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    3/19 第40回『ロマンチック』
    #轟出ワンドロワンライ

    ※本誌 🐰くんのデート観念が入っています。

    「緑谷くんが好きだと自覚ありだけど言葉が足りない🍰くん」と、「無自覚で🍰くんのことが好きな🐰くん」です。切なめかもしれません。

    #轟出
    bombOut

    「恋人って、どんなことするんだ?」

    いつだったか、轟くんがこんなことを聞いてきたことがある。
    僕たちは顔を見合わせ、うーんと考え始めた。

    「うーん、やっぱりデートちゃうかな?」

    と、麗日さん。

    「そうだな!交際といえば、デートのイメージだな!」

    直角に曲げた腕を振りながら言ったのは、飯田くん。

    「デートって、具体的にはどんなことするんだ?」

    と、首を傾ける轟くん。

    「……なあ、緑谷。どう思う?」

    僕はデートをしたこともないので、即答できないなと思っていた。
    なのに、僕にわざわざ振ってくるから、轟くんは少し意地悪だと思う。

    「うーん、そうだなぁ……例えば、遊園地に行って観覧車乗ったり、仲良くクレープ半分こしたりとかかな……分からないけど」

    想像・捏造・妄想100%の僕の答えを言うと、麗日さんが「ぶふー!」と吹き出した。

    「えっそんな変なこと言った」
    「ううん、違うのごめんね!デクくんって、すごいロマンチストなんやなって」
    「ええー!何それ恥ずかしい!っていうか、すっごく笑ってるじゃん!」

    ちゃうちゃう!笑ってない!と言いつつも、「クレープハンブンコ」とつぶやき続ける麗日さんに、「緑谷くんのデート観を笑うのは失礼だぞ、麗日くん!」と真面目に返す飯田くん、そしてこの状況の元凶でもある轟くんは、

    「いいじゃねぇか、ハンブンコ。楽しそうだ」
    なんて、優しく笑うから、なんだかほっとした僕。

    日常の雑談、他愛ない話だったから、僕はすっかり忘れていた。



    「緑谷、今度の日曜空いてるか?」

    夕飯の後、突然、轟くんが尋ねてきた。

    「うん。特に用事はないけど、どうしたの?」
    「……付き合ってほしいんだ」
    「いいよ!どこに?」
    「……っ、いいのか!場所と時間は後で携帯に送る」
    「うん、分かった。待ってるね」

    これが一昨日のやりとり。


    「緑谷、クレープ半分やる」
    そして、これが今。

    携帯に送られてきたのは、遊園地の情報だった。

    轟くん、よっぽど遊園地に行きたかったんだなぁ……。
    子どもの頃、監禁されるように個性の修行をしていたから、こういった場所に憧れがあるのかもしれない。
    せっかく僕を選んでくれたんだ、轟くんが楽しめるように全力でサポートするぞ!と意気込んでいた。

    ところが、いざ遊園地に着くと終始興奮していたのは僕だった。

    「えっオールマイトコラボのアトラクション」
    「ああ。今日かららしい」
    オールマイトカラーに塗られたアトラクション、オールマイトの音声ガイド、パネル展示、園内のカフェにもコラボ商品が並んでいる。

    「最近忙しくて、オールマイトのコラボ情報見逃してたんだよね!ありがとう轟くん!今日来られてよかったよ!」
    「……そうか。よかった」

    轟くんが、ふわっと花が綻ぶような優しい顔で笑うから、周りの女の人たちが何人か気絶していた。

    そうして、夢中になってオールマイトコラボと名の付くものは制覇していって、小休憩。

    売店のクレープ屋さんで、僕はこの状況の違和感にやっと気づいた。

    ちなみに、先程、轟くんがくれたクレープは、僕がどっちにするか迷った内の1つだ。

    こっちも食べたいし、でもこの限定の味も気になるし……とブツブツ悩んでいたら、「味違うの買って、半分こしたらいいんじゃねぇか」なんて言ってくれるから、「名案だね!」なんて僕も返しちゃったけど。

    冷静に考えて、友人は、遊園地に来て、仲良くクレープを半分こするのだろうか?

