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    702_ay

    DC(赤安)、呪術(五夏)の二次創作同人サークル『702』のアカウントです。
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    702_ay

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    一か月遅れですが、キスの日をテーマにした話になります。
    5/29のインテでのペーパ予定でしたが印刷間に合わなかったのでここで供養します。

    ※夏油離脱後の呪術高専の話
    ※硝子さんはあくまで友愛です

    ##五夏

    「なぁ、傑ってキスしたことあんの?」
    「…………暇ならば悟がこの続きを書くかい?」
    「暇じゃねーよ。めちゃくちゃ忙しくネットサーフィンしてんじゃん」
     ほら見て、これめちゃくちゃ忙しいの。
     何個も立ち上げたスマートフォンのネットアプリの画面を見せると、夏油の眉がぴくりと反応し盛大に息を吐き出された。わかりやすい態度はそのまま、何も聞かなかったことにされ、男の視線がまた目の前にある報告書へと戻っている。
     夕暮れが見事なまでの色彩を伴って射し込んでいる時間。
     夏油の顔を彩る夕焼けも相まって、横顔がとても綺麗だった。何時間だろうと眺めていても飽きることはないが、視線に鋭い男を見つめていることができるのはせいぜい三分程度だろうか。いや。意外に短気な男は三分も待ってくれないかもしれない。綺麗だからこそ、ずっと見ていられないことが残念に思う。
     報告書を書いている夏油の隣で、ぎしぎしと椅子の二点を浮かしながらスマートフォンを触っていた。
     まだ二十分程度しか経っていないが、暇すぎて時間を持て余していて。勿論ここで声をかければ夏油に怒られることはわかっていた。互いに暇を持て余しているタイミングであれば、多少のちょっかいも怒ることはないが、夏油が今書いている報告書は一緒に行った任務の報告書だ。それをすべて任せているため、暇だと大っぴらに言う事もできない。とはいえ、とっくに気づいてはいるのだろうが。
     適当にネットサーフィンをしていた。たまたま五月二十三日と言う日付が検索に引っかかっただけ。これまたちょうど今日だっただけ。ただ、それだけの理由だ。
     五月二十三日。
     日本で初めてキスシーンが登場する映画が公開されたことに由来してキスの日と言われているらしい。非術師たちの間では。
     記事には由来となった映画のワンシーンなのか、モノクロのフィルム画像が表示されていた。
     へー、と思いながら夏油に声をかけたのが先ほどの質問だったのだが、脈略のない発言に夏油はいつも通りに軽く流された。
     唐突すぎたのもあるが、中身のない質問に暇をしていることを悟ったらしい。暇なら報告書を書けとは言うが、任務に向かう車の中で賭けをしたのだ。
     呪霊を多く祓ったほうが勝ち、という。
     結果として、負けた夏油が報告書を書くことになったのだから、せっかくの賭けを棒にふりたくはない。
    「それで、私の代わりに書くかい?」
    「えー。傑が俺より弱っちいからじゃん。弱者は強者の言う事聞かなきゃ」
    「傍若無人だな。ああ、悟。くれぐれも私以外と賭けはしないようにね」
     相手が可愛そうだ、とこともなげに言うあたり、五条の相手になるのは自分だけだと言っている時点で夏油も同罪だということに気づいていないのだろうか。
    (ま、傑以外とやっても楽しくないからしねぇけど)
     仮にするとしても九十九くらいだろうか。その他は楽勝過ぎて勝負にもならない。
    「で、あんの? キス」
    「さぁ、どうだったろうね」
    「何それ、言えないってことはしったってこと?」
    「えらく突っかかってくるね」
    「えー。そんなことないよ。ただ、なんとなく?」
     本当にそれだけだ。他意はまったくない。それなのにさっきまで紙を見つめていた黒翡翠が再びこちらを伺うようにじっと見てくる。
    「……もしかして、私は誘われているのかい?」
    「え? ……は、はいっ!? ち、ちげーって! ただ、キスってどうなのかなって思っただけじゃん」
     夏油とは恋人にはなったが、そういえばまだ手を繋いだばかり。小学生どころか、幼稚園児のレベルまでのことしかしていない。なんとなく、それ以上のことをするタイミングを逃しているだけだ。それだけなのだが、なんだか意気地なしと責められているような気がしてきた。
     思わず、俺たち恋人なのにさ、と口にして視線を慌ただしくそらすと、手にしていたペンを置いた夏油が席を立って近づいてきたのが気配でわかる。
    「ふーん。ならしてみる?」
    「は?」
     視界は黒一色。呼吸が一瞬止まった気がした。ただ触れただけの可愛いものだというのに、夏油の体温をすべて奪ったように自分の頬が瞬く間に熱くなる。
    「どうだった?」
    「…………レモンの味がしねぇ……」
    「ふっ! あはは! そうかそれは残念だったね」
    「おい! 笑いすぎだろ!」
    「いや、だって……悟がレモンとか言うから……すまない。今度は飴を舐めた後にしようか。キス」
     からかってんだろ! と畳みかけても相変わらず笑うだけの男と危うく喧嘩に発展しかけた。
     夏油との初めてのキス。
     人生で初めてのキス。
     いわゆるファーストキスにしては、ムードもなにもないあっさりしたものだったが間違いなく心が激しく揺れ動いた瞬間だった。





