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    ashuka_g

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    ashuka_g

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    昔書いたものの続きの書きかけですが完成する予定がないので、供養。
    山犬、猫又、天狗、鎌鼬な新2年生が出ます。

    鬼と贄1.5「紅郎ちんの名前を呼んだ人ってどんなひとだったの?」
    山の中で落ちていた枝を拾って帰ってきて開口一番、そう尋ねると社の主は記憶をたどるように空(くう)を見つめた。彼は今朝から社の階(きざはし)に腰を下ろして、何やら器用に布に針を刺している。何をしているのか聞いても「ちょっとな」としか答えないので尋ねるのはやめた。
    ここにきて半月ほど経つ。暮らしは決して豊かではないけど紅郎ちんが魚や獣を捕ってくるから食べるのに難儀はしない。野菜や主食の穀物が少ないのは仕方が無い。食べられる野草を摘んでくるのはおれの仕事だ(おれが食うのだから当然なのだけど)。近くには綺麗な川もあるし、そもそも村では貧乏な生活をしていたから多少の苦難は全くもってへっちゃらだった。なにより、相変わらずここの主は優しかったから。
    「……お前の、前の、前の……その前だったか……その前だったかにここに来たやつで」
    記憶を辿りながら彼は口を動かした。あまり喋るのは得意ではないらしいと知ったのはここに来て数日目のことだった。おれも喋るのは得意じゃなかったから無言でいてもお互い気にしない、気にならないというのはとても助かる。
    「目を患っていてな、ここに来るのも難儀していた」
    「目を?」
    「生まれつきあまり見えなかったそうだ。すげぇ気が強くて、俺に説教垂れ流してきたやつはアイツだけだな」
    くくく、と愉快そうに紅郎ちんは笑った。なんとなく嬉しそうな彼の様子が少しだけおもしろくない。おれの3人か4人前だと30~40年くらい前のことなのに……鬼にとってはつい先ほどの出来事かもしれないけど。
    「たしか……俺に名前が無いと言うと『お前は紅いから紅郎でどうだ』とか安直に名付けられた。色くらいしか見えなかったんだろうな」
    「……ふ~ん。それでその人は結局どうしたの?」
    30年、40年前の話なら生きていてもおかしくはない。ここに残っていたならなぜこの社に今はいないのか、気になる。
    「ここに残ると言われたが目の見えないやつの世話を俺はできねぇからな。町の医者に預けた」
    「…………紅郎ちん、町に降りるの?」
    鬼の姿で人の住むところへ降りれば畏れられるだろうに。下手をすれば民衆に攻撃されかねない。
    「ああ、いや……俺は降りれねぇんだけどよ。なんつーか……ここいらの鬼やら妖の類いを束ねる長みたいなヤツに頼んだ。……どうした?今日はやけに聞いてくるな」
    「ちょっと気になっただけ。そっか……」
    知らないことは沢山ある。せまい世界で暮らしていたのだから仕方が無いのだけど。
    「たいしょ~!」
    突然草むらから黒い塊が飛び出して、巨躯に体当たりをかます。衝撃に驚いて拾ってきた枝をばらまいて地面に尻餅をついてしまった。その状態のまま呆然と、何やら布に針を刺していたのを中断された紅郎ちんと、彼に嬉しそうにじゃれつく獣を見つめる。
    「大将っ!ただいま帰還したっス~!」
    真っ黒な毛並みにところどころ鮮やかな赤が混じった、恐らく犬。だが、犬にしては大きくてやけに毛艶がいいように思えた。それに
    (……しゃべっ、)
    人間のおれにもわかる言葉が、紅郎ちんの低い声でもおれの声でもないちょっと高い少年のような声で、黒い獣から発せられている。その獣の首根っこをつかみ、紅郎ちんは自分の目の前にぶら下げた。
    「……鉄」
    「うみゅっ!」
    「針持ってる時に飛びかかってくんなって何度言ったらわかる」
    怒ったような低い声に、ぶら下げられた黒い獣は身を縮こませる。
    「ご、ごめんなさいっス~……」
    泣きそうな声色で獣が謝ると、紅郎ちんは手を離した。そして、尻餅をついたまま呆然としているおれに気付いたのか黒い獣の顔をおれの方に向ける。
    「おら、驚いてひっくり返ってんだろ。謝ってお前も薪を拾え」
    「ふぇ?……に、人間?人間がいる~!?」
    「うるせぇ」
    おれの姿を認めた途端にあわてふためく黒い獣を叱責して紅郎ちんはさらに押さえ込んだ。
    「なんでこんなとこに人間がいるんっスか~!?」
    「いつものアレだ。騒ぐな。アイツがビビるだろ」
    きゃんきゃんと叫ぶ獣の様子を見ていると、彼(?)をおさえつけていた紅郎ちんと視線がかち合う。紅郎ちんはなんとか黒い獣をなだめようとしていた。
    「おい。アイツはお前を傷つけたりなんかしねぇからよ、落ち着け」
    「……く、くろ~ちん……その、犬?は……?」
    「山犬の鉄ってんだが、ちっと人間にいい思い出がなくてな……騒がしくして悪いな」
    暴れていた黒い犬が震えながらも紅郎ちんの懐へ潜ろうとしていた。そんなにビビられるような容姿をしているつもりはないんだけどな……。
