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    もっちゃん

    @motchan615
    自創作『暗黒街の銃声』
    テラーノベルから移動しました!
    現在スーパーコピペ&リメイク中!!

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    もっちゃん

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    暗黒街の銃声

    第二話 "人斬り人形"暗黒街の犯罪者を主に排除する殺し屋の女。百峰桃音。今日もまた表社会の平和のために引き金を引く。

    …………いや、今回は刃を振るうという者、もいるかもしれない。



    暗殺組織 "IBUKI"本部。 店長室。
    「いいですか、次の標的はこのマフィアです。こいつらは薬物の売買、違法取引、密輸…その他もろもろを行っています。できるだけ早くしないと表社会が危ういです。 場所は〇〇〇ホテルの地下二階。お願いしますね」
    デスクに資料を出した店長は内容を説明しながら、桃音に渡した。
    「了解!」
    「あぁ、そうだ。今回の件は少々手こずるかもしれません。なので誰かと組んで行くのをおすすめします」
    桃音が返事をした後、店長はふと思い出して後付けした。
    「え?組むんですか?」
    桃音はキョトンとしていた。桃音は"IBUKI"に入って五年、一度も誰かと任務を同行したことがなかった。
    「はい。暗殺部の誰かと」
    「その組織そんなにヤバいんですか?」
    桃音は尋ねるが、店長は黙ったままだった。暗殺部とはこの組織の殺し屋たちのことだ。
    「……では、訂正しましょう。必須で」
    「え……っ?」
    「命令です」
    「ハイぃ……」

    店長室を出た桃音は唯一リラックスできる場所、屋上へ出た。暗殺部室はあるが、外の空気を吸いたい気分だった。
    「はあ~…誰かと組めって、組めるような人居ないんやけど」
    フェンス越しに景色を眺めながら呟く桃音。いや、決して友人がいる訳では無い……というのは嘘になる。せいぜい顔見知りぐらいだけだ。あえて友人を作ろうとしないだけだ。
    桃音が人と組もうとするのを拒むのは理由があった。それは単純に死なせたくないからだ。加入する前、自分と組んで目の前で殺されるのを何度も見てきた。自分のせいではないのは重々承知しているが、不思議と罪悪感に苛まれるばかりだった。だから一人で行く。どんなにボロボロになって、危うく殺されそうになったのを繰り返しても、桃音は意地でも人と組みたくなかった。だが、今回の店長の指示には、あの無言の圧を加えられたら従わなくてはならない。
    「誰と組めっつうねん……」

