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    ashuka_g

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    ashuka_g

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    まだ気が済まないようです……

    ⑫国言己パロ 4 =帰還=世界の中心。黄海のさらに中心にある五つの山。そのうちの一つ、蓬山(ほうざん)。
    仁麒の使令である赤暗色の豹に似た妖魔、鉤吾(こうご)に騎乗し、蓬山に辿りついた仁国の新王は地面に足を着くと、力無くその場にうずくまった。
    「主上!?」
    急ぎ銅色の大犬に似た妖魔から飛び降りた麒麟は彼に駆け寄る。
    男はちいさくうめいた。
    「……酔った」
    嘘だろう、と言いそうになったのを飲み込んだ。たしかに帰りを急いだけれど、鉤吾の……否、使令にした妖魔の走りはそんなに激しくない。
    仁麒は己の主に最大限の配慮をしたつもりだった。鉤吾には慎重に丁重に運ぶように言い含めたし、鉤吾もそれに是と返した。道中も無茶をしている様子ではなかった。
    口数が少なくなったのは、空の旅が快適で眠たくなったからだと思っていた。
    鉤吾がどことなく落ち込んだように頭を垂れ、仁麒の影に遁甲した。
    『見た目にそぐわず、脆弱な』
    女怪が小さく吐き捨てるのを、仁麒は内心でたしなめる。
    昇山してきた者たちに、彼が新王であると紹介するつもりだった。吉日を待ち、天勅を受け、登極し、国に戻る。それまで少しの間、耐えてほしいと。しかし、それどころではなくなった。
    門を開けば女仙たちが、昇山者が、待っているだろう。おそらく、だが。仁麒が王を連れて戻ってきたことは女仙たちに知られているはずだ。
    門までは多少の距離がある。甫渡(ほと)宮を避け、蓬廬(ほうろ)宮に彼を連れて行って休ませたい。ぐるりとあたりを見回し、もう一度、鉤吾に王を任せようかと思ったが、どうやら鉤吾は落ち込んでいるようで元気がない。猗即(いそく)がそんな鉤吾を励ましている。影の中とはいえ、少し気配をさぐればそんなやり取りを感じられた。
    「昔から、乗り物に弱くてよ……わりぃ」
    ちいさな声で男は詫びた。
    「クルマとかヒコウキじゃねぇし、いけるかと思ったんだが」
    「具合が悪いなら休めるところまで運ぼう。あと一度だけガマンできるか?」
    軽く頭を上げる。わずかに逡巡して、虚ろな顔でこくりと頷いた。
    「この門の中には主上を待ちわびている民の一部がいる。遠目に、夜目にでもお姿を見せてあげて欲しい」
    「……あ?」
    なんて?と続けようとした。それは言葉にならず。
    異界より連れてこられた男は、目の前の光景にあんぐりと口を開けた。
    美しい獣がいた。馬にしてはちいさく、鹿にしては大きい。すらりとした体躯に光をまとった鬣が揺れている。そして、額には繊細でありながらも立派な角が、よく磨かれた真珠のように光っていた。
    慈愛の瞳が男を見つめた。
    先ほどまでいた人物が居ない。それが着ていた服は石畳に散らかされていた。その服に女怪が手を伸ばして回収する。
    「ジンキ……か?」
    「ああ。背中に乗ってくれ」
    乗りやすいようにとかがんだ金色の獣から、たしかに声がした。
    夢を見ているのか。
    いや、あの子どもが現れてからずっと夢を見ている気分だ。
    気分の悪い胸を抑え、回転の鈍くなった頭で考える。深く考えても、何も理解できる気がしない。どうにでもなれ、と男は吹っ切った。
    獣に股がる。そばの女怪が険しい顔をした気がした。
    「しっかりつかまって。でも背中は伸ばしてて」
    言われたとおり、男は鬣を引っ張らない程度に軽くつかみ、背筋を伸ばした。
    獣は軽く跳躍し、一気に門の上まで移動した。門の中では深夜にも関わらず、篝火が煌々と焚かれ、至る所にはられた幕舎の傍には門を凝視している人間がたくさんいる。門の前には同じような装束をまとった女性が大勢待機していた。その群衆のひとりがふいに上を仰ぎ見て、仁麒を見つけた。
    「仁麒!」
    その声に門の内側にいた全員の視線が仁麒と、男に刺さる。
    ああ、だとか、おお、だとか。
    どよめきが起こるのと同時に、彼らは石畳に伏せた頭をこすり付けた。
    仁麒は蹄で山の岩肌を二度蹴り、また軽く跳躍する。またたきの間に彼らは山の中腹にある宮に到着した。
    「具合は悪くなってないか」
    獣は膝を折る。
    「……一瞬のことで、何が何だか」
    困惑しながら男は再び地面に足を着いた。両の足で立ち、岩肌を見下ろす。あんなにも焚かれていた篝火が、まるで米粒のようにちいさい。
    「てか、その姿は何なんだ」
    「麒麟の獣の姿だ。麒麟は獣と人と、ふたつの姿がある」
    聞きたいことはたくさんあるのだが、男は具合が悪かった。とりあえず休めば楽になるのはわかっている。
    遅れて女怪が、仁麒の脱ぎ散らかした服をたずさえてやってきた。さらにすこし遠くから複数の気配がする。
    素早く人型に戻った仁麒に、斎宮は服を着せた。えりやすそを整えていると慌ただしい様子で複数の女仙が飛び込んでくる。
    いきなり飛び出していくから心配した、と言う女仙らの声に仁麒は素直に謝った。
    すこし落ち着いたところで、女仙らは膝をつき頭をたれた。異国からの客人に。
    「体調が優れないみたいだから、歓待の前に休む準備を頼む」
    仁麒の言葉に、すでに宮の支度はできていると答えたのは、仁麒の世話係筆頭だった。

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