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    nu_htrgoto

    ここが墓場

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    ワンドロ「スニーカー」
    夏虎/夏サンがゆうじくんを思い出すだけのはなし。

    『わかってるのにね。』

    赤の閃光「わ、すみません」
    「……いえ、こちらこそ」

     今しがた、人ごみの中すれ違いざまにぶつかってきたその男に、夏油はニコリと愛想笑いをひとつ浮かべた。男は軽く頭を下げ、そのままもう振り返ることはなく、過ぎ去っていく。その後姿を、夏油は後ろ髪を引かれるような眼差しで追う。

    「夏油様、今の知ってる人?」
     普段と様子の違う夏油へ、覗き込むようにして隣にいた奈々子が問いかけた。
    「いいや、知らないよ」
     そう首を振る夏油だったが、瞳には懐かしさを含んでいた。

     そう。先ほどの男は確かに夏油の知り合いではない。けれども、夏油がめずらしく心を乱すのには充分なものだった。
     男が履いていた赤いスニーカー。ただ、それだけ目に入っただけなのに。夏油のしまい込んだはずの気持ちは、いとも簡単に、色鮮やかに蘇る。
     自ら決めて、置いてきたはずの未練のことを。

     夏油は好きだった。
     彼のトレードマークのような、その赤いフードを揺らし、それと同じ色の動きやすいスニーカーで一直線に駆けてきてくれることが。なによりも。

     迷いなく、いつだって自分に向かってくるその赤いスニーカーは褪せることなく、今も夏油の脳裏に焼き付いているのだ。



    ――女々しいな、私も。


     ふっ、と夏油が、誰にも気付かれない程度に息を漏らすと、嘲笑うかのように小さく片方の口角を釣り上げた。



     私が、私の理想を叶えることができたならば。

     あの、鮮やかな赤が、一直線へと私に向かってくるんだろうか。
     またもう一度、彼を抱き締めることはできるんだろうか。



    「なんて、ね」

     その夏油の呟きは、雑踏に飲み込まれて誰にも届くことなく消えていった。


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