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    みしま

    @mshmam323

    書いたもの倉庫

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    みしま

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    八割さん(@hcwr326)よりエアスケブいただきました、『喧嘩クエのレイザー戦勝利後のVとヴィクの話』です。書かせていただきありがとうございました!

    ##エアスケブ

    十秒よりも長い夜 正しいボクシングのやり方など、ほとんど知らない。ジャッキーがヴィクに教わっていた時に少しかじった程度で、あとはコーポ時代に身に着けた護身術やナイトシティの流儀(つまり勝てば官軍)がせいぜいだ。
     対するは最上位モデルのケレズニコフにサンデヴィスタン、極厚の皮下アーマーその他高級車並みに金を注ぎ込んだ補助インプラントと、ステロイド生まれトレーニング育ちの自前の筋肉。アニマルズも垂涎ものの恵体だ。グロテスクと強さの境界を前に、当然ながら俺は気が立っていた。
     俺だってまずまずのウェアを積んじゃいるが、それにしたって経験も肉体的な基礎も違い過ぎる。一発でもまともに食らえば勝敗は決してしまうだろうから、とにかく避けて、手数で攻めるしかない。ヴィクターの助言通り、弱点である腹部めがけて数発叩き込む、避ける、叩く、避ける。以下繰り返し。そして最後に立っていたのは俺だった。

    「勝利に!」
    「勝利に」
     ヴィクと同時に祝杯をあおり、アルコールが咽頭を焼くに任せる。パシフィカの場末のバーにもかかわらず、客の大半は高い声とともに杯を掲げてくれた。耳の早い連中はすでに今夜の試合のことを知っているから、残りは事情など二の次で俺が一杯奢ったから。そうしたなか、客のひとりがチューマと手振り身振りをまじえつつ試合の再現をしていた。
    「シュッ、シュッ、シュッ! 傭兵の細腕が規則正しく三連撃を繰り出す!」
    「そこへレイザーが放つ即死級のアッパー、と思わせてのフック!」
    「危ういところでかわすヴィー!」
    「止むことなく続く拳とクロームの応酬に、互いのメモリ使用率が限界ギリギリを攻める……」
    「リングに立ち込めるのは煙か蒸気か。シュッ、シュシュッ! 白く濁った中を火花と汗が飛び散った!」
     そんなだったか? などというツッコミは野暮というものだろう。観客は大げさに語られる武勇伝を歓声と指笛で囃し立てている。当の俺はというと、自分のことなのにどこか他人事みたいな気分になっていた。
     試合中は考えている余裕なんかまるでなかった。手足がしびれを訴えていて、視界にはノイズが走り、打ったはずの拳が空を切る。ゾッとしたのも束の間、足元にはリングに倒れ伏すレイザーの姿があった。けたたましく鳴るゴングと歓声が脳まで達して、俺はようやく自分が勝ったのだと気が付いた。そして真っ先に振り返った先に、輝けるヴィクの笑顔があったのは妄想ではない、はず。
     厚い胸板へ飛び込まんばかりのハイファイブを思い出していると、ヴィクが俺の顔を顎先で示して言った。
    「痛むか?」
     俺は自分の頬に触れた。いつの間にかついていた擦過傷だ。たぶんレイザーが繰り出したパンチのうちどれかがかすった跡だろう。
    「名誉の負傷ってことで。あんなのまともに食らったら、顔かどうかもわからなくなりそうだ」
    「お前さんのかわいい顔が原型を留めていて何よりだ」
    「……ヴィク、酔ってる?」
    「少しな」とヴィクは琥珀色の揺れるグラスを軽く掲げた。「つい調子に乗っちまった。ペースを落とさんとな。オーガニックの肝胆膵が必死こいてるんだ」
     からかわれてるのか、ただ俺を心配してたってことを言いたいのか。いつものヴィクなら言いそうで言わない、(酔った勢いであれ)間違いなく出てきたセリフについドギマギして、俺は手の中の酒を一気に飲み干した。
    「マスター、おかわり!」
    「おうおう、見せつけんでもお前さんが若いのは十分知ってるよ」
     ヴィクは笑い皺をたっぷりにニコニコしている。クソ、俺ばかりが浮かれてバカみたいだ。悔し紛れに注ぎ足された杯を空にしようとあおり、しかし思い直して一口だけを流し込む。
    「今更だけど、まだ信じられない。まさか勝てるなんて」
    「俺は信じてたぞ」
     まただよ。やっぱり敵わない。「ありがとな。そりゃあ結果として勝てたけど、マジで際どかったんだ。ヴィクが来てなかったら半ラウンドだってもたなかったよ」
    「わかったわかった、それもう五回はきいたぞ」
    「そうだっけ?」
    「これも何度だって言うが、俺が出したのは口だけ。やり遂げたのはお前さんだ」
    「それは、そうなんだけど……実のところ、勝ち負けは二の次でさ」
    「フレッドの話は断っただろ?」
     俺はギクリとしてグラスの中身を揺らした。ヴィクが言っているのは、試合を手配してくれたフレッドからの提案のことだ。『試合に負けたら報酬に色をつけてやろう』と。つまりは八百長だ。そして俺は、珍しく金になる話を蹴っていた。レイザーを見くびっていたとか、フレッドに一泡吹かせてやりたかったとか――それはちょっとあるけど――そんな理由じゃない。
    「まあな。けど言いたくない。ガキみたいな理由だ」
    「お前さんはガキだよ」
     俺は少し笑った。「じゃあ言うけど、あんたのためだ」
    「俺の? アドバイスの礼なら散々……」
    「いや、やっぱり俺自身の理由だな。プロというか、まあ『元』プロだけど。とにかく、あんた前を前にしたらさ……カッコつかない試合はなんて見せられねえなって」
    「ヘヘ、よせやい。こっちのが恥ずかしくなっちまう」
     ヴィクの口元はグラスで隠されたけれど、まんざらでもない笑みを浮かべているのがわかる。やり返せたってよりただ嬉しくて、俺はニヤニヤが止まらなかった。
    「サンキュー、ヴィクター・ヴェクター! 俺の最高のセコンドに!」
     俺はカウンターに乗り上げんばかりの勢いで杯を掲げた。途端、耳に何か突っ込まれたような感覚と耳鳴りがして、ついでに頭と胸が締め付けられるように痛んだ。ガラスの砕ける音。カウンターに肘をしたたかに打ち付けて、ビリビリとしびれているところに銀腕の幻覚が重なって見える。
    「V、おい、大丈夫か?」
     マスターが迷惑そうに見下ろし、客たちがゲラゲラ笑う中、ドクター・ヴェクタ―だけが俺を心配そうに俺の肩を抱いた。俺は垂れかかった鼻血を手で拭って、頭痛を堪えながら首を縦に振った。ジョニーの幻影こそ見えないが、やつのため息と呆れ具合がダイレクトに伝わってくる。クソ、もうちょい我慢しろよ。
    《ひとを早漏みてえに言いやがって。どうにかできるもんならとっくにやってる》
    《お前が運転中、こっちは手出しできないのに。不公平だ》
    《ッハ! 平等を語ろうって? この街で? お前は何を見てきたんだよ》
    《チクショウ、今晩ぐらいはただ気分良くいたかっただけなのに》
    「《俺だってな、祝い酒に水を差すほど野暮じゃねえ》」
     やっちまったと気づいたのは、そのセリフを言い終わってからだった。ジョニーの言葉が、俺の声帯と口に同期してしまってから。誤魔化す? ヴィクの前で? 手遅れだ。
     うつむいて唇を噛みしめていると、ヴィクターは俺の肩を叩いて言った。
    「飲み過ぎだな。そろそろ出よう」
     口調はさりげないのに、サングラスの奥には有無を言わさぬような目つき。俺は具合が悪いのも相まって、ヴィクに促されるがまま席を立った。
     
