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    nu_htrgoto

    ここが墓場

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    nu_htrgoto

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    夏虎/処刑前のふたりの夜。

    『明日、この世界の神話になる君は 人知れず、多くを救って逝くのだろう』

    神話前夜。 しん、と深く静かな、月さえも眠る夜。明かりもない真っ暗な部屋に、熱っぽく荒い呼吸がふたつ重なり合う。

     もう何度果てたかわからない。それでも、生きていることを確かめるように。今、ここにある温度を分け合うように。お互いの存在を刻み込むように、悠仁と夏油は何度も何度も、身体を重ね合った。

     愛している、だとか。好きだ、だとか。言葉ひとつで全てを伝えきれないことを、夏油はわかっている。
     それでもその一欠片でも、伝えたくてしかたがなくて、安っぽい言葉で何度も紡ぐ。
     夏油のなかにある、煮詰めたいちごジャムのような感情も。春の陽射しのように柔らかな感情も。身を裂かれるような激しい感情も。泣きたくて震えそうな感情も。
     吹いたら飛んでいきそうなほど軽い言葉で、何度も、何度も紡ぐのだ。

     言葉でも、身体でも。夏油の全てを使って虎杖悠仁、たったひとりへと愛を語る。



     何度目かの絶頂。
     悠仁の掠れた甘い声と、夏油の愛の言葉が重なり合う。
     ゆらゆらと揺れる、月明かりの瞳が夏油と交じあって愛おしげに細められる。

    「幸せ、だね」

     清々しいほどの穏やかな顔で、どこまでも残酷な言葉を口をする悠仁に、夏油はぐっと言葉が詰まり、その代わりに目の奥が熱くなった。

    「、…逃げよう、」

     低く掠れた声で縋るように言えど、悠仁はふるふると優しく首を横に振るだけだった。

    「逃げないよ」
     意志の強い、はっきりとした声。
    「俺を俺が、許せない」

     ごめんね。と言って、手を夏油の頬へ滑らせた。

    「泣かんでよ、」
    「……泣いてないよ」
    「でも、これから泣くんでしょ」

     少しだけ、ようやく切なげに眉を顰めて笑う悠仁の唇に夏油が噛み付いた。そうして、酸素を奪うように舌を絡めて、お互いがひとつになるくらい、深く深くキスをした。
     泣くんでしょ。の返事は有耶無耶にして。今はただ、この先ずっと忘れないように、ひとつだって薄れないように、温度を、鼓動を、存在を刻む。

     ――愛してる。
     行かないで。忘れないで。逃げ出そう。いなくならないで。置いていかないで。ずっとそばにいて。連れってよ。
     愛してる、あいしてる。
     他の言葉の代わりに、そればかりを繰り返した。



     もう限界だ、と果てた後に意識を手放し、腕の中ですぅすぅと寝息を立てる悠仁を、夏油は静かにみつめている。
     カーテンも引いていない窓から覗く外は、真っ暗などこまでも続く夜は終わりを告げ、薄らと白みがかる。あどけない寝顔をほのかに照らし始めた。
     もう、そこまで朝が迫っていた。

     眠りたくなかった。
     目を閉じて、眠りに落ちて、それから目を開けて醒めてしまえば、腕のなかのこの小さくて大きな幸せは、もうこの世界からなくなってしまうのだから。
     眠らないからといって、明日がなくなるわけじゃないことを、夏油はわかっていたけれど。それでも、最後まで子供のように駄々を捏ねていたかった。
     それくらい、許して欲しかった。

     ぎゅう、と。夏油はきつく悠仁を抱きしめた。疲れ切っているのか、起きる気配はない。
     触れ合う箇所から伝わる温度は、あたたかくて。心臓の鼓動は、とくんとくんと鼓膜を震わせる。
     温度と、一定のリズムと、それから愛おしい匂い。
     ずっと、このまま起きて悠仁をその瞳に焼きつけていたいのに、やって来る微睡みに逆らうことはできず、段々と瞼が重くなる。



     君のいない世界に、価値はひとつだってない。
     逃げないというならば、いっそ後を追いかけていきたい。
     だけれども。それでも。
     彼は、許してはくれないだろう。
     だからせめて、君を思って泣くことだけは許されたい。

    『傑さん』

     いつの間にか目を閉じて、最後の夢へと落ちていった夏油の頬に、一筋の涙が伝っていき、ぽたりとシーツに染みをつくった。

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