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    Oku12_hrak

    @Oku12_hrak
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    Oku12_hrak

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    尻を叩かせてくれこういうのを書いているif天ヤム長編の1話。たぶん完成まで半年くらいかかるかも……頑張りたい

    #天ヤム
    yamtien

    If天ヤム長編書き出し12歳.出逢い


     その痩せぎすの野良犬に出逢ったのは、何もない砂漠のような荒野であった。
     天津飯は武術の師であり、世界一の殺し屋といわれる男・桃白白と買い出しの帰り道であった。山奥の道場で暮らす天津飯たちは、二、三ヶ月に一度麓の村では買えないような品を街まで調達に行く。この荒野は帰りの通り道であった。
     何度も通っている荒野だが、山にいるような狂暴な生物もいない。生き物が住むには厳しい環境なのだろう。仮にいたとしても、桃白白の敵ではないが。つまるところ、特に危険もない荒野だった。
     だが、その日はいつもと違った。天津飯の三つの目が異変を捉える。天津飯はすぐに桃白白に知らせた。

    「桃白白さま。何かがこっちに向かってきます」
    「獣か?」
    「いえ、乗り物です。乗っているのはおそらくひとりです」
    「ふうん……」

     たいしたスピードではない。少しスピードをあげれば振りきれるだろう。しかし桃白白は逆にスピードを緩め、最後には完全に止まってしまった。その間に、例の乗り物は追いついた。行く手を阻むように天津飯たちが乗っていた車の前に立ちはだかる。スクーターにスキー板を取りつけたような奇妙な乗り物だった。そこから降り立ったのは。

    (……こども?)

     天津飯たちの前に現れたのは痩せっぽっちの少年だった。天津飯より少し年下だろうか。伸ばしっぱなしのボサボサ髪に、継ぎ接ぎされたボロの服。何より飢えた獣のようなギラついた目。ろくな生活を送っていないことは一目瞭然だった。
     少年は持っていた青竜刀を前につき出す。もちろんそんなものに怖じ気づく天津飯たちではなかったが、一応用件を聞いてやった。

    「おれたちに何のようだ」
    「知れたこと。おれはこの辺りを根城にしてる盗賊だ。お前らが持ってる金か食料を置いていけ。そうしたら命だけは助けてやる」

     盗賊。話を聞いた天津飯は大笑いしたくなった。よりにもよって世界一の殺し屋が乗った車を追い剥ぎしようとは!
     人を見る目と運のないガキだと、天津飯は内心で嘲笑う。そして桃白白に指示を仰いだ。

    「いかがしますか?」
    「……思い知らせてやりたいのだろう?」

     桃白白が邪悪に笑う。それを了承と受け取って、天津飯は車を降りた。ひとり前に立つ天津飯に、少年は怪訝な表情を浮かべる。

    「……なんだ。荷物を下ろすわけじゃなさそうだな?」
    「当然だ。貴様のような野良犬に渡すものなどない。格の違いってやつを教えてやるよ」
    「……馬鹿にしやがって! 後悔するなよ!」

     天津飯が身構える。少年は地を蹴って天津飯へと突進してきた。

    「やっ!」

     少年が青竜刀を横に薙ぐ。想定していたよりも早いが、避けられないほどではない。縦横無尽に繰り出される斬撃を、天津飯は難なく避けきった。

    (避けられないことはない……が、少々うっとうしいな)

     まずはあの刀を片づける。天津飯は最近覚えた技を使うことにした。指先に気を集中させる。そして凝縮したエネルギー波を一気に放出した。桃白白直伝の“どどん波”だ。

    「はっ!!」

     放出されたエネルギー弾は、少年の持っていた青竜刀を正確に捉えた。青竜刀が弾き飛ばされる。少年は何が起こったのか分からないのだろう。目を見開いて、明らかに動揺していた。
     天津飯は一気に少年の懐へ攻め込む。少年は青竜刀を取り戻すために、隙を見せると思ったのだ。
     だが、少年は天津飯へ向けて拳を繰り出した。天津飯は面食らったものの即座に避ける。すると今度は右から蹴りが飛んできた。なんとか避けたが、わずかにかすった。
     一旦距離を取る。少年が我流のものだろうが拳法の構えを取っていた。