    「やま、いぬ……てつ?」
    「鉄くん、人間と暮らしていた時に人間にいたぶり殺されそうになったんだって。ひどいことするよねぇ、人間ってさぁ」
    「ほんとだよなぁ。俺の飼い主はいい人だったんだけど……鉄虎、いい加減に落ち着けよ」
    「うみゃぁぁぁあ!?」
    背後からまたふたり、少年の声がして振り向きながら後ずさった。
    夕焼けの色を閉じ込めたような明るい髪をした、赤い装束を身につけた少年の背中には黒い翼。柔らかな土のような髪の、薄浅葱の装束を身につけた少年の頭上には猫のような耳が見える。……人間のように見えるけど、違和感が拭えない。
    「あっはは~!うみゃあだって!お嬢さんも猫又なの~?友くんのお仲間さん?」
    「いや、普通にびびって悲鳴あげただけで人間だろ」
    「そうだよねぇ。仲間な感じしないもんね」
    にひひと笑う翼を背負った少年を小突いて、猫のような少年が地面にしゃがみこんでおれがばらまいた枝を拾い始めた。
    「どうした、お前らまで」
    「赤鬼さんに伝言があったから~」
    翼の生えた少年が高下駄で器用に軽やかにこちらへ近付いてくる。そして可愛らしく微笑むとおれが立ち上がるのに手を貸してくれた。
    「……あ、ありがと……」
    「いえいえ、どういたしまして!俺は天狗のひなた、あそこで木の枝拾ってるのは猫又の友也くん。俺は友くんって呼んでるよ。あと、君の背後にいるのが鎌鼬の宙くんね」
    「背後?」
    「HaHa~こんなところに人間がいるのは珍しいな~?」
    「うみゃぁぁぁあっ!!」
    本人曰くひなたの言葉に振り向けば秋のイチョウの葉のような髪の毛をした、こちらも少年がいつの間にかニコニコした笑顔を浮かべて立っていた。驚いて思わずひなたの体に抱きついてしまう。
    「お嬢さんは大胆だなぁ~?」
    けたけたと笑いながらひなたはおれの体を抱きしめて「危害を加える気は無いから安心してね~」と背中をぽんぽんと軽く叩いた。
    「……人間の女の子ってもっとふわふわしてやわっこいんだと思ってたけど骨だらけだね?」
    「ご、ごめ……っ離れ、」
    おかしいなぁと言いながらひなたはべたべたとおれの体を確認するように触る。ここへ来て、少しは肉がついたと思ったんだけどやっぱり骨だらけか……。
    「ひなちゃんずるいな~!宙もぎゅっぎゅってしたいです~!」
    「お前らいい加減に離れろ。人間ってのは俺らよりヤワなんだから」
    宙と呼ばれた少年がおれに抱きつこうとしていたのを友也、と呼ばれた少年が片手で止める。
    「あっ、薪!」
    「拾っておきましたよ」
    「あ……ありがとう……」
    この中では常識的な立場らしい友也に指示され、ひなたもおれから離れた。改めて見ると三人(?)とも現実離れした綺麗さだ。
    「お嬢さんのお名前は?」
    「えっと……なずな」
    「小さい白い花の名前だな」
    「HaHa~春に咲くな~宙はちゃんと覚えています」
    名前を聞くと彼らはわいわいと話を盛り上げる。雑草の名前、としか言われたことがなくて、少しムズ痒い。
    「なず、あまり安易に名前を明かすな」
    怯えたままの山犬を従えて紅郎ちんも盛り上がっているこちらへ歩いてきた。
    「そうだよ、お花のお嬢さん。オレらにはそんな力はないけど力のある妖怪とか神さまに名前を簡単に教えちゃダメだからね」
    「ひなたが聞いたんだろ」
    「だって呼び方がわからないと仲良くなれないじゃん」
    「まさか赤鬼さんが注意してくるとは思わなかったな~?」
    どことなくむすっとした顔の紅郎ちんを見上げて三人の少年は楽しげに、にやにやと笑う。その様子に紅郎ちんの眉間のしわがまた深くなった。
    「心配しなくても零さんにはわざわざ言いませんから」
    「聞かれたら答えなきゃいけないけどオレらからは言わないよ」
    「宙もししょ~には言いません!」
    「……で、てめぇらは何しに来たんだ?」
    はぁ、とため息をついて、紅郎ちんが尋ねるとひなたが忘れてた!と言って着物の中を探った。紅郎ちんの足元で警戒しながらおれを見上げる山犬と目線を合わせるようにしゃがむとびくりと体を縮こませる。う~ん……人間が怖いのか。なんだか、可哀想だ。
    「零さんから頼まれ物だよ~」
    「ああ」
    取り出されたのは暗い色の、折りたたまれた布の塊。それを受け取り、紅郎ちんはその布の手触りを確かめるように撫でる。
    「以前の報酬を今度持って行きがてらまた近いうちに顔を出すからの~っていってたから多分近いうちに来るんじゃないかなぁ」
    「忘れてなきゃな」
    「問題はそれなんだよね~」
    「いつでもここにいる俺と違ってあいつは忙しいからな。体には気をつけろって言っといてくれ」
    「了解~。用事は済んだけど友くん、宙くん、どうする?」
    「戻るか?」
    「宙はなずなと遊びたいな~。人間と触れ合うのは珍しいことですから、ししょ~も賛成してくれます!」


    (供養🙏)
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