     二〇十七年五月二十三日。
     スマートフォンに表示される日付をなんとなく見ていた。
     時刻が一秒ずつ進むにつれ、数字が次々に変わっていくだけで、代わり映えはしない画面。そのうち、画面の電源が切れて暗くなる。
     生徒たちがいなくなった教室で、自分が学生だった時のように椅子をぎしぎしと揺らしているのも飽き、足を机の上に置いて、ぼんやりと黒板を見つめる。
     生徒たちがいた時は態度には出さないように気を付けていたが、やはり落ち着かない。結局、一度席を立って入口に向かったのに踵を返して再び席に着いた。
     ここにもしも自分以外の誰かがいるならば、何をやっているんだと笑われただろうか。
    ――いつになく落ち着きがないようだけど、どうかしたのかい? まぁ、落ち着きがないのは通常運転だとも思うけど
    ――ちげぇーし、ちょっと本当になんて言うか……
    ――まぁ、いいや。私は報告書を夜蛾先生に出しに行くけど、悟はどうする?
     そんな会話がされたはず。喉の奥で笑いながら、ついて行くと言うことをわかっていて、聞いてくるのは性格が悪くないだろうかとか思って。
    (やっぱ、来るわけないよねー……)
     なんとなく来るかなと思った。
     少し考えればわざわざ呪術高専に指名手配されている人間が来るわけがないし、ましてやこんなくだらない理由を掲げて会いに来るなど、あの男では考えられない。
     そもそも初めて自分たちがキスをした日だってことを夏油が覚えているかも怪しい。
     とっくに男とは袂を別った。道が変わってしまったのだ。当たり前に一緒にいることなんてできるわけがない。
     ひとつ息を吐いて教室を後にする。
     ここにいれば感情が過去に引きずられてしまう。無駄にキラキラ輝いているせいで、なんだかムカつくほどに今がみじめに感じてしまう。
     何となく頭に流れる陽気な曲を鼻で歌いながら歩く。感情と曲調が一致しない。だが、陽気な五条悟になれているはずだ。帰ったらどこの店の甘いものを食べて、明日は何を食べようかなんて考えているような男に。
    「五条」
     ぶらぶらと廊下を歩いていると声をかけられた。とっくに誰がいるかなんて気づいてはいたが、怪訝に立ち止まり半分振り返った瞳で何かと問う。
     視線の先にいる女――家入硝子は相変わらず疲れた顔をしていた。目の下の隈が痛ましいなと思うくらいには、日々忙しいのだろう。
     きっと声をかけたのが五条でなく、あの男なら家入に休息が取れているか心配をするのだろう。呪術師には互いの領域がある。医療行為の手伝いができないことを詫びながら、何か手伝おうかなんて提案だってするのかもしれない。
    「泊りだって聞いていたんだが、早いな」
    「そりゃぁー。僕くらいになると仕事も巻くことくらいあるよ」
    「いつもはそのまま帰ってこないのにな」
    「えー、ひどいな。そんなことありませーん。でも、今日は伊地知にいつものお礼ってことで、お土産と報告書まで提出済みなんだよねー。ばっちり仕事終わらせているんだから、苦情は受付ませーん」
     真面目な僕はちゃんとお仕事してるんで、と答えれば白い目で見られた。
    実際、忙しいことは理解しているはずだ。愛の鞭だと生徒に任務を押し付けることは稀にあるが、それはそれ。生徒たちで事足りる案件の時だけの話で、荷が重そうだと判断すれば補助として必ず一緒に行っている。