    (拳法を使えたのか……)

     あの青竜刀だけが少年の攻撃手段だと思い込んでいた。己の油断に思わず舌打ちする。
     もう油断も慢心もなしだ。天津飯は心を落ち着かせるため一呼吸すると、再び少年へ襲いかかった。
     少年は天津飯の猛攻に食らいつくが、徐々に綻びが出始める。息ひとつ乱さない天津飯に対し、少年の方は大分息が上がっていた。
     少年の弱点を天津飯は早々に見抜いていた。少年にはスタミナがない。この痩せた姿を見れば、必要な栄養が取れていないことは一目瞭然だ。体力があろうはずもない。
     息が上がるにつれ、少年の攻撃は雑になり、隙が多くなっていく。彼のもうひとつの弱点はこの隙の多さだ。恐らく彼の拳法は自己流だ。故に基礎を知らず、無駄な動きが多い。それが分かれば、少年の攻撃はもう天津飯には当たらなかった。
     形勢の不利を悟ったのか、少年が天津飯から距離を取ろうとする。しかし、天津飯は逃がす気はなかった。少年のなびく髪を鷲掴み、自らに引き寄せる。ぶちぶちと髪が抜ける音がした。少年が僅かに顔を歪める。天津飯は構わず、彼の顔に拳をお見舞いした。

    「ぐっ……!」

     少年が痛みで反射的に目を瞑る。それが命取りだ。天津飯は一気に踏み込み、少年の腹部に打撃を数発叩き込む。少年の口から胃液が飛び散った。
     少年は腹を押さえ、よろめく。目の前にいるはずの天津飯を睨みつけたが、すでに彼はそこにはいない。天津飯は少年の背後に回り込んでいたのだ。
     少年が気がついたときには、天津飯は組んだ両手を振り下ろしていた。天津飯の両手が少年の後頭部を思い切り殴りつける。少年は声も立てられず、うつ伏せに倒れた。しばらく様子を見たが起き上がる気配はない。少年は完全に意識を失ったようだ。
     桃白白が車から降りて近づいてくる。天津飯は姿勢を正し、桃白白の評価を待った。

    「少々時間がかかりすぎだが……まあ及第点だろう」
    「ありがとうございます」

     天津飯は一礼して、再び気絶している少年へ視線を移す。

    「このガキどうします? ……殺しますか?」

     天津飯は人を殺してみたかった。将来は桃白白のような殺し屋を目指しているのだ。だが、天津飯はまだ人を殺したことがない。桃白白は天津飯の年の頃には、すでに人殺しを生業にしていたという。天津飯は桃白白にあこがれを抱いている。彼に少しでも近づきたい、彼と同じ道を辿りたい。そのために人を殺す感覚を掴んでおきたかった。
     だが、勝手な行動は許されない。天津飯は桃白白の指示を待った。自分たちに楯突いてきた子どもを生かしておくはずがない。天津飯はそう思っていた。

    「そうだな……ふうむ……」

     桃白白が少年の襟首を掴み持ち上げた。持ち上げられた少年の手足が、だらりと力なく垂れる。桃白白は少年をじっくり検分したのち、口を開いた。

    「連れて行こう」
    「え?」
    「文句があるか?」
    「い、いいえ」

     桃白白の口から出てきたのは、天津飯の予想を裏切るものだった。だが、師の決定には逆らえない。桃白白は少年を、荷物のように車の後部座席へ放り投げた。本当に連れて帰るつもりのようだ。天津飯は納得いかなかったが、一応進言した。

    「拘束しなくてよいのですか? 目が覚めたら暴れ出すと思いますが」
    「心配無用だ」

     そう言って桃白白は、少年のうなじを指で軽くつく。おそらく秘孔をついたのだ。殺し屋として人間の急所を的確に把握している桃白白の技巧に、天津飯は感嘆のため息をつく。自分もいつか彼のようになれるだろうか。

    「これで夜までは目覚めない。さて、時間を食った。さっさと帰ろう。このままでは道場に帰る前に日が暮れてしまう」

     早く乗れと急かされて、天津飯は助手席に乗り込む。天津飯と桃白白、そして少年を乗せた車は目的地に向けて再び走り出した。

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