とこしえ したくない、とかじゃねえんだけど。杉元が、目を逸らしながらぼそぼそと言った。
そういうんじゃなくて。とりあえず今を噛み締めたい。
頬をかきながらの言葉の意味は、尾形にはわからない。ただ今夜は、身内と親しい友人に向けてそれらしい場を設けた日の夜だ。当然すると思っていたのに、いつまで経ってもそわそわしたままそういう雰囲気に持って行こうとしないので、ただただ〝求められない〟ことが不本意で仕方が無かったのは事実ではあった。尾形だって、そればかりが欲しい訳では無い。だが、要らないと言われることは不本意だ。それが杉元なら、尚更。
目の前では、つまらない深夜番組がつまらない音を流している。ドッと観客が沸いたが、何が面白いのか、そもそも何を言って何があったのかすら尾形の頭は認識していない。隣にいる杉元もまた、落ち着きのない男には珍しくじいとそこにいるだけだった。気持ち悪いぞ。そんな悪態は、何故かつく気にもならない。
静かなリビングでは、テレビからの音と、時計が時間を刻む音だけが空気を揺らしている。それ以外には、杉元と尾形だけ。拳ひとつ分空けてふたりソファに並んでいる。どれだけ経っただろう。一時間、それとも二時間だろうか。だが疑問に思っても、確認する気は起きなかった。
ふいに、きゅ、と繋がれた右手に力が込められた。反射的にその手を見、それから杉元を見上げる。相変わらず微動だにせず前を見据えていて、全く何を考えているのかわからない。
合わされた掌がじっとりとしている。汗っかきだという杉元の手汗だろう。ここだけが異様に暑い。無意識に手を緩ませたら、更にぎゅうと強く握られた。
空気が動く気配がして、ソファの重心がずれた。杉元が腰を浮かしたのだ。手を繋いだままだったので少し引っ張られる形になったが、すぐにまたボスンという少々乱暴な音とともに腕が戻ってくる。
体温が近くなった。拳ひとつ分を埋めるようにして、杉元がぴたりと身体を寄せてきたからだ。触れた右側が少しずつ暖かくなって、やがて触れていない左側にまで杉元の体温が浸透していくようだった。
「……なあ」
いつぶりに聞く声だろうか。呼ばれるままに顔を上げると、握っていない方の手で頬に触れられた。熱い。そう思っているうちに杉元の顔が近づいて、気づけば唇同士が触れた後だった。熱い。だが、セックスの時のどうしようもなく疼くものとは違い、ひどく心地いい温度だ。
この時間が、いつまで続くのだろう、と思った。
この時間が、いつまでも続いたら、と想った。