    「……ならボクと一緒に行く?」

    ビクッ
    突然、背後から見知らぬ女の声がした。桃音は反射的に振り向いて銃を向けた。そこにはオレンジの目に背中まで伸びた滝のような長く綺麗な黒髪を一つに束ねたお淑やかそうな女がいた。青いシャツの上に黒のベスト、トランプのダイヤの形をしたピンクのペンダントを付けていた。青いレースが付いた黒い台形型のキュロットスカートに、ガーターベルトが付いたピンヒールのニーハイブーツを履いていた。
    「…… ま、待って!ボクは敵じゃないよ!……き、君と同じ…暗殺部、だよ」
    彼女は銃を向けられ誤解を解こうとあたふたして言った。
    「え?あぁ、ごめんごめん!いきなりでびっくりしてもうて」
    同僚だった。桃音は謝りながら銃を収めた。そうだ、ここに居るのは同僚だけだ。逆に同僚以外がいるわけがない。大輝は……あれはあいつがなんかおかしいだけだから除外しよう。
    (なんやコイツ…?気配がせんかったで全っ然気付かんかったわ!)
    桃音が驚くのはいきなり声をかけられたことだけではなかった。彼女の気配が全くしなかったことだ。長年殺し屋として生きていると、人の気配や殺気がわかるようになる。前回の大輝が声をかけた時も、そこに居るな、と感じた。しかしこの女の場合……ただの同業者の気配ではない。何か独特なオーラを纏っている。桃音は少し警戒心が強くなった。この女は一体何の用で来たのか?気配を消して自分の真後ろに現れるなんて、なんなんだこいつは?ていうか、暗殺部に居たっけ こんな子?そしてどうでもいいが一人称がボクの女子、初めて見たな
    「えっと…アンタは?」
    「……!ボ、ボクは…か、神楽…凜々愛」
    凜々愛は人と目を合わせて話すのが苦手なのか、全く違う方向を見ながら言った。
    「凜々愛か。ウチは百峰桃音や」
    「……知ってる。さっき店長の部屋の前で、聞いた」
    聞いてたんかい。心の中でツッコんだ。
    「ん?ちょい待った、アンタその時からずっとおったん?」
    その言葉が、ドアに服が挟んだかのように引っかかった桃音は凜々愛に尋ねてみると、彼女は何も言わず、頷いた。つまりアレか?店長室から屋上まで、気配を消して着いてきたということか?桃音は疑問に思ったが、とりあえず触れないことにした。
    「なんや。じゃあ話しかけたらええのに」
    「……は、話しかけるタイミング、わからなくて」
    「そ、そうなんや」
    確信した。ただのコミュ障だった。桃音は急に背後から現れた同業者リリアへの警戒心が少しづつ無くなっていった。
    「んで、何か用なん?」
    少し気まずい空気を切り替えようと、桃音は本題に入ろうとした。それを聞くと凜々愛はああそうだと、思い出した表情をした。あまり大差はないが。
    「……君の仕事、ボクにも手伝わせて」
    「え?」
    「……部屋の前で、内容とか大体聞いてたんだ。今度の標的は、マフィアなんでしょ?それで、手こずるかもしれないから…誰かと組んで行けって…」
    「ほとんど聞いてるやん……」
    「……ドア、開いてたから…聞こえた」
    「え、開いてたん」
    桃音は目を丸めて思わず声を上げた。このビルの壁やドア、窓は全て遮音になっているため、中から聞こえるわけがない。話の内容がなぜ室外に漏れているのかが不思議だと思ったが、まさかドアが閉まっていなかったのが痛恨のミスだと感じた。
    「店長にバレてへんかな…下手したら怒られるやつやん…」
    桃音は頭を抱えてため息混じりに言った。
    「てか、なんでおったん?」
    「……ただの、通りすがり。それと…」
    「?」
    凜々愛は照れくさそうな表情をして、少し間を開けてこう言った。
    「………ボクも、前から誰かと組んで仕事したかったんだ。また2人でコンビでする…とか」
    「へっ」
    思わず声が出た。まさかそういう理由で後を着けてきたとは思わなかった。だが、桃音も同じことを考えて、これは好都合だと考えた。なんせ店長の部屋から屋上まで気配を消してつけてきたのだ。おそらくこの人はそれなりの実力があるはずだ。彼女ならきっと、死なないはずだ。
    「わかった!この任務、一緒にやろ!」
    「……」
    凜々愛はかなり嬉しそうだが、表情もあまり変わらず、何も言わない。どうやら彼女は相当無口のようだ。
    (なんか喋ってやぁ…)


    その夜、現場である〇〇〇ホテルまで足を運んだ桃音と凜々愛。中に入り、ロビーを通り過ぎ、一番奥にある非常口階段のドアを開けて速やかに閉めた。薄暗い。こちら側の人間がいる空気が、地下への階段から漂ってくる。
    「この下やな」
    「…………」
    「この地下が奴らのアジトやな」
    「……だね」
    「……………」
    「……………」
    成り立たない会話。凜々愛は無口なのでここまで来るのにほとんど会話はしなかった。
    (気まずい……ホンマにこの人大丈夫なんか?)


    地下二階に下りた桃音と凜々愛は"標的"のアジトの手前までたどり着いた。洋風なホテルとは打って変わって和風な内装をしている。かと言って畳が敷き詰められているわけでもない。曲がり角から覗くと、入口である襖にはスーツ姿の男二人が立っていた。
    「……見張りだ」
    本部を出て初めて凜々愛が自分から声を発した。どうしようかと考える凜々愛を見て桃音はこう言った。
    「やましいことは無いから堂々と行こか」
    「……えっ」
    桃音は何も手に握らず、堂々と曲がり角から姿を現し見張りの方へ近づいた。凜々愛は止めようとしたが、声を出すわけにはならないため、止めるにとめなかった。そして、凜々愛の開いた口が塞がらないまま、桃音は見張りの目の前まで着てしまった。しかし、堂々としているからか、ここから見るとただのホテルの宿泊客に見えないこともない。これが狙いなのだろうかと、凜々愛は様子を伺った。
    「!すみません お嬢さん、こちらのフロアは……」
    「おい、なんでここに人がいんだよ?」
    一人がホテルの客か何かと勘違いし、気持ちだけ従業員らしく礼儀正しく対応してみた。しかし反対にもう一人は不審に思い、警戒していた。
    「いえ〜、お気になさらず」

