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    3/12 第39回『グッズ』
    #轟出ワンドロワンライ

    #轟出
    bombOut

    「なあ、なんでそんなに集めるんだ?」
    「へっ?」

    きょとんとする緑谷に、俺は素直な疑問をぶつけた。

    部屋の中には、ヒーロースーツ姿のフィギュア、ヒーロー名が入ったタオル、この前撮られた顔がでかでかと引き伸ばされているポスター……。
    部屋の中は、数え始めたらキリがないほどの「ヒーローグッズ」で埋まっている。

    さらに、さっき買い物の時に見つけたヒーローシール付きの菓子。
    食玩の情報は抜けてたな、全10種類だから箱買いしたら入ってるよね……と言いながら買ってきたものが、目の前に広げられている。
    ちなみに、お目当てのものは当たったらしい。

    「それ、被ってるんだろ。1枚あれば十分じゃねえのか?」

    まさに今、緑谷の手に「ヒーローショート」のシールが3枚握られている。
    それを捨てる素振りもなく、むしろ被ったことに喜びさえ感じているような顔をしながら、1枚1枚丁寧にファイリングしている。

    緑谷の収集癖は今に始まったことじゃない。
    高校で寮生活をしている時も「オタク部屋」と称されていた。部屋にはたくさんのグッズが並んでいた。
    その時は、主にオールマイトの物が置かれていたように記憶している。

    だが、卒業して同棲を始めてから、並んでいく色は紺、そして白と赤。ところ狭しと置かれているのは、主に、俺の――「ヒーローショート」のグッズだ。

    「なんで、か……。うーん、なんでって言われてもなぁ」

    頬を少し赤くして、困ったように眉尻を下げる緑谷。
    その顔も好きだと思いながら返事を待った。

    「僕ね、きっと、欲張りになってきちゃったんだ」

    日頃の無茶は目に余るが、緑谷が自分のことで欲を出したことがあるだろうか。

    声に出ていたか、俺の顔に思いっきり出ていたのか。緑谷が、チガウチガウそうじゃなくて……と首を振った。

    「君に好きって言った時……受け入れてもらえる気持ちじゃないと思ってたからさ。聞いてくれるだけでいいと思ってたんだ」

    ――春の、あの日。
    桜がふわりと舞う中、あの時、緑谷は今にも泣き出しそうな顔をしていた。

    「だから、まさか君も同じ気持ちだとは思わなくて。しかも、付き合えるなんて思ってなかったから、今も君の隣にいれるってだけで、僕、幸せなんだ」

    「けどね、付き合ってるとだんだんもっと欲しくなってくるんだ。プロヒーローになってからは尚更、離れている時間も多くなったから」

    プロになってからは、一緒にゆっくり過ごす時間も限られた。お互い違う事務所ということもあり、すれ違うように出勤することも少なくない。

    「たとえばね、僕が隣にいない時、君が何をしてるのか知りたくなるんだ。君がどんな人と話しているのか気になる。君が出ているテレビは全部見たいし、僕の知らない君がいると寂しいって思っちゃうんだ」

    君と付き合えただけで、僕は十分幸せなのにね。

    ぽそりとつぶやいたその顔が、あの告白の時の表情と重なった。

    たまらなくなって、俺は自分よりひと回り小さな身体を、ぎゅっと腕に閉じ込めた。

    「と、轟くん……?」
    「他は?」
    「え?」
    「聞かせてくれ、お前の気持ち。俺だって、緑谷のこともっと知りてぇ」

    腕に力を込めて、さらにきつく抱き締めた。
    緑谷はしばらく黙っていたが、ゆっくりと話し始めた。

    「……グッズ集めるのはね、僕がショートの一番のファンってこともあるけれど……こんなかっこよくて大好きな君のグッズ、周りのみんなが持ってて、僕が持ってないっていうのが……なんだか悔しい」

    俺の背中に回された指先に、ぐっと力が込められた。

    「……あと、君がファンとかモデル女の人に囲まれている時、割り込んで『ショートは僕のですよ』って、ちょっとだけ言いたくなる……ちょっとだけね」

    「いいな、それ」
    「へ?」

    しまった。
    声に出てたか。

    腕を緩めて緑谷の目を見ると、見事にまん丸になっていた。

    「やきもち妬いてる緑谷、可愛い」
    「やき……っ ご、ごめん、重いよね」
    「違ぇ、うれしい。俺も言いてぇ。緑谷は俺のだって言いふらしてぇ」
    「えっ、え!ええええ?轟くんが?」

    今度こそ耳まで真っ赤に染まった可愛い恋人を見ながら考える。

    緑谷は、自分の方が先に好きになった、自分が告白したから、俺がそれに応じたと思っていたのだろう。

    だが、それは違う。

    本当は、俺の方がずっと早かったのだ。
    あの日、俺の中のしがらみを取っ払ってくれた時から、緑谷の隣にずっといられるようにと願ってきた。

    ずっと緑谷を見ていたからこそ、「とうとう好きなヤツができちまったんだな」と気づくのも早かった。

    それが緑谷の幸せならば、諦めて応援しようと思った。誰かに獲られたくない、俺だけを見てほしいと叫ぶ気持ちを押さえ付けて、必死に友人として振る舞った。

    だから、緑谷が実は俺のことを思ってくれていたのだと知ったあの時から。

    俺は、緑谷の全部が欲しい。
    緑谷の隣に、一生居続けられる権利が欲しい。

    「……なぁ、今度見せてぇもんがあるんだ」
    「なぁに?わざわざ」

    緑谷は、驚くだろうか。
    あたり一面緑色のグッズで埋め尽くされた貸し倉庫と、そこに数日前に買って隠し置いてあるエンゲージリングのケースに。

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