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    みしま

    @mshmam323

    書いたもの倉庫

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    みしま

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    sioさんよりご依頼いただきました、リバVのビター風味なお話です。書かせていただきありがとうございました!

    ##エアスケブ

    ブラックドック・イン・ザ・レイン Vがホロコールに応答しない。別段珍しいことではない、急用というわけでもなし、仕事中なら出られなくとも当然だ。
     そうリバー・ウォードは思い、しかし胸騒ぎを無視することもできなかった。刑事時代から悪い勘ほどよく当たった。取り越し苦労であればとあってないような期待をしつつ、その足はナイトシティにいくつかあるVの自宅のひとつ、グレンのアパートへと向かっていた。
     エレベーターのスキャナーへ認証コードを送信し、上階へ上がる。コードは以前に訪れた際、Vから譲り受けていた。
     直通のドアが開くと、静かな室内がリバーを出迎えた。Vの姿は見当たらない。窓の外に広がる曇天のナイトシティを背景に、レコードプレイヤーから聞き覚えのある曲が小さく流れている。
     やはり仕事中だろうか。帰りを待とうか出直そうか、と思ったその時、床に落ちている赤い雫に気がついた。見まごうことなき、血液だ。
     入口から点々と落ちている血痕を追うと、ベッドとバスルームのある二階へと続いていて、さらにバスルームから引き返す水滴と交差して、狭いロフト部分へと向かっている。そして手すりの向こう、大きなクッションの上から力なく垂れたゴリラアームの腕が目に入った。
     リバーは息を呑んだ。無意識のうちに懐の銃を確かめ、慎重な足取りでロフトへ上がる。
     ロフトには作り付けの書架に無数のペーパーバックの山、救急キットの箱と床に散乱したエアハイポの空容器、赤い染みのついたタオルと、飲みかけで蓋の開いたままの酒瓶。それらに囲まれて、クッションの上で丸くなっているVの姿があった。
     身につけているのはショーツだけ。濃褐色の肩と脇腹には皺のよった止血パッドが貼り付けられている。幸い、緩やかな呼吸に合わせて胸が上下していた。
     シャワーを浴びたのか、相貌を隠す瑠璃紺の長髪が濡れている。リバーがそっと髪を払いのけると、目を閉じたVの横顔があらわになった。目元には疲れが見て取れるものの、顔つきは穏やかだ。
     その姿は、ともすればあられもない格好だというのに、怪我を追った野良ネコを彷彿とさせた。安全な場所に隠れて耐え忍ぶ、人馴れしていない生き物。
     けれど彼の人は逃げるでも爪を立てるでもなく、ほんのりと口の端とまぶたを持ち上げた。
    「ごめん、爆睡してた。来たのは気づいたんだけど、起きるの億劫でさ」
     『心配した』『驚いた』『連絡してくれれば』――リバーはつい口から突いて出そうになったあれやこれやをぐっと堪えた。出会ってからというもの、Vのお人好しのほどはもちろん、他人を頼ることを苦手としていることも思い知らされていた。それはもう、十分に。
     リバーはVの傍らへ膝をつき、止血パッドをめくってみた。銃創のようだが、出血は止まっている。その横にはエアハイポの注射跡が、まるでヘビの噛み傷のように二つ添えられていた。
    「怪我が多いくせに、手当がヘタクソだよな」
    「いいんだよ、もう塞がりかけてるし。それより鎮痛作用が効きすぎてて」
    「こういうときに飲み過ぎるのは――」
    「いや、酒じゃなくてウェアのほう。この前アップグレードしたばっかりなんだけど、調整が甘かったみたいでさ。あとでヴィクんとこ行かないとな。どこのリパー使ったんだ、ってグチグチ言われるだろうけど」
     ヴィク、とは度々その口に上るチャイナタウンのリパードクのことであろう。リバーは直接の面識はないのだが、Vの身を案ずる者同士として、つい同情の念を抱いてしまう。
    「それで、今回はどうしたんだ? 仕事か?」
    「ああ。いや、ええと、でも仕事中っちゃそうか。俺は静かにやってたんだけど、想定外の外野登場からのどんちゃん騒ぎに巻き込まれて。まあ、依頼は達成したし、不慮の事故みたいなもんだよ」
    「これが?」
     リバーはムッとしつつ、止血パッドを多少の力を込めてきれいに貼りなおしてやった。Vは痛みに顔をしかめつつ、「労災も追加報酬もないけどな」と軽い口調で返した。
    「いつか、これだけじゃ済まなくなる」
     ちょうど曲が終わったところへ、リバーの真摯な声色が響いた。そのあとに続く微かなホワイトノイズは、スピーカーからではなく外からだ。Vは雨が降っていることに気が付いた。
     雨のナイトシティは好きだ。暗くなった空にコンクリートジャングルが沈む一方、けばけばしいネオンが鮮やかに浮かび上がる。濡れた路面に乱反射する蛍光色。静けさと勘違いしてしまいそうな雨音。このろくでもない街をよりみすぼらしくも、美しくも見せてくれる。
