悟と傑がカツカレーを食べる話。柔らかな風にふわりと前髪を持ち上げられる。歩みを止めた夏油が視線を上げると、無数の花びらがはらはらと儚げに宙を舞っていた。
もう四月も終わりに近い時期。しかし、雪深いこの土地の気候のせいなのか、はたまた品種の違いなのか。
頭上では満開を過ぎた桜が、最後の一仕事と言わんばかりに、薄紅色の花びらを散らしていた。
春風を泳ぐように花吹雪が舞う幻想的な光景。ついつい目を奪われていると、不意に視界の端で銀色がきらめく。
石畳が続く道の先から名前を呼ばれた。
「おーい、夏油。何をボーッと突っ立ってんだよ?」
急かすような言葉とは裏腹に、声色からはのんびりと穏やかな気配が漂う。
日差しを受けて輝く白銀色の髪もまた、この美しい風景の一部と化していた。
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