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    @uso80024365

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    記録/HQおれは、初めてやつを見たときに確かに「孤独だ」と感じたのだ。

    中学最後の大会でのことだった。北川第一 対 雪々丘。あの体育館のむせ返るような熱気を、今でも覚えている。ネットの向こう、やつはただただ、孤独だった。肩肘張って、力んで、1人ではなにもできないはずなのに全部1人でやろうとしていた。それはそれは、孤独な戦いであったと思う。憶測にすぎないけれど、しかしだからこそ、おれはそれがとても悔しかった。おれは一目で、奴がいわゆる“選ばれた人間”であると理解した。だから、そのコートの向こうの孤独さを、許せなかったのだ。あいつはこんなところで終わっていい人間じゃない。
    トーナメント戦で闘うということは、どちらかが負けてどちらかが勝つということだ。決定的に勝者と敗者が明白になる。コートの上に立ち続けられるのは、勝者だけ。目の当たりにしたぶん、それは余計に残酷なように思えた。次にやつと闘うのは、高校へ上がってから。だからおれはそこでやつを倒してやろうと思った。高校という、中学よりもレベルのあがるその舞台で、おれはやつと対戦することを、夢に見た。あいつはきっと、高校に入ったら変わるだろう。もしかしたらあいつが中学でバレーをやめてしまうのでは、という危惧は、不思議とおれにはなくて、だってあいつは“選ばれた人間”だから、ちっぽけな孤独さ(そう、それはほんとうにちっぽけな。だってやつの才能は、その孤独を凌駕するほどだったから)に、つぶされることなんてないと思っていた。それは、どこか願いにも似た確信だった。

    そんな中学最後の決意のあと、俺は受験勉強に励みに励んだ。もともとそんなに勉強は得意ではなくて、平均より少し高めの烏野でさえ少し苦しかったくらいだ。そうしておれが苦々しい受験勉強を乗り越えこの烏野に入った先にいたのは、忘れはしない、あいつだった。驚きと、やつを倒すことのできない悔しさを感じ、しかし同時に、おれは歓喜した。彼という“選ばれた人間”を、いちばん近くで目の当たりに出来るのは、自分のいるこの場所で間違いはないはずだったから。ネットでさえぎられないやつは、ただの高校生だった。

    しかしそこで、大きな問題が発生した。おれとあいつは、驚くほど反りが合わなかった。それはもう、ほんとうに、しぬほど。
    あいつが是と言えばおれは否と言ったし、あいつができることはおれにはできない。同じように、おれにできることがあいつにはできなかった。あいつは梅干しを食べられて、おれは梅干しが嫌いだった。そんなふうに、真逆なおれたちだった。
    でも、今思えばそれはまるで、お互いを補い合うようだとも思えてくる。あいつにないものをおれが補い、おれにないものをあいつが補う。2人でやっと完ぺきになれる。1人では未完成なおれたち。あまりにも不完全。

    あいつの中学時代を思った。あいつの圧倒的なセンスと身体能力を思った。それは才能と呼ぶに相応しいそれだった。もしも、ほんとうにもしも、おれがもっと早くあいつに出会えていたなら、あいつは孤独には、ならなかったのかな、なんて。そんな、馬鹿でくだらない“if”。これを口にするとあいつは言う。「無駄なこと考えてんなよ」と。そうしてへたくそに少しだけ笑って、思い切りおれを叩く。そうだった。おれはあいつの積み上げてきた3年間を知らなかったけれど、やつの“今”はたぶん、きっと、ぜったいに、おれのものだ。

    やつとバレーを続けていくうちに、おれたちは”速攻”という、誰にも負けない気分にさせてくれる武器を手に入れた。あいつとおれなら、あいつさえいれば。まるで夢のような心地。あいつさえいれば、おれは最強になれたのだ。その”速攻”が決まるたび、おれはやつと世界に2人きり、そんな錯覚さえ覚えた。

    コートの上、やつこそが、まさしく、”王”。

    その翼は折れることを知らないようだった。何度も何度も壁にぶつかり、折れそうになったことはあれど、けして折れはしない。おれたちは、身長はでこぼこで、才能も、バレーをしてきた時間も違う。見事なまでにちぐはぐ。ちぐはぐなおれたちは、たった1人では不完全で未完成。だから互いを補えた。おれたちは、2人きりでやっと、完ぺきになれたのだ。
    そんなおれたちを、1人ではなにもできないくせに、と誰かは笑ったのかもしれない。これから先1人になったら、なんて、そんなことはどうでもよかった。別にかまいやしない。やつとバレーができれば、それでいい。それだけで。
    やつの“今”はおれのもので、おれの“今”はやつのもの。未来まで欲しいだなんて、あまりに欲張りだ。



