貴族パロー仮面舞踏会編夜も更けた森の中に、不自然に輝く明かりが一つ。
森の中にひっそり佇む小さな屋敷。
怪しげな林に囲まれたココが、本日の舞踏会のステージだ。
黒塗りの馬車が闇に溶ける。
スルリスルリと絹切れの音が辺りに満ちる。
煌びやかな仮面が月に照らされ、鮮やかな光沢を放っていた。
さざめきのように人が集まる。
コツコツカツカツ音を立てて、固い階段を登っていく。
山奥とは思えないほどの立派な広間に、迎え入れられた人々が、仮面の奥でほぉ…と息を吐く。
主催の身分は明かされていないが、相当立派な主人がこの河舞踏会を開いたのだろう。
是非ともお近づきになりたいと噂する声、絢爛豪華な屋敷に感服する声、それに入り混じり、一夜を共にするパートナーを探す甘い声…。
仮面で表情が見えないながらも、ささやかで確かな興奮が、人々の間に広がっていた。
ゆるりゆるりと、音楽隊が楽器を持ち上げる。
広間にゆるりとした三拍子がいつのまに満ち渡り、中央の人々は互いに手を取り合っていた。
滑る足音、交わる視線。
仮面越しでは、誰が誰だかわからない。
今手をとって踊ったのは、政界で弁を振るう猛者かもしれない。先程熱い口づけを交わした女は、身持ちの固いと有名な淑女だったかもしれない。
皆窮屈な階級制度を忘れ、思い思いに自由に身を委ねていた。
一際大きくピアノが歌う。
入口からサァ…と、人並みが割れた。
さながらモーセの海渡り。
中央に現れた人物は、堂々とした足取りで広間を進む。
仮面越しでもわかるほど、その姿は威厳と自信に満ち溢れ、彼の体を大きく見せた。