王子様は自販機の音で目が覚めたたまたま入った談話室で、見慣れた後ろ姿を見つけた。そういえば、部屋にいなかったなと思いながら自販機まで歩いていくと、その斜め向かい側に明るい髪色が突っ伏していることに気が付いた。
おもわず立ち止まってしまい、じっと動かないつむじを見つめる。まばたきもせず、息をひそめること数秒。丸まった背中がゆっくりと動くと、自分でも驚いてしまうほど深いため息がでた。
「よう、レン。トレーニング終わりか?」
どうやら気づかれていたらしい。物音を立てずに振り返ったガストが、いつもどおりにこやかな顔に、似合わない小声で声をかけてきた。そのことに少々、ムッとした。して当然だと思うのに、自分が促す前に気遣われたことに自分の特権を横取りされたような気がしたのだ。
3579