    「清掃にしに参りました〜」

    パスッ!パスッ!
    桃音が太もものガンホルダーから二丁の銃を取り出し、見張り二人に向けて引き金をひいた。今回は一般市民もいるホテルの地下なので、念の為、銃声が出ないようサイレンサーを付けている。
    (……早撃ち見えなかった…!)
    凜々愛は何が起こったのか分からなかった。見張りが地面に叩きつけられるのとほぼ同時に、桃音の元へ駆け寄った。この時、彼女の気配はさっきまでとは全く違った、宿泊客なんかではない、今にも人を殺めるような気配に変わった。
    「行くで凜々愛。百峰〜行きま〜す!」

    スパァン!!

    桃音はいつもの掛け声(?)を言いながら、荒々しく襖を両方に開けた。
    「な、なんだ」
    「ネズミが出たぞ!殺せ!殺せぇぇ」
    大きな音で一瞬驚いたが、男たちは桃音たちを見てすぐに各々が銃を向けた。
    バンッ!
    バンッ!
    彼らが引き金を引く直前に桃音がその脳天を撃ち抜いた。男たちが撃った銃弾は天井に着弾した。
    「誰がネズミやねん!せめてミッki……!」
    「死ねぇ」
    ザシュッ!
    ズバッ!
    某夢の国の鼠の名を言おうとする桃音の声が雑言にかき消されたその時、その声の主である男から血飛沫が飛び散った。男が重力に身を委ねるようにその場で倒れると、そこに凜々愛の姿があった。彼女の手には赤く染まった日本刀が握られていた。
    (それどっから出したん?)
    桃音がふと疑問に思ったが、彼女の行動で何も気にならなくなった。
    ズバッ!ズバッ!
    ズバッ!ズバッ!
    凜々愛は眉一つ動かさず、舞うかの如くに敵を斬り捨てていく。繊細で、刃が通る度に飛び散る血が桜の花弁が舞うように見える。そんな妖しく美しい、異様な刀術だった。
    「うわっ、すごっ」
    桃音は敵を撃ち殺しながら、凜々愛の戦闘スタイルに見とれていた。戦闘中によそ見なんてするなと思うだろうが、ノールックで敵の脳天を撃ち抜く彼女にとって、両方腕の意思に任せられるほど余裕だったため、よそ見なんて問題なかった。
    「お、お前……まさか、ひ…"人斬……り、人……形"…………か」
    凜々愛に斬りつけられた一人の敵が、血反吐を吐きながら目を剥いて言った。深い傷から血がドクドクと流れる。致命傷を負った男はそのまま息を引き取った。
    「"人斬り人形"?」
    「……勝手につけられた、ボクの異名、かな。全然、気に入ってないんだけど…」
    桃音が尋ねると、凜々愛は静かに答えた。彼女は人を斬る時すら無表情の上、腕のいい傀儡師(かいらいし)が操る人形のような、人間が容易くできない動きをしていたため、裏社会には"人斬り人形"という異名が知れ渡っていた。ついでに顔も整っているため、彼女は色んな意味で「お人形さんみたい」なのかもしれない。
    (ウチの"人間兵器"みたいなもんなんやな…)
    「うおおおお」
    「ありゃりゃ来た来た!」
    パスッ! パスッ!
    パスッ!パスッ!
    いっせいに襲いかかる敵たちを、跳ねるように後退りしながら、桃音は撃っていく。この組織の人間は血の気の多い。そして人数もそこそこ多い。だから店長は誰かと組めと言ったのか。桃音は敵を撃ち殺しながら、そう思った。

    ズバァッ! ズバァッ!
    敵に囲まれた凜々愛は迷いなくいっぺんに斬り捨てていく。
    キィン!
    最後の一人がナイフを振り落とし、凜々愛がそれを刀で受け止める。
    ザシュッ!
    凜々愛はすぐさまナイフを弾き、その両腕を斬り捨てた。
    「ぐあああっ!!」
    ズバッ!
    両腕を失った男は叫ぶが、凜々愛は電源を落とすように、男の首を切り落とした。


