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    aco

    @uso80024365

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    aco

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    ストレルカ、星になれない君へ/APH仏英もともと帰れないとわかった旅であったという。
    地上から大気圏を突き抜けて、真空の宇宙へ到達するためのそれは、二度目の大気圏突入ができるようには作られていなかった。しかしながら、宇宙への片道切符しか持たぬそれには、地球軌道を周回した最初の動物が乗っていたというのである。
    スプートニク2号という宇宙への片道切符に乗り込んだのは、ライカ、というメスの犬だった。
    ライカは死んでしまった。真っ暗な、どこにも何もない孤独な場所で。そこで彼女が生きた時間はわずか数時間であった。
    ライカは縋る手すら持たなかった。

    インスタントのコーヒーを注いで、いつもならばまるで泥のようだと嘲り笑ってやるのに、なぜだか今日だけはそれはままるで宇宙のような黒さだなと思った。ありふれたセンチメンタリズムは普段の感性すら容易に変える。コーヒーをひとくちすすって、間近に迫った黒さに瞠目する。こんなにも黒いのだろうか。宇宙というのは。

    「またブラック?」

    お兄さんはカフェオレのがすき、と言う男に、好きで飲んでんじゃねぇよばーか、と返してやる。俺の手にも、やつの手にも数枚の書類。規則正しく並んだ文字には何の感傷も抱けない。現実はそこにあった。
    世界会議の休憩時間。前にも後ろにも進まない会議は何もかもを消耗させる。こんなときは紅茶を飲みたいのだけれど、インスタントの安っぽい紅茶を飲むくらいならすきでもないコーヒーを飲んだほうが数倍ましだと思う。


    ベルカとストレルカは、地球軌道を周回して無事帰還した初めての生物だ。スプートニク5号はもう片道切符の船ではなかった。
    ライカは孤独だった。ひとりぼっちの片道切符。
    スプートニク2号のなかで、ストレスと高温によって死んでしまった彼女。彼女にもしも、ストレルカがいたのなら、あるいは。そんなことを思わずにはいられないのは、たぶん、俺がベルカには到底なれないからだ。

    生まれたその瞬間を俺はよく覚えていない。しかし、自分が人間ではないと気づいたその日のことはよく覚えている。いつまで経っても大きくならない俺を不審がって、そしてずっとずっと時が経ったある日、自分すらも成長していないことに気づいた人間は頭がおかしくなって俺を切りつけた。俺は死ななかった。小さな人間の子どもの身体なら、それは致命傷となりえた傷だった。人間の、子どもならば。俺は死ななかった。

    まるで永遠のようなときを生きることを生まれたその瞬間に定められていた。広大な時間はきっと宇宙にもたとえられる。

    ライカはひとりだった。ベルカにはストレルカがいた。
    俺はひとりだった。俺はベルカにはなれない。


    「もしもライカにストレルカがいたのなら、ライカは生きていたと思うか」

    フランシスは書類に落としていた顔を上げた。

    「アーサー、それは無理な話だ。だって、スプートニク2号には大気圏再突入は不可能だったんだから。それ以前に俺たちのエゴはライカを殺したよ。仮にスプートニク2号が大気圏再突入ができたとしても、ライカにはストレルカはいない」

    そうやって世界はできてるんだ、と、ifのすべてをフランシスは否定した。

    「俺はベルカにはなれない。そうだな、俺にはお前が言うように、ストレルカがいないから」
    「それは……」

    フランシスは何かを思案するような顔をした。ううん、と唸って、自分でいれたカフェオレを飲み干す。やつのもインスタントだ。まずい、そうこぼした。そして、「それはやっぱり、ちがうんじゃない」と言った。

    「だってお前は生きてる。お前がもしライカだったのなら、お前はどう足掻いても10日後に安楽死しているし、それを避けても大気圏で宇宙の塵になってるはずなんだよ。だからねアーサー、お前はもうベルカだよ」

