あえて愚かで居られる場所職業殺人者から手を洗った数年後、私は郵便配達員として働いていた。殺しを辞めた日常はただただ静かで穏やかであるが、未だに小説の続きは思いつかない。
のんびりと日々が流れていき、まるで先の見えない長い長い線路を歩いているようだった。
仕事が終わり、私が自宅へ向かい始めたのは夕刻の頃だった。いつもと変わらない帰路を歩いた。
すると、私の後ろから小さな毛玉が続いた。
「迷い猫か?」毛玉の正体は三毛猫だった。
街を漂っている猫はよく見るが、三毛猫に遭遇するのは初めてだった。
猫は落ち着いており気品があった。
私が見つめると猫はニャアンと鳴き、私の一歩前を歩き出した。少し進むと振り返り、突っ立ったままの私を見てもう一度鳴いた。
1233