着たまま踏み込んだせいで濡れる廊下もそのままにして黒曜は風呂場に突入した。

    ***

     シャワーを浴びて、洗濯機を回して、廊下を掃除し終わった頃には雨は止んでいた。リンドウは「晴れましたね」とカーテンを開けて喜んでいるが、腹が立つほどの青空にげんなりした黒曜は何も言わずにベッドに倒れ込んだ。サイドチェストでは件のネコが笑っている。
    「外、行きたかった」
     枕に顔を埋めて黒曜が言うと、彼の真似して寝転んだリンドウが「行きたいところがあったんですか?」と頭を撫でてくれる。子供扱いをされてるようで複雑な気持ちになってしまうが、最前の横暴を怒っている様子がないことには安心した。彼は平常通りの穏やかな青年だ。そうと分かると、まだ十二時前なのにすっかり疲れてしまった黒曜は恋人に甘えたくなってきた。スターレスでは絶対に見せられないが、ここでなら見せることができる気の抜けた姿。カーテンが空いているが、ここは十階だから外から見られることもない。
    「あれ、被らせたかった」
     撫でてくれる手を捕まえて、頭に押し付ける。もっと撫でろ、とアピールしながら空いている手でヘルメットを指す。その様子から彼にもう出掛ける気がないことを読み取ったリンドウは苦笑しながらここで願いを叶えようかと提案したが、バイクに乗らないなら被ったって意味はない。綺麗な顔が見えなくなるだけだ。
    「そうじゃねぇよ」
     大切な恋人が自分がプレゼントした、自分色のものを身につけて、後ろにくっついてくれるのがいいのだ。室内でヘルメットを被られたって面白いだけだ。それをわざわざ口にすることはなかった。言えばただのぬいぐるみにも嫉妬するほどの独占欲を相手に見透かされてしまう気がしたから。その代わり、温まった両腕でキョトンとしているリンドウを抱き締める。同じシャンプーを使ったのに、違う匂いがするのが不思議で緑の髪を嗅いでいると遠慮がちに背中に腕が回ってきた。何故か今もTシャツとパンツしか着ていないが揶揄う気はちっとも起きなかった。

     雨が上がって蒸し暑くなってきても離れるのは嫌だった。両者同じ気持ちだったようで五分ほど無言で抱き合っていたが、とうとう飽きたリンドウが口を開く。立派な胸板に顔が埋まる位置からモゾモゾ移動して目線を合わせるとニッコリ笑って自身の唇を人差し指で叩いた。その仕草だけで求められていることは分かる。けれども、甘えたい気分の黒曜はそれだけでは動かない。ちゃんと言葉にしないとダメだ。けど、できんのか?と口角を上げてみせる。するとリンドウは気圧されて怯んでしまった。彼は要求を口にすることがひどく苦手なのだ。けれども、豪雨にあって草臥れている黒曜が望むなら、と意を決すると涼やかでありながら悪魔の色気のこもった声で口付けをねだった。
    「黒曜、キスしてください。さっきみたいに意地悪じゃない、とびっきりの優しいキス」
     上出来だと思った。こんなに熱烈にお願いされたら叶えないわけにはいかない。黒曜の中にキスをしない選択肢はなかったが、素直に、しかも具体的に言ってくれるとは思っていなかった。そのせいで空に浮かぶ入道雲のようにやる気が湧き上がってくる。そして、求められるままに唇を重ねると、緑の瞳はトロリと蕩けた。

     豪雨が体を叩くのとは違った優しい音がする。舌を絡めて、唾液を混ぜあう音はクチャクチャと品がないが、黒曜の心を満たしてくれた。
     銀の糸が千切れて、熱い息が花びらを揺らす。見下ろした細い体は物欲しそうに膝を擦り合わせている。絶景だ。
    「黒曜、これから何をしましょうか? 雨に打たれながら来てくれたあなたのために、僕、なんだってしてあげたい気分です」
     随分曲がりくねった言い方だ。さっき、欲しいものは素直に言葉にしろと教えたばかりなのにこのザマだ。理性は慎ましやかにあろうとするくせに、本能のままに体が動く男、リンドウ。中身と器のギャップがあるのも味わい深くて素晴らしいが、こういうヤツを黒曜はいじめたくなってしまうのだ。
    「じゃあ、飯食うか」
     ベッドから降りてワザと彼に背を向ける。恋人が罠にかからなかったことにあたふたするのを背中で感じながら黒曜は喉の奥で笑った。
    「え、そんな展開になるんですか!?」
     起き上がったリンドウはそれでも望みを口にできない。結局、彼の覚悟が決まるより先に腹の虫が鳴ったため、二人は昼食を買いに外へ出た。空は悔しいくらい青く光っていた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😍😍😍😍😍😍
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works