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    轟出ワンドロワンライ「傘」
    どうしても書きたくて、1時間なんて優に超えてしまった物。書きかけです。

    別れてる(と思っている)緑谷くんの描写から始まります。

    #轟出
    bombOut

    ライラックの雨その日、傘を持っていたのは、轟くんだけだった。
    走って帰ると告げる僕に、一緒に入ろうと声をかけてくれた。

    僕はほとんど雨に濡れなかったけれど、君の肩はぐっしょりと濡れていたのを知っている。
    それを僕に言うことなく、当たり前のように傘を僕に傾け、自分は肩を濡らしている。

    そんな風に、君は優しい人だから。

    「別れよう、轟くん」

    僕のこのセリフは、正解だったと思うのだ。





    「……雨が降りそう」
    「え、マジ?今から?」

    思わず返ってきた言葉に、自分が声に出していたのだと気づいた。

    「雨の匂い、しませんか?土とコンクリートが湿ったような」
    「うーん、そうなのか。まだまだ嗅覚が鈍いな、俺は!ははっ!」

    人の好い先輩は、自分が分からないことも決して否定しない。
    この人も、優しいなと思う。

    雄英高校を卒業し、この事務所に入って約1年。
    やっとヒーローの仕事、日々の業務を飲み込み始めたところだ。

    ヒーローの仮免許をとっていたとはいえ、まだ「プロ」としては1からのスタートだった。
    そんな僕にあてられた教育係が先輩だ。

    「さっ、今日もパトロールに行こうか!仕事終わったら飲み会もあるしな」
    「はいっ!」

    切れ長の目元がどことなく似てるなとか。
    ストレートでサラサラの髪を目で追ってしまうな、とか。

    しばらく会ってない彼との共通項を見つけては、本物を思い出して。
    いつまでこんな空しい思考を繰り返すのだろうと思いながら、今日も止められずにいた。





    ヒーローショートこと轟くんは、高校の元クラスメートだ。
    そして、元恋人でもある。

    この気持ちは一生仕舞っておくつもりだったのに、ある日の放課後、僕がぽろっとこぼしてしまったのだ。
    そしたら、みるみる顔を赤くして、
    「……俺もだ」
    と返してくれる轟くんの顔があった。

    そこからは、お互い手探りで「恋人」という時間を過ごした。
    二人ともが、「初めてのお付き合い」だったから、何をしたら「恋人」なのか「お付き合い」なのか、分からなかったのだ。
    誰もいない廊下で手を繋いでみたり、轟くんの部屋にいってこっそりキスしたり。

    僕は思わず転がり込んできた幸運に、柄にもなく浮かれていたのだ。





    「げぇ~!雨かよ!天気予報と違うじゃん」
    「傘持って来てねぇ!」

    放課後、ちょうど下校時刻になった瞬間だった。
    ザザザザザという突然の激しい雨音が窓の外から聞こえてきた。

    「緑谷、傘あるか?」
    「いや、持ってきてないんだ」
    「雨宿りしてれば、止むか?」
    「ん~でも、雨雲レーダー見るとしばらくこの状態が続きそう。僕、走って帰ろっかな」

    すると、轟くんは珍しく視線を逸らせて、
    「……折りたたみ持ってきたし、一緒に帰るぞ」
    と言った。

    ……轟くん、何か照れてる?
    なぜ照れているのかよく分からなかったけれど、「うん、帰ろう」と返事をした。

    思えば、これがきっかけだった。


    教室を出て、靴箱に向かう。
    ここまでの道のりで、どれだけの女の子たちに声をかけられただろう。
    勿論、轟くんが、だ。

    内容は、「傘、私持ってるんで一緒に帰りませんか?」「この傘、あげます!」などこの雨に関係するものから、「この前のお返事、もう一度考え直してくれませんか?」「今からお時間ありますか?お話したいことがあるんです」など、明らかに告白や交際を迫るものなど、多種多様だった。

    「……悪ぃ、緑谷。巻き込んじまった」
    「ううん、大丈夫だよ」

    モテモテだねぇ~轟くん!なんて茶化す雰囲気ではなかった。
    轟くんは本当に疲れていて、結果として僕を連れ回すことになったことを本当に気に病んでいたからだ。

    轟くんと僕が付き合っていることは、周囲には隠している。
    僕がそうお願いしたのだ。

    もし、恋人が、僕なんかじゃなかったら。
    みんながお似合いだと評するような、素敵な彼女だったら。
    カッコよくて、周りに文句を言わせないような彼氏だったら。

    轟くんは、こんな苦労をしなかったのだろうか。





    仕事終わりの飲み会の会場は、僕らの事務所からは随分と離れたお店だった。

    「ハァ~イ!じゃあみなさんお疲れ、カンパーイ!」
    「カンパーイ!」

    ジョッキをカーンと突き合わせる音があらゆるところで響く。
    僕も、中身をグビグビと体に流し込むと、思わずプハァと息を吐いた。

    「おっ、いい飲みっぷりだな!デク」
    「へへ、今日は飲みますよ」
    「ほどほどにしとけよ~」

    つまみに出された枝豆をひょいと口に放り込む。
    周りを見ると、見知った事務所のメンバー、よくチームアップする事務所のメンバー、そして、全然見たことのないメンバーと、かなりの人数が店内にいた。

