願い 主様の温もりが未だ残るソファ。そこに手を添えて、彼は確かに存在するのだと己に言い聞かせる。
「主様」
返事はない。当然だ。彼はここにはいないのだから。
「……主、様」
帰ってきてほしい。そう願いを込めて、もう一度呟いた。返事はない。
主様がいない夜は恐ろしい。怖い夢を見るからじゃない。もしかしたら彼は俺の妄想が生み出した人間で、本当は存在していない方なんじゃないかと不安になるからだ。俺の目の前から消えてしまって、もう二度と姿を現さないのではないか。そんな気持ちが胸をいっぱいに満たして、なにかどろどろしたモノが心からあふれ出しそうになる。悪魔の精神汚染にも似た感情が心を支配していく。
俺は、あなたを失うのが、恐ろしくてしかたない。
床に膝をついて、主様がいたソファの座面に、頬を寄せて突っ伏す。未だ残る温もりを感じたくて、また会えるよう強く願いながら、ゆっくりと目を閉じた。