    「なるほど。それでさっき会った伊地知が動揺していたのか。試されていますか? と真顔で聞いてきたぞ。その後で嬉し泣きしていたな」
    「ええ! 嬉し泣きってなに!? 伊地知、大げさすぎじゃね!? それじゃ僕がいつもちゃんとしてないみたいじゃん」
    「してないからだろ。五条、後輩をからかうのはたまにしてやれ。伊地知が不憫だ」
     何か理由があるんだろ、と瞳で問われるのに苦笑を漏らしてしまった。どうして家入はこんなに目ざといのだろうか。
    「なんかさー。来るかなって思って。十年だし」
     キスしてから、と音にしようとして声の出しかたがわからなくなった。き、の形に口を作ったのに音になることなくて。息を無理やり押し出そうとして、辛うじて音になったのは乾いた吐息だけだ。
     真面目に仕事を終えれば、それはそれで褒めてくれるんじゃないだろうかなんて考えもよぎったが、それはまた別だ。今、求めていたのは違う。
    「……少しだけ羨ましいよ」
     誰がとは言わずとも家入にはわかったようだ。
    「何が?」
    「誰かをそれだけ好きになるって事はなかなかないからな。たとえクズがクズを相手にしていようが……」
     けなされているのか、羨ましがられているのか怪しいラインだが今は言葉の通りに受け取るべきなのだろう。家入の愛情表現も独特だと思う。たぶんそれは、自分たちに関しての話になるのだろうが。
    「硝子が言うほど綺麗なもんじゃないと僕は思うけどねー。綺麗どころかどす黒い気もするしー?」
     好意っていうよりも、執着みたいなもんだし。
     そう続ければ、わかってんじゃん、と家入は笑っていた。一緒にいた時間よりも、離別してからのほうが長いせいで、もはやあの男に向けている感情が何だかわからなくなってくる。
     夏油と出会う前までの自分がどうやって生きていたのかわからなくなるくらいには、自分自身のことさえあやふやになって、形が保たれていない気がするのだ。五条悟の形をしているのに、夏油傑の形を真似ようとしているようで。
    「ついでだ。私の話もしていいか?」
    「仕方ないな。優しい五条さんが今だけは硝子の身の上を聞いてあげよう」
     あっそ、と言うなり家入が窓の外に向けた。
    「いい年齢なんだから、そろそろ結婚しろと周りがうるさいんだけどさ」
    「ちょっと、待って!? 突然の内容すぎてさすがの僕でもびっくりしちゃうじゃん。もしかして、硝子の家も見合いとかうるさい系?」
    「五条の考えているような見合いは少ないと思うぞ。オマエの家が異常なんだ。御三家様にとっては当然なのかもしれないけど……って、オマエの家のことを突っ込みだしたらキリがないか。まぁ。とりあえず、私の話だけど、誰かいい人がいないのかって聞いてくるから、考えたわけ」
     考えてどうにかなるような問題なのだろうか。純粋に疑問に思ってしまうが、追及したところで家入が話したい内容には関係がないと黙殺されるのがオチだろうか。
     見合いについては、当主になる前までは家の人間がうるさかった。今は当主の意向に従うと従順な様子を見せているが、実際、隙あらば見合いをさせようとタイミングを見計らっていることを知っている。自分の場合はうるさい家の人間たちを力でねじ伏せてきたが、どうやら家入もこの手のことで苦労してきたのかもしれない。
    「それなりに好意を寄せていたやつがいたな、って。……ああ。一応、お門違いな嫉妬されたら面倒だから先に補足しておくけど、どっかの誰かさんと同じ執着じみた感情じゃないからな」