    「今日は今度のチームアップに向けての交流って意味だからな。かなり遠くの地域の事務所とも組むらしいぞ」

    きょろきょろしている僕に気づいたのだろう。
    隣に座った先輩が教えてくれた。

    「そういえば、デクと同じ高校のヤツもいるって聞いたぞ」
    「えっ誰ですか!」

    そう尋ねながら、頭の中では淡い期待が広がる。
    でも、大丈夫。どうせ今回も僕の妄想で終わるんだ。

    「確か、氷系の個性でー……あっ、そうそう!『ショート』って言ったな」

    急に血の気が引いた。
    サッと自分が青ざめたのが分かった。

    「……彼、炎の個性も、あるんですよ」
    「個性2つ持ちだったのか!道理で!」
    「しかもイケメンですよ~!」

    先輩の隣にいた、事務所の女性の方も口を挟む。

    「イケメン情報掴むの早いな、さすがウチの事務所の姐さん」
    「うっさいわね!ショートは若手のホープって言われてて、ニュースでもしょっちゅう取り上げられてるのよ!知らないアンタがよっぽど鈍いだけよ!」
    「そうなのか……デクも知ってたしな」
    「ぼ、僕は同級生ですしね……」

    同級生だけじゃないけど。
    言っていてドギマギした。
    どうしよう、何をどうしようって訳でもないけど、僕はパニックになっていた。

    この居酒屋のどこかに彼がいるのだろうか。
    もし会ってしまったら、何て言えば正解なのだろう。

    会いたくない気持ちと、でも、大好きな彼に会いたい気持ちとが混ざって、訳が分からなくなった。

    ふと目に入ったのは、満タンに注がれキラキラと光るビールジョッキ。
    自然と手が伸びていた。

    「おっ、デク!本当にいい飲みっぷりね!今度私とも飲みましょうよ」
    「こらっ、デク!飲みすぎんなよ!」
    「ん、おいしいです~もう1ぱい~」
    「あ~もうやっぱり!デクは結構弱いだろ、酒」
    「可愛いー!デクって戦い方は雄って感じだけど、こうやって喋ると可愛らしいのね!」
    「やめとけやめとけ!コイツはな」

    ――好きなヤツがいるんだ。

    そう聞こえた気がしたけれど、酔いが回り始めた頭ではよく理解できなかった。





    プロヒーローとして働き始めてから、僕はよく回り道をして帰ることが多くなった。
    僕から振った以上、轟くんに合わす顔がないけれど、「偶然」なら許されないかなと思うのだ。

    現場がたまたま被らなかな、とか。
    帰り道にバッタリ会って、「久しぶりだね!元気?」って話せないかな、とか。

    いざ出会ったら何を話すかも分からない。
    非常に未練がましいのもよく分かっている。

    でも、考えてしまう。
    普通に、友達として、もう一度やり直せないかな、とか。

    結局それらの可能性は、すべて僕の妄想で終わっている。

    轟くんは、元1-Aの飲み会には必ず欠席しているし、僕の事務所は彼の事務所から離れているところを選んだので、現場が被ることもほぼ無いだろう。


    つまり、妄想の中でしか、轟くんには会えないのだ。
    だから、僕の教育係である、ちょっと轟くん似のところがある先輩を時折見つめてしまうくらいは、許してほしい。

    許してほしい?誰に?
    僕を思っている人なんかいないのに。



    「大丈夫か、緑谷」

    なんて都合のいい夢だろう。
    久々に耳に響く低音。

    目を開けると、薄暗い部屋のようで、あまり周囲がハッキリは見えない。
    が、その中でも見覚えのある目鼻立ちの整った顔が、寝ている僕の顔を覗き込んでいた。

    「……とどろきくん」
    「ああ、久しぶりだな」

    轟くん、どうしてここにいるの?
    連絡とってない間、どうしてたの?
    元気だった?ケガしてない?
    本物なの?何で僕のところにいるの?

    ゆるゆるになった理性の紐をずるずるとすり抜けて、まとまらない思考が漏れ出てくる。
    ああ、今日は本当に飲み過ぎだ。
    しかも、片思いし続けた相手がそのタイミングで現れたら、紐なんて緩むしかない。


    ほんの少しだけ感じている、「もしもこれが現実だったら」という気持ちに押し負けて、核心を突く言葉が音にならないだけだ。

    「とどろきくんは、おさけのんだの?」

    だから、こんな陳腐な質問しかできなかった。

    「少しだけ飲んだな」
    「ふぅん。あんまりお酒のイメージないな」
    「たまに飲むぞ。付き合いで飲むことが多いけど」
    「付き合い……」

    そうだ、お付き合い。
    あれから、轟くんは誰かと付き合ってるの?
    聞きたくないし、知りたくないないな。
    でも、どうせ実らない恋だ。いっそ砕けてしまえ。

    「とろろきくんは、かのじょ、いるの?」
    「お前、相当飲んだな」
    「はぐらかさないでよー」
    「いねぇよ」
    「うっそだぁ」
    「いる訳ねぇだろ、付き合ってるんだから」
    「ん?」
    「ん?」

    急に酔いが醒めた。
    頭が回り始めて、先ほどの言葉を解釈し直す。

    「彼女はいない」、けれど「付き合ってる」?
    えっ、どういうこと?どういう意味?

    「あっ、彼氏ってことか」
    「そうだな」

    ソウダナ?
    君、そんなにプライベートをあっけらかんと言う人だったっけ?

    「彼氏、カレシ……」
    「そうだろ」
    「ふぅん……じゃあ、ここにいちゃいけないよ」
    「なんでだ、お前酔ってあの男に介抱されてただろ。だから俺がその役引き受けた」

    男?きっと先輩のことだろう。迷惑かけてしまったな。明日ちゃんと謝らなきゃ。

    薄暗いけど、よく見るとここは居酒屋の中だ。
    騒いでいる声も聞こえてくるから、空いている部屋を貸してくれたのだろう。
    そこに酔った僕を運んでくれて……いや、そうじゃない。僕が今引っかかったのは。

    「……僕がだれといても、きみには関係ないじゃないか」
    「……は?」

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