月を赤く染めた時 始まりはほんの小さな、子ども故の浅慮で無垢な好奇心。生まれて初めて見るその本は、恐れを知らず刺激を求める子どもの心を動かすには十分だった。
◇
ちろちろと淡く光る灯り。そこに浮き上がっていた紙面の黒いインクの文字が、突然訪れた一面の闇と共に輪郭を失った。
その瞬間、文字の世界に深く沈んでいた少年の一切の意識が本の外に弾き戻された。
「───……あれ?」
小さな部屋に、あえかな呟きがぽつりと落ちる。少年──ニコラの大粒のペリドットの瞳がぱちぱちと瞬く。
きょとんと顔を上げると、ほんの近くにある物の輪郭がわずかに見える程度の視界の中、机の隅に置いてあったランプの蝋がすっかり溶けて灯が消えているのが見えた。
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