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    sssawara

    @sssawara

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    sssawara

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    お題:イベント

    コーヒーとミルクが溶け合うみたいに「百之助、昨日だいぶ不機嫌でめちゃくちゃ大変だったんだよね」
     カフェオレを傾けながら言うと、ココアを前にした杉元佐一は少々難しそうな顔をして途端にそわそわした。キモ。とは言わず、にこにこと笑顔を貼り付ける。
     大変だったは嘘である。尾形の機嫌がどうであろうと、宇佐美は特に気にしない。むしろ昨日は、調子の悪そうな尾形を楽しく観察した。コーヒーを零すペンを落とす椅子に座ろうとして転ける。いつもいびられる癖に人がいい谷垣は心底心配していて、月島には熱でもあるのかと言われる始末。仕事に関してのミスは無く大きな問題にはならなかったので、宇佐美にとってはただただ面白い一日であった。
     尾形とは、台風の目のような男だ。内には荒れ狂う嵐を抱えているのに、外から見える部分ではひどく冷淡を装っている。だが、とある時期から目に見えてコンディションが悪い日が来るようになり、その原因は決まって、他でもないこの杉元佐一であった。
     要は、痴話喧嘩である。
    「一応それなりに付き合い長いし、同僚として百之助のこと心配してるんだよね」
     嘘八百である。だがそんなことは、杉元が知る由もない。むしろ初対面であるために、そもそも杉元は宇佐美の顔どころか名前すら知らなかったのだ。宇佐美の人となりなんてもっとわからないだろう。
     宇佐美はと言えば、顔はいいと言った尾形が嫌がるのを無理やり見せてもらったので杉元の顔を把握している。無理やりとは言っても、あれは完全に惚気けていた。キモ。とその時も思ったが言わなかった。
    さて、街で本当にたまたま見かけた杉元に声を掛けたのは、何を隠そう面白そうだからである。尾形のことなどどうでもいいが、あの男が思い悩む姿は楽しい。
     そして実は、宇佐美の中でなんとなくその原因は予想がついている。
    「24日でしょ」
    「……聞いたんすか」
    「まあね」
     これまた嘘である。あの尾形が自分のことをぺらぺらと喋るはずが無く、宇佐美も尾形の愚痴もとい惚気なんて真っ平御免だ。だが聞かずとも想像するのは容易かった。24日。クリスマスイブ。今年は土日を挟むので、世の恋人たちは浮かれまくっている。だが尾形は、残念ながら社畜であった。休日出勤なんて当たり前の会社に勤めていて、プライベートを優先する男では決して無い。しかも、クリスマスイブというもの自体にも恐らく重きを置いていない。
    「べつに、あいつの生活を邪魔するつもりは無いスけど。俺自身はそういうの、もうちょっと大事にしたいなとは思うけど。でもあんな言い方されたら……」
    「キモ〜」
    「は?」
    「あ、ごめん間違えた」
    「まちがえ……?」
     なるほどなるほどと大袈裟に頷いてみせるが、この男もまた思いの外惚気けてくるので宇佐美はすぐに興味を失った。思わず心の声が漏れたのはそのせいである。
    「まああいつ素直じゃないからさ、無理矢理縛りつけるとかくらいしないと駄目だよ。ね、百之助」
     え、と面白いくらい固まった杉元が、次の瞬間には光速で後ろを振り返る。それと同時に同じように固まっていた尾形が弾けるように走り出して、立ち上がりかけた杉元がはっとして宇佐美のほうを見た。
    「いいよここは。百之助につけとくから」
     ひらりと手を振ると、杉元は「すいません」と言い切る前に踵を返し、尾形に続いて騒がしく店を出て行った。
     さて、と宇佐美はメニューを開く。
    「あ、すいませ〜ん。デラックスフルーツパフェの生クリーム倍量ひとつ」
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    sssawara

    DONEお題:鍋パーティー
    とりあえず今はぬくいので 白菜クタクタになってるぞ。月島、カニが煮えてるが食うか?はい、頂きます。杉元ビール切れちまった。お前も少しは働け。クーン。
    「あ、おかえり」
     尾形がリビングの入口で固まっていると、対面キッチンから缶ビールを手にした杉元がひょっこり顔を出した。
    「……今日なんかあったか」
    「いや、前から言ってただろ。今日は鍋パだって」
     ああ、そうだったか。そんな気がする。こちらの意思なぞ関係なく加入させられた、グループ名〝 お寿司有〼〟。そのメンバーである杉元と尾形以外のふたりと、少女の父の友人である男、仲良くも無いボンボンに、その世話役、では無いが不本意にもいつの間にかそうなってしまっている男。
     ふたりで物件を決めた時は十分広いなと思った十二畳のリビングが、広いどころか狭くすら感じる。いつも並んで座るソファは壁の方に追いやられて、リビングの中心に鎮座した炬燵を、皆がきゅうきゅうと身を縮こまらせ取り囲んでいた。救いなのは、その炬燵がファミリーサイズだったことだ。全身余すことなく暖かく包まれたいし、出来るだけこの中に入ったまま日常生活を済ませたい。ふたり暮しには必要の無い大きさの炬燵を、尾形がそう言って高給を振りかざし、杉元を黙らせて購入したブツである。
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