     けれど同時に、あの夜を思い出す。チューマを失い、生と死が一転した、あの夜のことを。車窓に不規則な縞模様を描いて流れる雨粒。腕に張り付くシャツの感触。ジャッキーの死に顔。もしかしたら目を開くんじゃないかと、全部間違いだったんじゃないかと、つい無意味な期待をしてしまったことを。記憶に怪しい部分もあるが、そうした断片を妙に鮮やかに覚えている。
    「……かもな。でもこれ以上、ならもう経験済みだ」
     Vは皮肉な笑みを浮かべ、手で作ったピストルで自分の頭を撃つジェスチャーをした。リバーは何か言おうと口を開きかけ、しかしまた引き結んで、傷を止血パッド越しにさすった。
     下手な慰めや気休めでごまかそうとしない、そうしたリバーの実直さをVは気に入っていた。
    「ごめん、嫌味な言い方して。来てくれて嬉しいよ」
     ゴリラアームの手がリバーのクローム製の義手に重なる。手首から指の付け根を辿り、くるりと手首を返して、指先を絡めるように弄ぶ。血の通わない手と手が、しかし温もり以上のものを通わせて。
     リバーは手のひらを押し付けるように、Vの手を握り返した。
    「次は、返事くらいしてくれ」
    「『ただいま電話に出ることができません。トリプルAとニコーラを用意して、グレンの住所まで直接お越しください』」
    「腹減ってるのか?」
    「冗談だよ。来てくれただけで十分」
     本当は〈Relic〉の影響で体調もすぐれなかったのだが、それをリバーが知る必要はない。そう思いつつVが繋いだ手を引き寄せると、求めに応じてリバーがキスを返した。窓にあたる雨音が濃さを増す。
    《ピロートークにゃうんざりだ》
     窓際にデジタルゴーストが現れた。タバコと雨で乳白色にけぶる街並みを見下ろしている。
    《そう思うんなら引っ込んでろよ。それにまだヤってない》とVは頭の中で言い返した。
    《まだ、な》ジョニーは長々と煙を吐き出した。《いい加減、重いって言ってやれよ》
    《重い?》
     ジョニーはうんざりとVを見上げた。そしてリバーを。
    《重くなんてない。お前がイライラしてんのは、リバーが俺みたいのを気にかけてくれるようなイイ奴だからだろ》
    《糸の切れたカイトを追っかけて、やっと捕まえたと思ったらまたカイト自ら命綱を切るんだ。掴めなくなるまで、何度もな》
    《どうしろってんだ。俺にだって曲げられないこともある。お前が一番よく知ってるだろ》
    《それでどうなった? 俺の仲間は? ……クソみたいな結果の中でも、割を食うのは〝イイ奴〟ばっかりだ》
     『わかっている』と『余計なお世話だ』を、Vは言葉ではなく感情に乗せて返した。破滅型のテロリストとも古傷のあるインプットとも、失ったものの数で競い合うなんて馬鹿げたことをしたくはない。
    「なあ、本当に大丈夫か? 何かできることがあれば言ってくれ」
     ジョニーとの応酬に気を取られて、リバーからすればぼんやりと窓辺を見つめているだけのように見えてしまったのだろう。Vは彼を安心させるように微笑みを浮かべ、義手にキスを返した。
     ジョニーは小さく鼻を鳴らし、《沈黙が気まずいなら、BGMぐらいかけてやったらどうだ?》とタバコの火先でレコードプレイヤーを指し示した。Vがつられて視線をそちらへ向けた途端、亡霊は消え失せた。
     遠隔操作でレコードを再生すると、〈SAMURAI〉の『Black Dog』が流れ始めた。憂鬱から逃れられない男の曲。ジョニーの選曲か、と一瞬疑うも、単にアルバムの最初の曲が再生されたというだけだった。
     ジョニーに言われずとも、リバーが自分との将来を夢見ていると、薄々感じてはいた。そしてあるいは、その夢をかなえてやりたいと思っている自分のことも。
     けれどいつか、リバーは気づくに違いない。夢を共有したのではなく、ただ彼の夢を叶えようとしただけなのだと。だから例えリバーに見切りをつけられたとして、この手を離すことにためらいはないだろうということも。
     ただ今は、温もりを分かち合う夜が欲しい。目が覚めた時、隣で軽いいびきをかいて眠る姿があればいい。一緒にコーヒーを飲む朝がいとおしい。夢を追わずとも得られるものを、手放したくないと願うのはわがままだろうか?
     Vはジョニーのため息を聞いた気がした。
    「なあ、やっぱり腹減った」
     リバーはにっこりして、「よし。何か用意するから、まずはベッドに行こう」
    「なに? 血の匂いに興奮するタイプ?」
    「そうだな。血と硝煙と……バカ言うな。ちゃんとしたところで寝てくれって言ってるんだ」
     屈みこんだリバーの首に、Vは腕を絡めるように巻き付けた。そして慎重な足取りで階段を下りるリバーの腕の中、厚い胸板の上で揺れるペンダントトップをいじる。『首にキスマークをつけようとしたら、かわいい声をあげてくれそうだ。落っことされるかもしれないけど』などとくだらない企みにほくそ笑む。そうでもしないと、こらえきれなくなりそうだから。
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    みしま