    凜々愛は人を殺す時の光の宿っていない目をしていた。首無しになった肉の塊が前へ倒れる前に、凜々愛は数歩下がった。立ち止まったところで、その死体は足元にバタンと倒れた。
    その直後、背中に何か当たった気がした。後退りした桃音だ。バックしながら撃っていた桃音が最後の一人に風穴を開けたところで、凜々愛のすぐ後ろに止まった。二人は背中合わせになった。
    「……桃音」
    「!」
    初めて名前をら呼ばれた。ずっと無口でまともに話せていなくて気まずかったので、内心嬉しいが、喜ぶのは後にするべきだと桃音は思った。なぜなら……
    「ふーん。随分とうちの下っ端達を殺ってくれたね」
    まだこの組織の頭が残っているからだ。桃音と凜々愛の目の前にはスーツにコートを羽織ったマフィアのBOSSが立っていた。いかにも感が凄いのもあるのか、先程までの下っ端達とは全然違う威圧感がする。
    「まぁ、やつらは最初から期待してなかったけどな」
    「アンタが親玉か」
    桃音が警戒しながら言った。残るはこの男一人。桃音と凜々愛は虎視眈々としていた。
    「そうだ。お前はどうやら下っ端達を殺し順調にここまで来たようだが、ここで終わりにしよう。お前らの銃と刀の腕を見物にするのも飽きた」
    ギュルルルウゥゥゥゥン!!
    「うわっ」
    「…………っ」
    いきなり工事現場のようなうるさい音が鳴って桃音とリリアは耳を塞いだ。
    「はははっ!今度はお前らがバラされる番だ!覚悟しろ小娘共」
    マフィアのBOSSは気が狂ったかのように高笑いし、デカいチェーンソーを構えて桃音たちに向けた。先程の落ち着いた素振りから、人格が変わったかのようだ。こいつはあれだ。運転する時に「俺ハンドル握ると性格が変わるんだ」とカッコつけて言うが、実際は誰もかっこいいとは思っていない、なんならウザがられている勘違い男と同じタイプだ。
    「いやどっから出したんやあんなデカいエモノ(武器)」
    「……!来るよ!」
    ギュルウン
    ギュルウン
    ギュルウン
    マフィアのBOSSは一気に距離を詰めると、うるさい音を立てながら桃音達を目掛けてチェーンソーを振り回した。
    「うわっ!……っ!あっぶな!」
    (……っ!全然、攻撃できない!)
    桃音たちはただ避けることしかできなかった。切りかかるチェーンソーは隙を与えないため、上手く狙うことも、手が出せない状況だった。凜々愛に至っては日本刀とチェーンソーの嫌な相性だ。下手に刃を前に出したところで、刀が巻き込まれる可能性がある。さらに運が悪いことに、このチェーンソーのガイドバーは幅も長さもあって距離を詰めることが難しい。
    「ははは!諦めたらどうだそんなに避けまくるのも辛いだろう!」
    マフィアのBOSSは動きを止めないまま、桃音を嘲笑って言った。
    「はぁなんやとナメやがって!」
    「……桃音、ここは一旦離れよう!」
    凜々愛は反発する桃音に言った。
    「…っ!わかった!」
    それを聞いた桃音は自分より後ろへ下がった凜々愛の助言を受けて、背を向ける……が、
    「させるかぁ!」
    「はっ」
    ザシュッ!
    背を向けて駆け出そうとした時だった。チェーンソーの歯が桃音の腹部を掠らせた。
    「ぐ……あっ?」
    桃音はそのままバランスを崩し、地面に体を打ちつけた。
    「桃音」
    「だ、大丈夫や……!」
    凜々愛が今日一大きい声で叫ぶ。桃音は傷口を押さえ少量の血を吐き、歯を食いしばりながら、凜々愛に向かってニッっと笑う。
    「……お前、よくも!」
    しかし凜々愛の怒りはそれでは治まらなかった。初めて組んだ同僚を傷つけられた彼女は刀を握りしめ、マフィアのBOSSを睨んだ。
    「なんだぁ?相棒を傷付けられて悔しいか?」
    いいザマだと鼻で笑うマフィアのBOSS。凜々愛は腹の立つ表情と言動に苛立ち、歯を食いしばった。
    「凜々愛、ウチは大丈夫やから。一旦離れよ!」
    桃音は傷口を押さえながら立ち上がった。幸いそこまで傷が深いわけではなく、弾丸と比べたらまだマシだと……桃音はそう思えた。凜々愛は怒りを堪えて頷くと、桃音の手を引いて立ち去った。
    「逃がすかぁ」
    マフィアのBOSSは桃音たちを追った。


