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    nu_htrgoto

    ここが墓場

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    nu_htrgoto

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    夏虎/深夜にラーメンを食べに行くふたりのはなし。

    『さぁ、明日はなにをしよう。』

    チャーシュー一枚分のアイラブユー ぐぅ。と、熱の篭った湿っぽい部屋に腹の音が響く。

    「腹、減った」

     下着一枚でベッドへと気だるげに寝転がる悠仁がぽつりとそう呟いた。
     時計の針が指すのは、夜中の一時を少し過ぎたほど。今からなにか食べるのには、少し悩ましい時間である。それでも腹の虫は主張をやめることはなく、悠仁は低く唸りながら寝返りをうち、うつ伏せになると枕に顔を埋めながら「……ラーメン」と言った。
     そのくぐもった声はしっかりと拾われ、「悠仁は若いねぇ」とシャワーを浴びて出てきた夏油はからかうように笑う。
     悠仁は少しだけ顔をあげるじとりとしたまなこを向け、口を小さく尖らせる。

    「もう若くねぇし。つーか誰のせいだと思ってンの? 出張から帰ってきたと思ったら俺のこと、有無をいわさずベッドに引きずり込んだの、誰だよ?」
     その視線を躱すように、タオルで頭を覆いガシガシと雑に拭きながら夏油は散らばった服を身につけていく。そうして「私だね」と悪びれる素振りはひとつもない。その様子に、悠仁はますます口を尖らせるのだ。
    「あ〜ぁ、今日はカレーだったのに。野菜も肉もごろごろ入ったカレーだったのに。俺、楽しみにしてたのに」
    「おや、それは悪かったね。 でも、なんだかんだ言って悠仁だって乗り気だったじゃないか」
     クツクツと夏油が喉を鳴らせば、顔を真っ赤にした悠仁ががばりと起き上がり枕を投げつけた。が、もちろん簡単に躱される。
    「〜〜っ、先輩のばか!」
     もう何回だって、それこそ数え切れないほど体を重ね合わせているというのに、まだその可愛らしい反応をみせる悠仁に、夏油は愛おしそうに目尻を優しく溶かした。

    「はは、ごめんって。 ほら、じゃあ行こう?」
    「? どこに?」
     夏油が放って寄こしたスウェットと受け取り、悠仁はのろのろと身につけながら頭にクエスチョンマークを浮かべた。

    「明日はふたりとも休みだよ、たまにはワルイコト、しようよ」

     そう言って、夏油は口元に綺麗な弧を描いた。


    ***


    「っしゃぃやせー!」

     ガラリと薄いガラスの引き戸を開ければ、この時間だというのに覇気のある店員の声と、油っぽい熱気がふたりを迎え入れた。
     券売機の前で横並びになり、大きな体をぎゅうぎゅうと寄せ合いながら夏油と悠仁はパネルを覗き込む。

    「私はラーメン大盛りにネギ。 悠仁は?」
     早々に食べるものを決めてしまった夏油に、悠仁は「えぇ! はや! つかまたソレ?」と声を上げ、頭を捻った。
    「う〜ぅん、どうしよ。 チャーシュー大盛り? いやでもこの時間だし? やめとくべき? 普通のラーメンにしとく? いやでもチャーシューいっぱい食べたいし……」
     うろうろと悠仁の指先を行ったり来たりしているとろこで、横から伸びてきたひと回り大きな手が『ラーメン大盛り』のボタを押した。
    「!」
    「はい、時間切れ」
     何か言いたげな瞳で悠仁は夏油を見上げるけれど、夏油はにこりと笑い。券売機は無情にもラーメン大盛りのチケットとお釣りを吐き出した。



     お待たせしやしたー。と、あたたかそうな湯気が立つどんぶりがふたつ、目の前に運ばれてくる。いただきます、と両手を合わせ、箸を割り豪快に麺を啜り上げた。

    「んんん〜 うッまぁ〜〜!」

     味わうように咀嚼しごくんと飲み込むと、悠仁は満足そうに笑った。はふはふと息を吐きながら、幸せそうにラーメンを食べ進める悠仁を、夏油は横目で盗み見ると、「美味いねぇ」と自分も笑ってラーメンを啜った。

    「一枚あげる」
    「え! いいの!?」
     はい。と自分の器に置かれたチャーシューと夏油を、悠仁は交互に視線を動かした。
    「チャーシュー、いっぱい食べたかったんだろう? まぁ、言うほどいっぱいじゃないけど、今日はこれで我慢しておきなよ」
    「ううん! 全然いい、先輩ありがとう!」
     キラキラと瞳を輝かせ、悠仁は夏油にニィと笑いかける。
    「ちょー嬉しい! 先輩アイシテル!」
     その言葉に、夏油は呆れたように、でもそれでいて満足気に。
    「まったく、愛してる、が安いなぁ」
     と優しく笑うのだ。



     ラーメン屋から高専までの帰り道は、月あかりが穏やかに地面を照らす。全てが眠っているのかと錯覚してしまうほどひどく静かで、まるで世界から切り離されたかのようだ。

     ふいに。隣を歩くふたりのてのひらがコツンとぶつかって、はじめからそうであったかのように、自然と絡まりあった。
     きゅう、と。混じり合うお互いの温度を確かめるように、悠仁が繋がっている手に力を込めれば、同じだけの力で包み込まれる。それにたまらなく、胸の奥がむずむずとして、夏油との少し空いていた距離を詰めた。

     ふっ、と影が覆う。
     
     柔い感触と、温度が、悠仁の少しかさついた唇に落ちて。目の前いっぱいには月のあかりに照らされた夏油が、悪戯に成功した子供のように笑っている。

    「誰かにみられたらどーすんの?」
    「こんな時間だよ。平気さ」
    「そうかな?」
    「そうだよ」

     言葉遊びを楽しみながら、ふたりは顔を見合わせて、クスクス、と秘め事を楽しむかのように小さく笑う。

    「てか先輩ネギくさい」
    「悠仁だってニンニクのにおい、するよ?」

     それにまた、顔を見合わせてクスクスと笑い。
     それから――。


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