    DONEiさん(@220_i_284)よりエアスケブ「クーパーからしょっちゅう〝かわいいやつ〟と言われるので自分のことを〝かわいい〟と思っているBT」の話。
    ※いつもどおり独自設定解釈過多。ライフルマンたちの名前はビーコンステージに登場するキャラから拝借。タイトルは海兵隊の『ライフルマンの誓い』より。
    This is my rifle. マテオ・バウティスタ二等ライフルマンは、タイタンが嫌いだ。
     もちろん、その能力や有用性にケチをつける気はないし、頼れる仲間だという認識は揺るがない。ただ、個人的な理由で嫌っているのだ。
     バウティスタの家族はほとんどが軍関係者だ。かつてはいち開拓民であったが、タイタン戦争勃発を期に戦場に立ち、続くフロンティア戦争でもIMCと戦い続けている。尊敬する祖父はタイタンのパイロットとして戦死し、母は厨房で、そのパートナーは医療部門でミリシアへ貢献し続けている。年若い弟もまた、訓練所でしごきを受けている最中だ。それも、パイロットを目指して。
     タイタンはパイロットを得てこそ、戦場でその真価を発揮する。味方であれば士気を上げ、敵となれば恐怖の対象と化す。戦局を変える、デウスエクスマキナにも匹敵する力の象徴。
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    recommended works

    みしま

    DONEリクエストまとめ③「コーポVがコーポのお偉いさんに性接待したあと最悪の気分で目覚めて嘔吐する話」
    ※直接的な表現はないのでR指定はしていませんが注意。
    ルーチンワーク ホロコールの着信に、おれは心身ともにぐちゃぐちゃの有様で目を覚ました。下敷きになっているシーツも可哀想に、せっかくの人工シルクが体液とルーブの染みで台無しだ。高級ホテルのスイートをこんなことに使うなんて、と思わないでもないが、仕事だから仕方がない。
     ホロコールの発信者は上司のジェンキンスだった。通話には応答せず、メッセージで折り返す旨を伝える。
     起き上がると同時にやってきた頭痛、そして視界に入った男の姿に、おれの気分はさらに急降下した。数刻前(だと思う)までおれを散々犯していたクソお偉いさんは、そのまま枕を押し付けて窒息させたいほど安らかな寝顔でまだ夢の中を漂っている。
     意図せず溜息が漏れた。普段に比べて疲労が強いのはアルコールの影響だけじゃないはずだ。酒に興奮剤か何か盛られたに違いない。こういう、いわゆる“枕仕事”をするときは、生化学制御系のウェアをフル稼働させて嫌でもそういう気分を装うのが常だ。ところが今回はその制御を完全に逸脱していた。ろくに覚えちゃいないが、あられもなく喚いておねだりしていたのは所々記憶にある。羞恥心なんかどうでもよくて、油断していた自分に腹が立つ。
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    みしま

    DONEリクエストまとめ⑤「ヴィクターとVがお出掛け(擬似デートのような…)するお話」。前半V、後半ヴィクター視点。
    晴れのち雨、傘はない チップスロットの不具合に、おれはジャッキーとともにヴィクター・ヴェクターの診療所を訪れた。原因ははっきりしている、昨日の仕事のせいだ。
     依頼内容は、依頼人提供の暗号鍵チップを用いて、とある金庫から中に入っているものを盗んで来いというもの。金庫は骨董品かってほど旧世代の代物だったから、目的の中身は権利書とか機密文書とか、相応の人間の手に渡ればヤバいブツぐらいのもんだろうと軽視していた。侵入は簡単だった。一番の障害は金庫自体だった。古すぎるが故のというか、今どきのウェアじゃほとんど対応していない、あまりに原始的なカウンター型デーモンが仕掛けてあったのだ。幸いにしてその矛先はおれではなく、暗号鍵のチップへと向かった。異変に気づいておれはすぐに接続を切り、チップを引っこ抜いた。スロット周りにちょっとした火傷を負いはしたものの、ロースト脳ミソになる事態は避けられた。それで結局その場じゃどうにもならんと判断して、クソ重い金庫ごと目標を担いで現場を後にした。フィクサーを通じて依頼人とどうにか折り合いをつけ、報酬の半分はせしめたから及第点ってところだろう。あれをどうにかしたいなら本職のテッキーを雇うなり物理で押し切るなりする他ないと思う。
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    みしま

