とす、と体重がかかってきたのがわかって心臓が爆発した。もう何度目かの爆発だ。とっくに四散している気がしているのだが、幸い杉元は呼吸出来ているのでまだ生きている。いや、状況としては、一秒後には死んでいるかもしれない。
昨日、尾形とはじめてキスをした。あれだけいけ好かないし隙あらば殺したいとすら思っていた男と、どういうわけかキスをすることになって、した。そうは言っても、そこに感情が無かったわけではなく、明確に杉元は、キスがしたいと思ってしたのだ。
そして、あれからなんだか自分がおかしい。世界がガラリと変わった。なんというか、あの憎たらしい尾形が、かわ、
「ウワーーーーーー!!!!!!」
「うるせェ。他の客に迷惑だろうが」
ならその指をやめろ!!離れろ!!まあ別にこうしてるのは悪くはな……いや悪い!!目の前の白石の顔を見ろ居た堪れない!!
すすす、と胸のあたりをなぞってくる尾形の指をどうにもできないまま、杉元は言いたいことのひとつも言葉に出せずにせめてもと顔を仰け反らせる。するとそれが癪に触ったのか、至近距離にある尾形の眉間がぐっと寄せられてむすりと顰め面になった。それがまたかわ、……。
イヤ、イヤイヤイヤ、かわいい!?かわいいって、誰が!?誰に!?こいつにかわいいなんて思ったことなウワアアーーーーギュッて抱きつくのやめてェいい匂いするーーーーーー!!
「うるせえ、暑苦しい」
「なッ、ならその手離してえっ?」
出来る限り平静を装ってそれとなく抗議するものの、杉元の正論が気にいらないらしい。さらに眉間の皺が濃くなって、絡みついてくる腕にはもっとぎゅうと力が籠る。
ドッ、ドッ、ドッ、ドッ。
心臓の音が、さっきから未だかつて無いほどにうるさい。周囲の喧騒も白石の声も何もかも聞こえないほどだった。
だが、ぽつりと呟いた尾形の声はよく聞こえた。
「嫌だ」
〝嫌だ〟。その子どものような物言いに、心臓が、また爆発した。
「ッッッ、ッ、ォッ尾形お前酔ってるだろォ!?」
「酔ってねえ」
「いや酔ってる!!真っ赤じゃん酔ってるじゃん!!!!」
「うるせえつってんだろ」
「フガッ」
鼻を摘むな!だっからそういうかわいいことをいちいちするんじゃねーーーーよ!!いやそもそもかわいくな……いわけでは無いけど!イヤかわいいっていうか!
さっきから白石は白い目で見てくるし、それでもなんだかんだ尾形を引かはがすという簡単なことが出来ない。
どうしようも無くなって、結果杉元はガバガバ呑んで、そして後にめちゃくちゃ吐いた。
最後に見た景色は、アルコールのせいで普段よりも蕩けた目をする尾形だった。
ああ、やっぱりかわいい顔してやがる、クソ。