出られない部屋──テニス部の部室の扉を開けるとそこは何も無い真っ白な部屋だった。
真田弦一郎はぱちぱちと瞬きをすると今しがた開けたばかりの扉をもう一度閉めようとして、既にそれが消え去っていることに気付いた。
これは一体どうした事だろうと、後ろを振り返れど扉はなくただ白い壁があるだけ。
真田は祖父からもらった大事な黒いキャップを被り直すとフーっと大きく息を吐き出した。帽子の中に収まりきれなかった真直な黒髪がパサリと揺れる。
「真田副部長〜」
その時なんとも情けない声がした。声の持ち主は見ずとも分かる。
「赤也か」
真田が声のした方を見れば先程は誰も居なかった筈の部屋の壁に寄りかかり項垂れている、黒い癖っ毛の少年がいた。同じテニス部で真田の一年後輩の切原赤也だ。赤也も学校の制服を着ているところをみると、真田と同じ様に部室に入ろうとして此処に来たのだろうか。
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