    手には、綺麗に半分に分けられたオールマイトコラボクレープ。

    頭には、轟くんとお揃いの遊園地キャラクターの耳付きカチューシャ。

    ちなみに、これは、「あれ、付けねぇか?」と聞かれ、「えっ!さすがに僕は恥ずかしいよ、似合わないし」と言えば、「緑谷に似合うと思ったのに……」としゅんとされ、その顔に負けてしまった僕が「遊園地にいるあいだだけね!」と、つい頷いてしまった流れである。

    あれ?これ?高校生男子二人の休日の過ごし方であっているのだろうか?

    僕も、轟くんも、友達は多い方ではない。
    だから、友達との距離感や、一般的な男子高校生がどんなことをして遊ぶのかがイマイチ分かっていないところがある。

    「食べたら、あれ乗らねぇか」
    ふいに轟くんが指差したのは、オールマイトカラーになっている観覧車。

    ……観覧車?

    突然、頭の中の記憶が再生される。
    『例えば、遊園地に行って観覧車乗ったり、仲良くクレープ半分こしたりとかかな』

    この発言の後、麗日さんに吹き出されてしまうのだが、これには続きがある。

    『僕、ロマンチストのつもりはなかったけど……確かに、観覧車乗って景色見るのはロマンチックかもね』

    言った、僕、言ってるよ!!
    もしかして、これってデートなの?
    なんで僕と?

    混乱してるうちに、観覧車に乗る番が回ってきてしまった。


    「……ねえ、どうして遊園地に来たの?」

    ゆっくりと揺れながら上がるゴンドラの中。
    差し込む夕日に当たる轟くんは、最高にキマっていた。
    イケメンは何でも画になるからずるいのだ。

    「緑谷と行きたかったから」

    僕と?行きたかったから?
    なんで?

    いっぱい質問したかったけれど、声に出ることはなかった。
    窓の外を目を細めて優しい目で見ている轟くんを見ていたら、それ以上の質問は野暮な気がしたからだ。

    出会ったころは、あんなに憎しみを湛えた目をしてたのに。

    僕や、クラスのみんなとの関係も随分変わった。
    雰囲気もぐっと和らいだ。
    元々格好よかったけれど、そこにぽやっとしていることも相まって、他クラスからも注目の的となった。
    今では、年上年下関わらず、告白が相次いでいるらしい。


    ……ああ、そっか。
    これは、恋人ができたときの予行演習か。
    急に閃いた結論に、すごく納得した。
    予行演習と伝えるのが憚られて、ストレートにお願いされなかったのかな。
    そうだ、きっとそうだ。

    もう、ここで僕は思考を停止させた。
    だって僕は、柄にもなくこのデートごっこにうきうきしていたのだ。

    オールマイトコラボでテンションが上がったのももちろんだったけれど、きっと、轟くんといるから楽しかったのだ。


    「お。そろそろ頂上だな」

    もうすぐゴンドラは下がって、地上に戻ってしまう。
    この時間が終わってしまう。
    急に寂しくなってしまって、観覧車がこのまま止まってくれないかなあなんて、馬鹿げたことを考えていた。

    その頭の片隅では、「轟くんがそんな人を利用するようなことを黙ってするかな?」とか、「本当に予行演習のつもりなら、轟くんはストレートに頼んできそうなのに変だ」とか。

    さらに言えば、「本当は、僕をデートに誘ってくれたんじゃないか」とか。

    何となくだけどその解釈は、自分にとって都合が良すぎる気がしてしまった。
    それ以上考えると、何かが崩れてしまう気がしたので、やっぱり考えるのを止めた。

    「轟くん。せっかくだし、記念写真でも撮っておこうか」

    せめて、画像の中にこの時間を縫い止めよう。
    ざわざわと落ち着かない気持ちごと閉じ込めたくて、僕は携帯を取り出した。


    🌟
    「緑谷が変だ」
    「ア"ァ?」

    つい漏れ出てしまった言葉に、反応したのは彼の幼馴染みだった。

    放課後の共有スペース。療に帰って来たメンバーがぽつぽつ座っている。
    でも、わざわざ緑谷という言葉に反応するあたり、この幼馴染たちは何だかんだ言いつつ、お互いの存在を気にしているんだろう。
    緑谷に気にされてるなんて、正直ちょっと羨ましい。