    DONEリクエストまとめ⑥
    TF2で「デイビスとドロズのおちゃらけ日常風景」
    おちゃらけ感薄めになってしまいました。ラストリゾートのロゴによせて。※いつもどおり独自設定&解釈過多。独立に至るまでの話。デイビスは元IMC、ドロズは元ミリシアの過去を捏造しています。
    「今日のメニュー変更だって」
    「えっ、"仲良し部屋"? 誰がやらかしたんだ」
    「にぎやかしコンビ。デイビスがドロズを殴ったって」
    「どっちの手で?」
    「そりゃ折れてない方の……」
    「違うよ、腕やったのはドロズ。デイビスは脚」
    「やだ、何してんのよ。でドロズは? やり返したの?」
    「おれはドロズが先に手を出したって聞いたぞ。あれ、逆だっけ?」
    「何にせよ、ボスはカンカンだろうな」
    「まあ、今回の件はなあ……」

     そんな話が、6−4の仲間内で交わされていた。
     6−4は傭兵部隊であり、フリーランスのパイロットから成る民間組織だ。組織として最低限の規則を別とすれば、軍規というものはない。従って営倉もない。しかし我の強い傭兵たちのことだ、手狭な艦内で、しかも腕っぷしも強い連中が集まっているとくれば小競り合いはしょっちゅうだった。そこで営倉代わりに使われているのが冷凍室だ。マイナス十八度の密室に、騒ぎを起こした者はそろって放り込まれる。感情的になっているとはいえ、中で暴れようものなら食材を無駄にしたペナルティを――文字通りの意味で――食らうのは自分たちになるとわかっている。そのため始めは悪態をつきながらうろうろと歩き回り、程なくして頭を冷やすどころか体の芯から凍え、やがていがみ合っていたはずの相手と寄り添ってどうにか暖を取ることになるのだ。こうしたことから、冷凍室は〈仲良し部屋〉とも呼ばれていた。
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    みしま

    DONEリクエストまとめ⑦。Cp2077で死神節制ルート後。ケリーが「そうなると思ってた。Vはまったくしょうがねぇやつだよ」とジョニーを慰める話。
    ※エンディングに関するネタバレあり。なおスタッフロール中のホロコールを見る限りケリーは節制の結果を知らないようですがその辺は無視した内容となっています。
    アンコール インターカムも警備システムも素通りして“彼”が戸口に現れたとき、ケリーは思わずゾッとした。姿を見なくなってしばらく経つ。アラサカタワーの事件はテレビやスクリームシートで嫌というほど目にしてきた。だがその結末は? マスメディアの言うことなど当てにならない。噂では死んだともアングラでうまくやっているのだとも聞いた。けれど真相は誰も知らない。ならばとナイトシティ屈指の情報通、フィクサーでありジョニーの元カノ、ローグにもたずねてみた。返事は一言、「あいつは伝説になったんだ」。金なら出すと言ってはみたが、返されたのは立てた中指の絵文字だけだった。
     Vはいいやつだ。彼のおかげで――奇妙な形ではあったが――ジョニーと再会を果たすことができた。それに人として、ミュージシャンとして立ち直ることができた。もし彼がいなければもう一度、そして今度こそ自らの頭に銃弾をぶち込んでいただろう。大げさに言わずとも命を救われたのだ。だから生きていてほしいと願っていた。一方で、心のどこかでは諦めてもいたのだ。自分とて真面目に生きてきたとは言い難いが、重ねた年月は伊達ではない。起こらないことを奇跡と呼ぶのであって、人がどれほどあっけなく散ってしまうかも目の当たりにしてきた。Vの生き様はエッジー以外の何物でもない。もうそろそろ、読まれることのないメッセージを送るのも、留守番電話へ切り替わるとわかっていて呼び出し音を数えるのもやめにしようかと思っていた。だからその姿を目にしたとき、とうとう耄碌したかと落胆すらしかけた。
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