     半ブロックも行かずに、俺は路端の植え込みに酒とつまみと胃液のミックス肥料を与えていた。なっさけねえな、俺なら何ガロンか上乗せしたって下からどうちゃらこうちゃらとのたまう幻聴を聞き流しながら。背中をさすってくれる広い手の心地よさを思えば、亡霊のクダも多少の胃痛にも耐えられる。
     落ち着いてきたところで、「ちょっと待ってろ」と言いおいてヴィクは通りの向こうへと渡っていった。俺は手近なベンチに腰かけた。にじり寄ってきた眠気とジャブを打ち合っていると、足元に丸々とした影が落ちた。
     顔を上げると、大きな人影が三体。首がなくなるほどに発達した僧帽筋と、詰め込みすぎたクロームのせいでツギハギみたいに見えるリアルスキン。どこからどう見てもアニマルズの下っ端だ。
    「おいアンちゃん、そこの使用料は払ったか?」
    「使用料?」
    「ここが誰のシマかも知らねえわけじゃねえだろ。有り金出すか、ケツ出すか選びな」
     出すケツはないが、試合の賞金のおかげで懐事情はホカホカだ。だからってこんなことにヴィクと勝ち取ったものを使いたくもない。
    「悪いが今日は勘弁してくれ。酒代が足りないならそこのバーに行け。Vにきいたって言えば、最初の一杯はおごりだ」
    「ハァ?」
    「おい、Vって、例の試合の……」
     お仲間は眉をもたげた。「ってことは、こいつをヤればレイザーに勝ったも同然ってことじゃねえか」
    「アッハ! マジかよ!」
     マジかよ。《さすが、脳までステロイドの詰まった連中だ》と嗤うジョニー。確かに、連中にしたらいくら相手が一夜の有名人だろうと、こうも具合が悪そうならエディーの詰まったピニャータに変換されてしまうらしい。
     なら手段は選ぶ余地もない。サンデヴィスタンの発動タイミングを見計らっていると、取り囲む巨体の向こうから重いブーツの足音が近づいてきた。
    「おい」
     低い声に脳筋ダルマズが振り返る。そこにはリアルウォーター炭酸入りの瓶を手にしたヴィクの姿。街灯の逆光の中、サングラスの奥から眼光鋭く睨め上げている。鍛えられた太い二の腕がぐっと張り詰めていて、ただ立っているだけなのに、一歩たりとも引く気配はない。
    「何だジジイ」
    「俺のツレに何か用か?」
    「先客がついてたとはな。ワリぃけどちょっと順番譲ってくれねえか、なあ?」
     三バカのひとりが覆いかぶさるようにヴィクをのぞき込む。ヴィクの弾丸ストレートが先か俺が回り込むのが先かというところで、別の奴が「アッ!」と声を上げた。
    「あんた、ドクター・レクターか?」
    「誰だよ?」
     誰だよ。《ハンニバル・レクター。知らねえのか?》いや知らねえよ。《これだからケツの青いガキは》
     ジョニーを無視して、俺はたまらず口を挟んだ。
    「ドクター・ヴェクター。街一番のリパーにして、俺のセコンドだよ」
    「そうそう、ヴェクターだ。ほら、ウインドエステートの、埠頭のグレイソンを治したって」
    「ああ、あの! そういやランディも世話になったらしいな」
     そうしてなんやかんやでヴィクは三バカをなだめ、俺の財布もケツも守ってくれた。というか、連中の命を救った。まさか流血沙汰を避けられるなんてと感心しつつ、俺は蚊帳の外で見守るほかなかった。
     やがて三バカをバーへ追い立てたヴィクが戻ってきて、俺に少しぬるくなったリアルウォーターを差し出した。
    「体調は?」
    「もう平気。ありがとな」
    「助けなんぞいらなかっただろ?」
    「とんでもない。死亡者数クイズから三人は減らせたんだぜ。それにしてもヴィク、あんたパシフィカでも顔が効くんだな」
     ヴィクは肩をすくめた。「たまの出張サービスでな。違法クロームを自称リパーに山と積んでもらって、それで不具合が出た時は誰に頼ると思う?」
     なるほど、と俺はうなずいた。サイバーサイコシスを発症するぐらいなら、エディーをはたいて本物を頼る方を選ぶ。それが腕利きで、良心的であるならもっといい。
    「ヴィクが味方で良かったよ」
    「だからって、あっちこっちで敵を作るなよ」
    「あんたの仕事が増えていいだろ?」
    「お前さんだけで手いっぱいだ」
    「へへ」
     車は、とヴィクが問うてきた。俺は首を振った。だってこのままワトソンに戻ったら、ヴィクは俺を問答無用で診療所の椅子に縛り付けて、徹底的なスクリーニングと、ついでに可能な範囲の延命を施すだろう。なら今のうちに、今夜をほんのちょっとでも長引かせたい。
     二人並んで、夜明け間近の堤防沿いを歩く。多少の生臭さを我慢すれば、頬を冷やす海風が心地よい。ナイトシティの喧騒を背景に、タプタプと堤防を叩く波音。ちょっと下をのぞき込むと、真っ黒な水面が揺らめいている。日の出を知らない海に、ナイトシティの夜が沈んでゆく。
    「何を考えてる?」
     その問いに、俺はいつの間にか数歩後ろにいたヴィクを振り返った。その横で胸壁に腰かけたジョニーが脚をブラブラさせているのが見えて、ついふざけた答えを返そうかとも思った。でもヴィクの顔を見て、やめた。
    「色々だよ。買い物リスト。コーポ勤めだったときのこと。ムカつく頭の住人。さっきの試合。あんたとジャックの12ラウンド」
    「それ、どっちに賭けたんだ?」
    「どっちだと思う?」
    「俺だろ。お前さんは見込みが薄いほうに賭けたがる」
     ほらな、やっぱりかなわない。でもヴィクに賭けたのは見込み薄だったからじゃないんだぜ。
     突如として差した眩しい光に二人して振り向くと、遠くの発射台からロケットが白い煙の尾を引きながら天へと昇って行くところであった。少し遅れて、エンジンの重低音が微かに届く。月か火星か、あるいはクリスタルパレスにでも向かうのだろう。それを見送って、俺たちはまた歩き出した。
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    みしま

