【さまささ・ワンドロ】ゴールはスタート地点に設定されている【剣賢パロ】 不本意で、申し訳ない別れ方をしてしまった元相棒を必ず見つけ出すという使命を背負って、ローブにステッキ、日傘、そして何より大切な魔石のペンダントを首にさげて簓は森の奥に作った我が家から旅立とうとしている。
数日前から村の方が妙にざわついているが、盧笙が何も言ってこないということは杞憂なのだろう。
このままトウキョウ方面へ飛び出して行っても良かったが、何も言わずに旅立ってしまえば、あの律儀な幼馴染は「アホォ! 見送りくらいさせんかい!」とどこまでも追いかけてくるだろうことが容易に想像できた。
簓は外へ出るとすぐさま日傘をポンと開く。そして、お世話になった家へ厳重に鍵をかけた。ここへはしばらく、左馬刻と再会するまで戻ってくるつもりはない。
「左馬刻、まだトウキョウおるとええんやけど」
一度拳で包み込んだペンダントを額に強く押し当てる。じわりと滲むずいぶんと弱くなった水の波動に祈りを込める。
「絶対大丈夫や」
簓は己を奮い立たせると、ペンダントを服の下へと仕舞いこんだ。
ローブのフードを目深にかぶり、左手には日傘、右手にはステッキを握って森の中にある細い道をざくざくと歩く。深い深い森を突き抜けると、少し幅の広くなった道は小さな村へと続いている。
木々が覆い茂った森とは違い、村の中は直射日光で照らされており、簓にとっては毒だ。彼はさっさと用事を済ませてしまおうと、目的地である盧笙の家へと急ぐ。
あと少しでたどり着くというところで、盧笙の家から珈琲の香りが漂っていることに簓は気付いた。盧笙は基本的に薬草茶を飲むため、彼の家から珈琲の香りがするのは珍しいことだ。
来客中なら出直した方がいいかと思ったが、盧笙の周りには生徒や村人がよくいるため人が全くいないタイミングを狙うのは難しいように思われた。簓はこれから旅に出ることを考え、来客中であろう盧笙の家に押しかけることに決めた。
「うっさいわ! 近所迷惑やろ」と盧笙が飛び出してくるのを想像して、遠慮なしに簓は扉をドンドンと叩く。
「盧笙~~! 簓さんやでー!」