    桃音と凜々愛はチェーンソーを振り回すBOSSをなんとか撒き、別の部屋身を潜めた。
    「っっ…! いったぁ…」
    桃音は壁に崩れるようにもたれかかった。押さえていた彼女の破れたグレーのシャツからじわっと血が滲んだ。
    「……桃音、大丈夫?止血、しなきゃ…!」
    「凜々愛!そこまで重傷やないから大丈夫やで!?」
    桃音は心配する凜々愛を落ち着かせようと言った。だが、少しだけ嘘をついた。内臓までではないが、まあまあ深い。でも普通に立ってはいられる。
    「…ごめん。ちょっとその刀貸してくれへん?」
    「……やっぱり止血する?」
    「うん…」
    気が変わった桃音は懐からライターを取り出した。
    「……桃音、タバコ吸うの?」
    「たまーにね。ちょっと借りるで」
    答えながら桃音は凜々愛の日本刀を鞘から抜くと、先端をライターの火で炙った。それを見て凜々愛は彼女が何をするのかが察した。
    ジュッ…!
    「ぐ…っあぁ!!」
    痛みに堪える声をあげる。桃音はそれを傷口に当て、熱で止血した。
    「……桃音、アイツはボクが倒すから。だから……」
    「何ゆーてんねん、ウチらで倒さなアカンやろ!」
    休んでて、と言おうとした凜々愛を言わせてたまるかと遮るように言った。
    「それにウチはこの程度でへこたれへんわ!これでも五年以上一人で殺しの依頼受けてたからな!簡単に死ねへんでウチは」
    桃音は強気でそう言った。嘘偽りのない真っ直ぐな目をしていた。どんな相手、どんなステージでも戦い続けたからこそ言える、説得力があった。人一倍勘がいい凜々愛にも、それが充分伝わった。
    「……どうやって倒すか、考えなきゃ」
    「そう来なくっちゃな!」

    ギュルウン ギュルウン!

    二人で任務を完了させることを決心したその時、ドアの向こうから少しづつチェーンソーの音が近ずいて来た。どうやら奴はもうすぐそこまで来てしまっているようだ。
    「うわぁ…アイツもうそこまでおるやん……ヤバいな」
    緊張感が高まる。ホラー映画ですぐそこまで追ってきている殺人鬼に見つかりそうな感覚に陥ってきた。しかしここで決着を付けなければならない。この傷を負いながら戦うのも体力と時間の問題だからだ。
    残るはこのBOSS一人。
    今ここで、二人で、倒すしかない!
    「……どうする?」
    「そうやなぁ…アイツの撃ち殺すのはできると思うねん。ただあのデカいチェーンソーが邪魔やねんな」
    桃音が考え事を口にしたその時、凜々愛がハッと、何かを思いついた。
    「ん?どしたん?」
    「……桃音、今…なんて言った?」
    「え?あぁ、チェーンソーが邪魔……?」
    自分が言ったことを繰り返して凜々愛の問に答えると、桃音もそれに思いついたよう あっ!と言った。
    「……あのチェーンソーを壊したら、勝てる!」
    「確かに!」
    そう、どれだけど強い武器を持っていようと、相手は同じ人間。あのチェーンソーさえ無ければ余裕で勝てるということだ。二人は作戦を立てた。
    「よし!ウチがあのチェーンソーを撃って、
    奴が丸腰になった途端、凜々愛が頸を斬り落とす!ってことでええな?」
    「……それで行こう!」
    「…でもなぁ、ウチの銃であのデカいチェーンソーを潰せるかどうかが不安」
    「…………あ」
    立てた作戦を確認すると、桃音は自信なさげに言った。


    「……!伏せて!」

    バキイイイ!!!
    ガガガガガガッッッ!!