    DONEiさん(@220_i_284)よりエアスケブ「クーパーからしょっちゅう〝かわいいやつ〟と言われるので自分のことを〝かわいい〟と思っているBT」の話。
    ※いつもどおり独自設定解釈過多。ライフルマンたちの名前はビーコンステージに登場するキャラから拝借。タイトルは海兵隊の『ライフルマンの誓い』より。
    This is my rifle. マテオ・バウティスタ二等ライフルマンは、タイタンが嫌いだ。
     もちろん、その能力や有用性にケチをつける気はないし、頼れる仲間だという認識は揺るがない。ただ、個人的な理由で嫌っているのだ。
     バウティスタの家族はほとんどが軍関係者だ。かつてはいち開拓民であったが、タイタン戦争勃発を期に戦場に立ち、続くフロンティア戦争でもIMCと戦い続けている。尊敬する祖父はタイタンのパイロットとして戦死し、母は厨房で、そのパートナーは医療部門でミリシアへ貢献し続けている。年若い弟もまた、訓練所でしごきを受けている最中だ。それも、パイロットを目指して。
     タイタンはパイロットを得てこそ、戦場でその真価を発揮する。味方であれば士気を上げ、敵となれば恐怖の対象と化す。戦局を変える、デウスエクスマキナにも匹敵する力の象徴。
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    みしま