    そう言ったフランシスに、俺はやつと同じように「それはちがう」と言った。

    「俺にはストレルカがいない」
    「ううん、いる」

    フランシスは俺の手元のコーヒーを奪い取った。追い縋った手をやつは否定しないけれど、受け容れることもなかった。宇宙みたいな色したコーヒー。さっきのカフェオレみたいに、飲み干す。ああ、俺の宇宙。これからの永い永い俺の時間。宇宙。
    縋った手は受け容れないくせに、やつは俺の これから を飲み干した。

    俺の宇宙がやつに飲み干されて、やっぱりまずいね、と言って笑った。

    「いるよ。俺とか」
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    aco

    PAST
    記録/HQおれは、初めてやつを見たときに確かに「孤独だ」と感じたのだ。

    中学最後の大会でのことだった。北川第一 対 雪々丘。あの体育館のむせ返るような熱気を、今でも覚えている。ネットの向こう、やつはただただ、孤独だった。肩肘張って、力んで、1人ではなにもできないはずなのに全部1人でやろうとしていた。それはそれは、孤独な戦いであったと思う。憶測にすぎないけれど、しかしだからこそ、おれはそれがとても悔しかった。おれは一目で、奴がいわゆる“選ばれた人間”であると理解した。だから、そのコートの向こうの孤独さを、許せなかったのだ。あいつはこんなところで終わっていい人間じゃない。
    トーナメント戦で闘うということは、どちらかが負けてどちらかが勝つということだ。決定的に勝者と敗者が明白になる。コートの上に立ち続けられるのは、勝者だけ。目の当たりにしたぶん、それは余計に残酷なように思えた。次にやつと闘うのは、高校へ上がってから。だからおれはそこでやつを倒してやろうと思った。高校という、中学よりもレベルのあがるその舞台で、おれはやつと対戦することを、夢に見た。あいつはきっと、高校に入ったら変わるだろう。もしかしたらあいつが中学でバレーをやめてしまうのでは、という危惧は、不思議とおれにはなくて、だってあいつは“選ばれた人間”だから、ちっぽけな孤独さ(そう、それはほんとうにちっぽけな。だってやつの才能は、その孤独を凌駕するほどだったから)に、つぶされることなんてないと思っていた。それは、どこか願いにも似た確信だった。
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    aco

    PROGRESS野……子脚本でエンディングに米……師が流れる未来捏造斉鳥バディものの進捗を晒します。
    ちょっと前に喋ってた未来捏造設定です。
    斉木楠雄(26):都市災害情報システムセンター(UDISC)職員
    鳥束零太(26):出張僧侶兼霊能探偵
    タイトル未定 File.1コンクリートの隙間に、煤と湿気がまだ残っていた。
    三日前に鎮火したはずのビル火災現場。その非常階段の下で、斉木楠雄は片膝をついてコンクリートの亀裂を指先でなぞった。

    都市災害情報システムセンター――通称UDISC(ユーディスク)。
    都心で起こる地震、火災、洪水……ありとあらゆる都市型災害を「起きる前に想定し、起きてしまった後も被害を拡大させない」ための解析と提言を担う組織だ。斉木はそこの解析部第三課に属する。災害データの計算とモデル構築、それが大学を卒業した後斉木の選んだ“仕事”だった。
    火災を消すのは消防、犯人を捕まえるのは警察――だが、行政に避難指示を促すタイミングを決めるのは誰か。崩落危険区域をどの範囲まで封鎖すべきか判断するのは誰か。解析官の一つの数値で、都市の数万人の安全計画が変わる。そういう仕事だ。就職して四年が経ち、先日役職もついた。形ばかりといえば形ばかり、"上級"解析官という。やることは結局変わらない。日々災害の予測を立て、リスクのありそうな場所のデータを取ってくる。それなりにあくせく働いているのだ。そして、起きてしまった災害を分析するのもまた、仕事の一つだった。今日は、三日前のビル火災現場を、消防と検証しに来た。
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