④杏千リレー小説<京都編・二日目・1>「うわぁ、やっぱり高い……!」
本堂への参拝を終えた二人は、かの有名な清水の舞台へと上がっていた。四階建てビルの高さにも匹敵するその場所から見る風景は圧巻で、千寿郎は欄干に身を預けて、秋の京都に見惚れた。広い空間にはまだ人も疎らで、まるでこの舞台を二人占めしているような気分になる。
「美しいな。秋の京都が一望できる」
「ええ」
紅葉の向こうに見える古都の街並みは、百年、いやもっと古い歳月を残していて、千寿郎の胸に遠い郷愁を誘った。そんな弟の様子を見て、杏寿郎は欄干の上に乗せられた手に自らの手を重ねた。千寿郎はそっと兄の顔を窺い見る。すると杏寿郎は優しく目を細めたが、何も言わなかった。そのまま目を閉じて、穏やかな時間を受け入れる。視界を遮断してしまえば古都の匂いが、秋風の感触が、兄の体温が。より一層濃く感じられた。
13628