    「だあああ」
    「……〜〜っ」
    ダァン
    突然、2人が隠れていた部屋のドアからチェーンソーの刃が飛び出た。そのままドアを壊してBOSSが不敵な笑みを浮かべて入ってきた。完全にシリアルキラーのホラー映画だ。
    「ははははもう逃げ場は無い大人しく降参しろ!」
    「来たぁ」
    「……っ!」
    バックバクの心臓を落ち着かせようと深呼吸する桃音と凜々愛は各々の武器を向けた。
    「もうお前らの顔を見るのも飽きた!ここで死んでもらおう!」
    高笑いするBOSSはじわじわと迫ってくる。桃音は凜々愛の後ろの方までさがった。
    「こうなったら……一か八か!」
    「……わかった!」
    ギュルウン
    ギュルウン
    BOSSは凜々愛を目掛けてチェーンソーを振り回す。囮の凜々愛はなるべく距離を置いて、ひたすら余計まくる。正確に言うと、一か八かなのはむしろ凜々愛の方だった。下手すると凜々愛も作戦の巻き添えを喰らってしまう。
    作戦はこうだ、凜々愛が囮としてBOSSの気を引き付けている隙に、桃音がチェーンソーを撃って爆破させる。そして当然手元が重傷になり動きが鈍くなる。その時に桃音か凜々愛のどちらかがトドメを刺す。これで決着をつける………つもりだったが…………
    (あぁもう!狙いずらい無駄な動き多いねんコイツ!ただの戦闘狂やん!よくコイツBOSSになれたな)
    桃音は頭の中で文句を言いながらBOSSに銃を向け狙いを定める。先程は近距離だったため気づかなかったが、こう少し離れて見ると、あのチェーンソーはBOSSの周りを囲むバリアのような役割をしている。そしてその役割をチェーンソーが果たせるように、巧みに動かせていた。
    (ちゃうな…アレも計算の内か!)

    ドカッ!

    すると次の瞬間、BOSSは凜々愛の腹を目掛けて思いっきり蹴飛ばした。
    「ガハッ…」
    (凜々愛)
    蹴飛ばされ壁に打ち付けられた凜々愛は背中を強く打った衝撃と蹴られた衝撃で身動きがとれなくなった。さらに運が悪いことに同時に頭を打ったため、目の前が真っ白になりクラクラし始めて視覚・聴覚が遮られる。
    「ハハッ!残念だな。もう終わりだ!」
    座り込んだ姿勢の凜々愛を見下すBOSS。このまま彼女を壁に磔るつもりだ。BOSSはチェーンソーの振り上げながら凜々愛の方へ駆け出した。
    「死ねぇ」
    この時だった。無意味だと思わせるぐらいに振り回すチェーンソーが静止した。いや、正確に言うと一定の高さ・向きに留まった。
    今だ!チャンスは一度きり
    「凜々愛伏せて」

    パスッ!パスッ!パスッ!
    ドカーン

    狙いを定めた桃音は三発、チェーンソーの本体の一箇所に正確に撃ち込んだ。ワンホールショットという高度な射的技術だ。中のエンジンに弾丸が届いた三発目で、チェーンソーはBOSSの手元で爆発した。
    「ぐあああ」
    間近で爆撃を喰らったBOSSは破片が顔や目に刺さり、チェーンソーを握っていた手は原型をとどめてなかった。BOSSは全身の痛みに悲鳴をあげ、立ったままもがき苦しんだ。
    「これで済むと思うなや」
    怒りに満ちた桃音は見た目も動きもゾンビのようなBOSSの息の根を止めようと銃口を脳天に向けた。今まで自分と組んで目の前で殺されるのを何度も見てきたせいで、仲間を傷付けられるのが何よりも許せなかった。二度と死なせないと心に誓ったのにこの有様なことに自責の念
    を怒りと共に込めて引き金を引こうとした。
    その時だった。
    ダァン!
    黒いピンヒールがBOSSを足蹴にして押し倒した。凜々愛だ。壁でぐったりとして意識が朦朧としていた彼女は先程の爆発音で遮られた視覚と聴覚を取り戻した。銃を向けている桃音と血塗れのBOSSを見てハッとした凜々愛は、今ある力を振り絞って刀を握りしめて、座り込んだ状態から立ち上がり、壁を蹴って駆け出したのだ。
    「き、貴様!何を」
    「……覚悟しろ。よくもボクとボクの相棒を…」
    殺意が込められた目でBOSSの胴体を踏みしめながら彼を見下して、刀を振り上げる。
    「……お前が死んでもらうよ」

