ポッキー&プリッツの日連日続いているカート大会。
今日の第一レースが行われるサーキットの控え室は、何室かの大部屋へ分かれる形だった。
相棒のワリオと運悪く離れてしまった彼は、パイプ椅子に長い足を組んで行儀悪く座りながら、持参した棒状のチョコ菓子を食べている。
タメ口をきける仲といえど、王族も居る控え室でタバコを吸う訳にも行かない。口寂しさを紛らわせるにはちょうど良かった。
その時、ふと気配を感じて横を見る。少し離れた場所から、こちらの手元を物欲しそうに眺める星型の幼子が一人。確かチコとかいったか。
その保護者である碧色の星姫は、現在席を外しているようだ。
――このまま凝視されるのも癪だ。
そう思った彼は、菓子を一本抜き出し、星の子に手を伸ばす。
「おい、持ってけ」
「いいの!?」
ふわふわ近寄って来た相手はチョコ菓子を受け取った。
「ありがとー、おじさん!」
「お兄さんと呼びなさーい」
嬉しそうにチョコ菓子を手に取った星の子は、その場を去ろうとした。
「あ、いや。やっぱちょっと待て」
「なあに?」
不思議そうな顔で相手は振り返った。
彼は二袋入った菓子の内、未開封の袋を先ほどのように差し出す。
「やる。オレ様はそんなに大食らいじゃねえからな。ただし、お前の母親と仲良く分けて食えよ?」
こんな庶民的なものを食すかは分からないが。という言葉は呑み込む。
「うん! ありがとー、おじさん!」
「だーかーらー……まあ、いいや。さっさと行きな」
元気良く返事をした星の子は飛び去って行く。
チョコ菓子を噛み砕きながら、横目でその姿を黙って見送る。
何故だろうか。あの人が喜んでくれたら――そうよぎった途端、気づけば袋ごと渡していた。
あの人のお気に召そうか、そうでなかろうが自分には関係ない。表面的にはそう繕っても、どうしてだがそわそわと反応が気になる彼であった。
(おわり)