    “今”、毎朝あいつと朝練へくる時間を競って、“今”、あいつとテストの点でだって競って、“今”、一緒に補習を受けるはめになったり、部活に参加したり、したい。“今”、おれはあいつと、バレーがしたい。いつだってそう願っている、さっきは未来なんていらないと、そう言ったけれど、欲張ってもいいのなら、おれはあいつといつまでだってバレーをしていたい。


    おれは空を見上げるとき、それがどうしようもなくまぶしい。それがやつの才能だというのなら、きっとそうだ。おれはいつも、やつの才能に憧れてやまない。おれはいつだって、あいつを下から見上げるばかりだ。




    やつは、飛ぶ。




    小さな身体が宙を舞って、俺の上げたトスが、打たれる。
    きらめく一瞬。瞬く暇もないような、一瞬。
    その瞬間を、いつまでも俺は愛しつづけるのだ。






    影山飛雄
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    aco

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    記録/HQおれは、初めてやつを見たときに確かに「孤独だ」と感じたのだ。

    中学最後の大会でのことだった。北川第一 対 雪々丘。あの体育館のむせ返るような熱気を、今でも覚えている。ネットの向こう、やつはただただ、孤独だった。肩肘張って、力んで、1人ではなにもできないはずなのに全部1人でやろうとしていた。それはそれは、孤独な戦いであったと思う。憶測にすぎないけれど、しかしだからこそ、おれはそれがとても悔しかった。おれは一目で、奴がいわゆる“選ばれた人間”であると理解した。だから、そのコートの向こうの孤独さを、許せなかったのだ。あいつはこんなところで終わっていい人間じゃない。
    トーナメント戦で闘うということは、どちらかが負けてどちらかが勝つということだ。決定的に勝者と敗者が明白になる。コートの上に立ち続けられるのは、勝者だけ。目の当たりにしたぶん、それは余計に残酷なように思えた。次にやつと闘うのは、高校へ上がってから。だからおれはそこでやつを倒してやろうと思った。高校という、中学よりもレベルのあがるその舞台で、おれはやつと対戦することを、夢に見た。あいつはきっと、高校に入ったら変わるだろう。もしかしたらあいつが中学でバレーをやめてしまうのでは、という危惧は、不思議とおれにはなくて、だってあいつは“選ばれた人間”だから、ちっぽけな孤独さ(そう、それはほんとうにちっぽけな。だってやつの才能は、その孤独を凌駕するほどだったから)に、つぶされることなんてないと思っていた。それは、どこか願いにも似た確信だった。
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    aco

    PROGRESS野……子脚本でエンディングに米……師が流れる未来捏造斉鳥バディものの進捗を晒します。
    ちょっと前に喋ってた未来捏造設定です。
    斉木楠雄(26):都市災害情報システムセンター(UDISC)職員
    鳥束零太(26):出張僧侶兼霊能探偵
    タイトル未定 File.1コンクリートの隙間に、煤と湿気がまだ残っていた。
    三日前に鎮火したはずのビル火災現場。その非常階段の下で、斉木楠雄は片膝をついてコンクリートの亀裂を指先でなぞった。

    都市災害情報システムセンター――通称UDISC(ユーディスク)。
    都心で起こる地震、火災、洪水……ありとあらゆる都市型災害を「起きる前に想定し、起きてしまった後も被害を拡大させない」ための解析と提言を担う組織だ。斉木はそこの解析部第三課に属する。災害データの計算とモデル構築、それが大学を卒業した後斉木の選んだ“仕事”だった。
    火災を消すのは消防、犯人を捕まえるのは警察――だが、行政に避難指示を促すタイミングを決めるのは誰か。崩落危険区域をどの範囲まで封鎖すべきか判断するのは誰か。解析官の一つの数値で、都市の数万人の安全計画が変わる。そういう仕事だ。就職して四年が経ち、先日役職もついた。形ばかりといえば形ばかり、"上級"解析官という。やることは結局変わらない。日々災害の予測を立て、リスクのありそうな場所のデータを取ってくる。それなりにあくせく働いているのだ。そして、起きてしまった災害を分析するのもまた、仕事の一つだった。今日は、三日前のビル火災現場を、消防と検証しに来た。
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