    ザシュッ


    振り落とした刃が扇を描くようにBOSSの首を横切ると、大量の血飛沫が吹いた。
    「…殺ったか」
    「……うん」
    桃音は対象の生死を確認を凜々愛に聞いた。いや、首が落とされているため言うまでも無かった。どう見ても完全に死んでいる。
    「任務完了やな!」
    「……だね!」
    桃音は凜々愛のそばまで歩きながら言った。そう返す凜々愛はこの時、初めて笑っていた。
    「アンタそんな顔するんや……」
    「……え?」
    「あぁいや!それより!処理班呼ぼ!」
    うっかり声にでてしまった。キョトンとする桃音は凜々愛を見て、慌てて話題を変えるようにスマホを取り出し、処理班に電話をかけた。
    「あ、もしもし〜?こちら百峰!任務完了!処理お願いしまーす!…………はい〜。あ、ホテルの地下やから来る時気ぃつけてな………はい。んじゃ失礼しま〜す」
    電話を切った。
    「んじゃ、あとは処理班に任せて帰ろか!」
    「……うん!」
    桃音と凜々愛は緊張感から解放され、バキバキに壊されたドアの方へ向かった………が、
    ズキッ
    「ぐっ」
    「……っ」
    すると二人に痛みが走った。そして、この任務での疲れがどっと来た。
    「そうや…ウチ腹部切られたんや」
    「……ボク、打ち身した。痛い」
    桃音は腹部の傷を押さえ、凜々愛は背中に触れるよう両手を交差させて回せた。そう、二人は怪我人だった。
    「医療部に連絡しよかな…」
    「……一応、電話してみたら?」
    「せやな」 ※そうだな の意※
    桃音は再びスマホを取り出し、電話をかけた。医療部とは"IBUKI"に所属する闇医者たちのことだ。
    「あ、もしもし医療部〜?こちら暗殺部の百峰〜…………うん、チェーンソー掠った。もう一人は打ち身、頭打ってん…………ん?うんうん………………」
    桃音と医療部の会話が続く。なんの話をしているかは何となく想像付くが、何か医療部の方で事情があるように聞こえる。凜々愛は隣でその様子を見ていた。
    「………えマジで…んなことある」
    今度は驚愕した。良くないことなのは分かるが、一体何があったんだ。
    「あ〜〜そっか、わかった。じゃあどっかの闇病院行くわ。はーい、おおきに」
    そして電話は切られた。
    「……どうしたの?」
    凜々愛は電話の内容を尋ねた。
    「なんかねー、別件行ってる暗殺部が全員大怪我でヤバいらしいねんて。んで医療部今誰も手空いてへん」
    桃音は事情を説明した。
    「……そっか」
    「しゃーないな、漆門(うるしかど)行くか」
    桃音は頭を掻きながらそう言った。彼女が言っているのは【漆門地下病院】という、裏社会向けの闇病院だ。
    「…ところでさ、凜々愛」
    「……?」
    「コイツ、さっきウチら見て相棒ってゆーてたよな?」
    桃音は少し沈黙を挟んでから、首と体がさよならした死体に指をさして言った。
    「……確かに」
    そういえば自分も相棒って言ったと、BOSSの首を切り落とす直前の言葉を思い浮かべながら返事した。
    「じゃあさ……」

    「今度からウチと組めへん?」

    桃音は凜々愛の目を見て言った。その言葉を聞いた凜々愛は"人斬り人形"らしからぬ、ものすごく驚いた表情をした。
    「……え?い……いい、の?」
    「うん!なんでか分からんけど…アンタとならいける気がすんねん!」
    明るく元気な口調で言った。今まで、どれだけ困難な任務でも一人で挑み続けた桃音。目の前で組んだ同僚が死ぬのが怖くて、二度と死なせたくないから、単独行動を好んだ。けど今は違う。何故だろう。不思議なことに、凜々愛なら死なない気がする。他の同僚とは違い、何か独特なものを感じる。だからこそ確信した。
    「……うん!よろしく、桃音!」
    「よろしくな凜々愛!いや…」

    「相棒」

    握手を交わす桃音と凜々愛。
    こうして二人は相棒となった。

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