キャンディ蝉が鳴き始めた。もう少しで梅雨も明けてそろそろ夏本番である。

「よお…」

棒付きキャンディを口に含んだ日下部が後ろから声をかけてきた。

「あぁ…お前か…おはよう」
「なんだ？俺じゃあ不服か？」
「…いやそうじゃない」

高専にある自販機と喫煙所。そこに置かれたベンチに足を伸ばして空を見上げだ日車は視線だけ日下部に向ける。

「ところで日下部、お前タバコやめたんじゃなかったのか？」
「吸いにきたんじゃねーよ」

じゃあなんだ？と日車が今度は体ごと日下部の方へ向いた。ほんの僅かな口の隙間をぬって日車の口の中に何かがカコンと入ってきた。

「っ！おまっ！なにすんだよ」

慌てる日車を気にもせず、日下部が棒付きキャンディを差し込んできた。

「んー？？お前今日誕生日だろ？」
「…ん？あぁ…そうだけど…てかお前！食いさし？！」
「さっき開けたばっかりだ問題ない」
「いや…あるだろうよ…」
「じゃあ…返せ」
「まて！返したらコレどうするんだ？」
「俺が食べるに」
「やめろ…コレは食べる…」
「ちゃんと終わったら祝ってやる。だからー」

ーーちゃんと俺のところに帰ってこいーー

捨て台詞の様に言い放つと日下部は日車の返事も聞かず任務へ向かったのだった。