    「何それ。前置きするってことは傑ってこと? やばい、ウケるんだけ――……」
    「ソイツは常識があって、まぁまぁ男前で、自分よりも他人を優先するタイプで、」
    「おい待てよ、ほんき、で――……」
    「人の話は最後まで聞け。それと勘違いするなと言ったはずだ」
    「うっせ。勘違いなんてしてないし」
    「そんで、ソイツはムカつくくらい強くて、時々こっちじゃ考えつかないような行動するし、旧家だか何だか知らないけどお坊ちゃんだから金だけは持ってる」
    「は? え?」
    「そんなあべこべだけど一緒にいるのは楽しかった」
     家入が表情を消した。それはどう考えても好意を寄せている人間に見せる表情ではないと思う。一般的な女性よりは表情が乏しい家入だが、年相応に動揺や激情のようなものを極稀に表情に乗せることもあった。だが、今は綺麗にすべての感情を滑り落としているように見えて。
    「何それ、過去形?」
    「そ、過去形。だってもう、ソイツらには会えないもん」
     押し出された声は表情を裏切らないものだった。
     オマエとは同じ感情ではないと訂正まで入れてきたため、夏油のことを言っているのだと思ったが、後半は夏油とは真逆の人間のようだった。まるで、後半は夏油より自分のほうが当てはまりそうで。
    「なぁ、間違いとかじゃなかったらさ、それって――」
    「それに無駄にでかいから、ずっと見上げなきゃいけなかったのは面倒だったな」
     見下ろされるのは癪だけど。だから少しだけ後ろにいれば視線も合うし首痛くなかっただろ。
     と懐かしむような声になんだか胸が熱い。気にもしていなかったが、そういえば家入は隣より少しだけ後ろにいるほうが多かったかもしれない。
    「硝子が小さすぎんだろ」
    「オマエらと比べれば誰でも小さくなるだろ。で、問題はここからなんだけど。今、残ってるのはムカつくくらい強くて、馬鹿でかくて金しかないってポイントしか当てはまらないヤツだけだろ? おかげでホの字にもならないし、いい人からかけ離れすぎだしな」
     笑いながら言ってくる女に、思わず瞬いてしまった。夏油の話をしているのだと思っていたら、矛先が想定外のほうにも向いていて。これはもしかして。
    「もしかして、今、僕が振られたの? つーか、何の話してたっけ!? 硝子の恋バナじゃなかったっけ!?」
    「そ、振ったの。五条、振られたことなんて今までないだろ。いいざまだな」
     くくっ、と笑う家入はひらひらと手を振ってそのまま歩いていく。
    「僕の心を弄ぶなんてひどすぎじゃん」
    「はは。オマエたち二人を足して二で割ったぐらいが良いから、そんな男がいたら紹介よろしく。じゃあな。私はまだ仕事が残っているんだ」
     夏油の話はここでは禁句に近い。口にすることさえ、憚れることにいつも、もやもやとしていた。だから、こうして時々でも話すことができるのは嬉しい。
    「振られたことがないって……? はは、一生に一度の大恋愛だと思ってたら、まさかの盛大な失恋を現在進行形で経験中だっての」
     死んだなんて話は聞いていない。なら、また十年後の今日になれば、会いに来てくれるかもしれない。
     だって、今日は初めてキスをした記念日なのだから。

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