800字小説練習(SB69) BRRメンバーにとっての憩いの場『喫茶アンゼリカ』。バイト代が出たばかりのシアンは此処で少し贅沢をした朝食を摂ろうと、店を訪れていた。
昨晩からどっさり降った真っ白い雪によりMIDICITYは銀世界に変わっている。寒くてベッドから出られないのか、シアン以外のプラズマジカのメンバーやクリティクリスタ、シンガンクリムゾンズの姿はない。アンゼリカの趣味であるお洒落なジャズが店内BGMとして流れる中、シアンは分厚いピザトーストとストロベリーティーを嗜み、幸せな朝の一時を楽しんでいた。外はカリカリ中はふわふわもちもちのトースト、とろとろチーズにサラミの脂の味がよく合う。
ピザトーストを完食し、親指に付いてしまった赤いソースをちゅっと舐め取った時、喫茶の扉がドアベルの音を凛と鳴らして開く。暖房の効いていた室内へ、雪によって普段より冷たい空気がヒヤーッと入り込んで来る。
『んーっ』と伸びをしながら入って来たのはクロウだった。いつもの装い(どこ指のヤス曰くトキトキの服)ではなく、牛乳配達をする時の真っ赤なツナギ姿だ。
「ふいー。今日の牛乳配達は大変だった黙示録だぜ」
その言葉にシアンはそうか、と思い至る。雪で上手く自転車を漕げなかったのだろう。
「お疲れ様にゃ、クロウちゃん」
「よう、お前も居たのか。全く、ホントお疲れだぜ。まあ、ライブ前の良い肩慣らしにはなったかも知れねえけどな」
「今日のナイトライブ頑張ってにゃん!」
「あったりまえだ。お前はなに食ったんだ?」
「ピザトーストにゃ。ふわふわとろとろでシアワセの味にゃ」
「そっか。じゃあアンゼリカさん、オレにも同じのくれー」
アンゼリカから『分かったわ』という返事を聞き、クロウはシアンの隣のテーブルに着く。どかっと座った辺り、本当に今日の牛乳配達はさまざまなものが消耗する出来事だったのだろう。
シアンは『よし』とある事を思い付く。それに合わせて耳がぴくりと動いた。
「アンゼリカさん、ホットミルクを追加注文するにゃ」
「お前がホットミルク飲むなんで珍しいじゃねえか」
「あたしのじゃないにゃ、クロウちゃんに飲んで欲しいにゃ。あたしの奢りにゃん」
「え、マジ!? 良いのか!?」
「バイト代が出たばっかりだから気にしなくて良いにゃ。牛乳配達お疲れ様のホットミルクにゃ」
カウンターから白いマグカップを受け取って来て、シアンが両手で『どうぞ』と差し出す。
ほかほかと立ち上る湯気越しに覗く暖かな優しい笑みに、クロウもまた寒さと疲労を忘れて微笑んだ。