「あれ俺が先?サムやなくてごめんなぁ」
こんなこと前にもあったの、コーシくんは覚えてへんか。
ケホケホと弱々しく咳をする彼が、俺を見つけて口を開くので枕元に耳を寄せるが、乾いた唇から漏れたのは吐息だけ。誰かの名を呼んだ?どうせサムやろ。熱っぽい瞳は俺を映すが、判別出来ているとは思えない。
布団の中から伸ばしてくる指先を掴んでやり、
「コーシくんも桃やったよな」
コンビニの袋に入ったゼリーを布団の上に載せ、病人の額にかかる髪を撫で付ける。
あれ?あん時は俺も熱に浮かされて半分は夢やったと思うてたけど、ゼリー食べさせてくれたのコーシくんやんな?
「…ぁつむ、食べさせて。薬も飲む」
はっきりと俺の名を呼んだ。あれも夢やなかったんか?
言われるまま、買ってきたゼリーを彼の口元へ運ぶ。薬は…あの時のコーシくんみたく、うまく飲ませる自信あらへん。
コーシくんはこくんと喉を鳴らして辛そうに瞳を閉じると、スプーンを持った俺の手を甘えるように握ってくる。
ほんまにサムと間違うてへんか?フーフーと苦しそうだった息が暫くすると落ち着いて、俺の片腕を御守りのように抱いて眠ってしまう。
「ずっと俺やった?どっち?」
早く良くなれと思うのと同時に、目覚めた後も彼が求めるのは自分でありますようにと、彼の切ない寝顔を横で見守りながら天に祈った。