    DONEリクエストまとめ③「コーポVがコーポのお偉いさんに性接待したあと最悪の気分で目覚めて嘔吐する話」
    ※直接的な表現はないのでR指定はしていませんが注意。
    ルーチンワーク ホロコールの着信に、おれは心身ともにぐちゃぐちゃの有様で目を覚ました。下敷きになっているシーツも可哀想に、せっかくの人工シルクが体液とルーブの染みで台無しだ。高級ホテルのスイートをこんなことに使うなんて、と思わないでもないが、仕事だから仕方がない。
     ホロコールの発信者は上司のジェンキンスだった。通話には応答せず、メッセージで折り返す旨を伝える。
     起き上がると同時にやってきた頭痛、そして視界に入った男の姿に、おれの気分はさらに急降下した。数刻前(だと思う)までおれを散々犯していたクソお偉いさんは、そのまま枕を押し付けて窒息させたいほど安らかな寝顔でまだ夢の中を漂っている。
     意図せず溜息が漏れた。普段に比べて疲労が強いのはアルコールの影響だけじゃないはずだ。酒に興奮剤か何か盛られたに違いない。こういう、いわゆる“枕仕事”をするときは、生化学制御系のウェアをフル稼働させて嫌でもそういう気分を装うのが常だ。ところが今回はその制御を完全に逸脱していた。ろくに覚えちゃいないが、あられもなく喚いておねだりしていたのは所々記憶にある。羞恥心なんかどうでもよくて、油断していた自分に腹が立つ。
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    みしま

    DONEリクエストまとめ⑤「ヴィクターとVがお出掛け(擬似デートのような…)するお話」。前半V、後半ヴィクター視点。
    晴れのち雨、傘はない チップスロットの不具合に、おれはジャッキーとともにヴィクター・ヴェクターの診療所を訪れた。原因ははっきりしている、昨日の仕事のせいだ。
     依頼内容は、依頼人提供の暗号鍵チップを用いて、とある金庫から中に入っているものを盗んで来いというもの。金庫は骨董品かってほど旧世代の代物だったから、目的の中身は権利書とか機密文書とか、相応の人間の手に渡ればヤバいブツぐらいのもんだろうと軽視していた。侵入は簡単だった。一番の障害は金庫自体だった。古すぎるが故のというか、今どきのウェアじゃほとんど対応していない、あまりに原始的なカウンター型デーモンが仕掛けてあったのだ。幸いにしてその矛先はおれではなく、暗号鍵のチップへと向かった。異変に気づいておれはすぐに接続を切り、チップを引っこ抜いた。スロット周りにちょっとした火傷を負いはしたものの、ロースト脳ミソになる事態は避けられた。それで結局その場じゃどうにもならんと判断して、クソ重い金庫ごと目標を担いで現場を後にした。フィクサーを通じて依頼人とどうにか折り合いをつけ、報酬の半分はせしめたから及第点ってところだろう。あれをどうにかしたいなら本職のテッキーを雇うなり物理で押し切るなりする他ないと思う。
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