『悪夢』「絵梨佳・・・」
扉の向こうから私の名前を囁く声が聞こえた。それに続いてノックの音が聞こえてくる。
「開けて・・・」
この声には聞き覚えがある。
「お母さん・・・?」
母の声だ。五年前に亡くなったはずの母の声に間違いない。私は恐る恐るドアを開けた。そこには紛れもなく母の姿があった。私は驚きと嬉しさで言葉を失ったまま、母の顔を見つめていた。母はそんな私を見て優しく微笑んだ。そしてゆっくりと手を伸ばして私の頬に触れた。
「お母さん、私・・・」
私は母に抱きついて泣き出した。母の身体は温かく柔らかかった。私は今まで我慢していたものを吐き出すように泣いた。
「カワイソウニ」
「え・・・」
母の声と共に頬に何かが垂れて伝った。涙ではない。生温かい液体だった。それはまるで血のように赤い色をしていた。私は驚いて母の顔を見た。するとさっきまで笑っていた母の顔が歪んでいくではないか。髪が伸び、口元は裂けるように大きく広がっていった。
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