    「変なのはテメェの方だろうが!」
    「……?俺は普通だが」
    「ダァーーッ!ウゼェ!」

    爆豪は、手元を爆発させながら俺に説明してくれた。

    「さっきから携帯でずっと見てるのはなんだ!」
    「この前、観覧車で撮った写真だ。可愛いだろ、緑谷」
    「じゃあ、そのロック画面のやつは?」
    「……」
    「目線がカメラに合ってねぇなァ?」
    「……共有スペースにいた時に撮ったやつ」
    「それを盗撮って言うんだ、覚えとけ!」

    爆豪はバーンと机を叩いた。

    「ンで、その気色悪ぃ写真を見てはニヤつき、見てはため息をつきを繰り返してるのがテメェだ!」
    「お、そんなに顔に出てたか」
    「顔に出てるってレベルじゃねぇ!自覚しやがれ!」

    大きな声で爆豪が話すもんだから、騒ぎを察知して、切島や瀬呂、上鳴が「何、何?」と近づいてきた。

    「わりぃ、緑谷と付き合えて嬉しいって気持ちと、でも今は付き合う前より距離ができた気がしてて……」
    「待て待て待て、轟」
    「情報量が多すぎる」
    「俺たちを置いていくな」

    後から来た3人が一斉に止めた。

    「順を追っていくぞ。お前は緑谷と付き合ってるのか?」
    「ああ。付き合ってる」

    このあたりで、爆豪が部屋中に爆発音を響かせていたが、気にしないことにした。

    「えっ俺、全然知らなかったんだけど!皆知ってたの?」
    「知らん」
    「俺も初耳。いつから付き合ってるんだ?」
    「先週。日曜日に遊園地に行ったぞ」

    デートか!羨ましい!いや、でも相手は女の子じゃないぞ!クラスメートだ!と叫びながら、上鳴はのたうちまわった。

    「……もしかして、お前も緑谷と付き合いたかったのか?」
    「違ぇよ!どうしてそうなるの」
    「……?わりぃ」


    「で、何て言って告ったわけ?」

    落ち着こう、みんな一旦落ち着こうと言いながら、瀬呂が茶を淹れてくれた。
    上鳴、切島、瀬呂、俺で一斉にすすって、ふぅっと息を吐いた。

    「ふつうに、付き合ってほしいって」
    「おお!直球勝負!いいじゃねぇか!」

    切島がニコニコとしている。

    「で、緑谷は何て?」
    「『いいよ』って言ってた。可愛かった」
    「なんなん?ちょいちょい惚気挟まっていく感じ?」

    上鳴が言ったが、惚気というのがイマイチ分からなかった。

    「すぐにどこに行くか聞いてきたから、遊園地に行った」
    「ん?」
    「え」
    「お?」
    「……何か変なこと言ったか?」

    突然3人の表情が固まった。

    「……“どこに”付き合うか、聞かれたんじゃねぇのか?」
    なんだかんだで遠くのソファーに座って聞いていた爆豪がぼそりと言った。
    3人は、納得したように「あ~」とつぶやく。

    「轟、お前のアツい想い、伝わってねぇかもしんねぇ」
    「切島?」
    「いや、確実にそうだろ」
    「どういうことだ、瀬呂」
    「悪いことは言わねぇ、告ろ?」
    「やっぱり上鳴も緑谷を狙って……?」
    「話聞いてた!?何で俺だけそういう扱い!?」

    「おめェは言葉が足ンないんだよ」

    爆豪はそう言って、共有スペースを出て行った。

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