無題街灯に照らされる夜には、いつも誰かを待っていた。
手に持った端末へ目をやれば新着のメッセージが浮かぶ。ちょうどいいタイミングだ。通知には触れずに、周りを見渡す。視界に見慣れた姿が映った。
「あ、居た居た! 良かった、寒くなかったかい?」
「こんばんは。寒くはなかったけど、ご飯食べてなくて……」
「そうかい、そうかい……それじゃあ、今日はご馳走してあげるからね。好きなところに連れて行ってあげるよ。どこか、行きたいところはあるかい?」
「お言葉に甘えて……そこのファミレスがいいです、近いし」
分かった様に微笑みを向けられ、そのまま手を引かれる。背も歳も追い越されているこの人物に対して、僕は信頼を寄せていた。名前も知らなかったけれど、それはお互いに共通することだった。
注文した料理が運ばれてくる。熱いので気を付けてくださいね、と添えられた一言に軽く頭を下げて布で包まれたカトラリーからスプーンを取り出す。熱々のグラタンを一口掬えば、外に立っていた体を暖めるには十分すぎる程熱い気体が現れる。息を吹きかけて冷まそうとしていると、目の前と目が合った。また向けられた笑みが少し恥ずかしくて、すぐに視線を外した。
向かい合う形で座った僕達のことを怪しむ視線は見当たらなかった。そもそも見渡す店内に人影があまり見当たらない。まぁ、自分達にとって好都合ではあるのだが。
何度息を吹きかけてもちゃんと冷めているのか怪しいホワイトソースを通した喉を冷ます勢いで飲み物に口を付けていたら、コップの中のジュースが底をついてしまった。一言断りを入れて空のコップと共に席を立つ。空いたドリンクバーの前に立って次に何を飲むか迷っていると、気を引く通知音が店内の音楽に混じった。
『明日もよろしくお願いね、あと夜更かしはしないこと』
知り合いからのメール。知り合いと言っても、仲が良い方だから友達と言うべきか。特別な関係でもないのにこうして体調を気にかけてくれる人が居るのはすこし、くすぐったい感覚だ。
必要以上に画面を見つめていた自分にハッと気付く。いけない、今はこんなことしてる場合じゃなかったんだ。適当な炭酸飲料のボタンを押して、満たされた容器と共に急いで席へと戻る。
「おかえり、デザートはどうする? ほかに欲しいものは?」
「ありがとうございます、でも……もうお腹いっぱいなので、大丈夫です」
「そっか、それにあまり長居するのも得策ではないね」
そう言った彼にこくりと頷くと、相手も頷き返してくる。束の間の談笑が終わると、ウェイターを呼んだ。手早く会計を済ませると、僕達は店の外へと出た。