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    粥のぽいぴく

    @okayu_umaimai

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    粥のぽいぴく

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    勢いで書いたゴンドリエーレなガストと人魚なフェイスのお話。

    基本雰囲気で見ていただけると幸いです🙏

     運河は今日もヴェネツィアの美しい街並みを滞ることなく流れていく。ここ、ヴェネツィアでは、運河の流れはあらゆるものを運んでいく。海から海へと流れる海水、たくさんの物資、様々な目的でやってきた人々、あらゆるものがこの運河で交わり合う。

     星明かりや月明かりがよく見える夜もだいぶ深くなった頃、運河を一つのゴンドラがスーッと流れていった。そのゴンドラには端正な顔立ちの青年が一人、気分良く鼻歌を歌いながらオールを漕いでいた。
     彼の名前はガスト、ヴェネツィアでゴンドラの漕ぎ手、いわゆるゴンドリエーレをしている。ガストはこの時間に一人でこうしてゴンドラに乗りながら運河を流れる時間が好きだった。仕事終わりの達成感、程良く賑やかな街並み、体を吹き抜ける心地良い夜風、それらをたった一人、ある種貸切とも言えるゴンドラで感じるのがガストの毎日の小さな楽しみであった。
     今日もそんな楽しみを感じながら、船着場へと向かう。そこにゴンドラを戻したら今日の仕事は完全に終了だ。明日はオフであるため、この後は行きつけのシーフードが美味しい店にでも行って、お酒でも飲んで気持ちよく寝ようかと思うと自然とオールを漕ぐ手にも力が入った。船着場近くの人気の無い通路に入り、ゴンドラの速度を上げる。終点までもう少し、と再びオールを水面へと押しつけた瞬間、その勢いとは反対にゴンドラの重みがぐんっと増した。
    「うおぉっ!?」
     いきなり速度が落ちたことにより、ガストは大きく体勢を崩す。鍛えられた体幹で咄嗟に踏ん張り、なんとかゴンドラから放り出されることは回避したものの、大きくぐらついた衝撃でバシャバシャと水がゴンドラ内に入り込み、座席が濡れてしまった。
    「マジかよ……」
     最後の最後に余計な仕事が増えてしまったと、ガストはその様子を見てがっくりとゴンドラ上で膝をつく。甲板ならまだしも、布製の座席部分にそこそこ水がかかってしまったのは辛い。ある程度拭いて乾かしておかないと後々傷んでしまうだろう。はぁ、と短くため息をつくと、ガストは再びオールの先をゴンドラの外に出して周囲の水中をかき回した。
    「おい、いるんだろ」
     やや呆れたようにオールで探っていると、今度はオールがぐっと水中に引っ張られる。
    「っ!?」
     再び驚きつつも、ガストもそれに負けじとオールを引き上げる。すると、オールの先端にはなんとも美しい人魚が付いてきた。水中から顔を出した人魚は体についた水滴を月明かりでキラキラと反射させながら、イタズラがバレた子供のようにガストに向かって微笑んだ。
    「アハ、バレちゃった♪」
    「バレるに決まってんだろ、危ないからやめろって前にも言ったよな?フェイス」
     悪びれもしない人魚に、ガストは呆れを全面に出しながら注意する。対して人魚はゴンドラに乗り掛かりながら、尾びれで水面をパシャパシャと叩いて楽しそうにしていた。
     この見る者全てを魅了してしまいそうな人魚、フェイスはヴェネツィア付近の海から度々海流とともに街にやってくる。基本人前には姿を現さないそうなのだが、以前ガストが偶然姿を目撃してしまってからは、よくこうしてガストに会いに来るようになった。
    「ごめんごめん、でもキミなら落ちないと思ってさ」
     実際落ちなかったでしょ?なんて軽口を叩きながら、フェイスは首を傾げて綺麗に微笑む。
    「そういう問題じゃねぇだろ…って待て、勝手に乗ろうとすんなって」
     ガストの言葉をまともに聞こうともせず、気がつけばフェイスは水中から上半身を引き上げ、ゴンドラ内に乗り込もうとしていた。フェイスがゴンドラの縁を掴む手をオールで軽く叩きながら、ガストは慌ててそれを阻止する。
    「別にいいじゃん、今日はもう店仕舞いでしょ?」
    「いや、店仕舞いってわかってんじゃねぇか。何しれっと残業させようとしてんだよ」
     その返答に顔をムスッとさせながら、フェイスはパシャンパシャンとさっきより勢いよく尾びれで水面を叩く。
    「いいじゃん。ちょっとくらいサービスしてよ、明日はオフなんじゃないの?」
    「なんでそれ知ってんだよ……」
     やれやれと呆れながら頭を掻くガストをフェイスは下からじっと見つめる。なんだかんだ、ガストが甘いことを彼は既に知っているのだ。
    「迷惑かけてごめん……でも、俺はこういった時じゃないとゴンドラには乗れないから……」
     そう申し訳なさそうに口にする。そして、尾びれを力無く水面に叩きつけるのも忘れない。
    「もう危ないことしないって約束するから……乗せてくれない?お願い、ガスト」
     真剣な顔で訴えかけると、ガストは少し悩んだ後、困った笑みを浮かべながらしょうがねぇなと呟いて持っていたオールをゴンドラにそっと置いた。
    「……わかったよ。ちょっとシート敷くから待ってろ」
    「ありがと♪」
     フェイスはそんなガストにお人好しがすぎるなぁと思いながらも、その優しさに付け込んでいる自覚はあるので、それは言わずにただ尾びれで水面を叩いて嬉しさを表した。
     ガストはゴンドラに積み込んでいる荷物の中から防水シートを取り出すと、それを極力濡らしたくないものにかけていく。ゴンドラ内が濡れないようにと使われるこのシート、特別なものというわけではないのだが、フェイスは知っていた。ガストがシートを仕事用とフェイス用で使い分けてくれていることを。
     以前、ゴンドラに乗り込んだ時に敷いていたシートが硬めの素材で、フェイスが少し辛そうにしているのにきっと気づいていたのだろう。その優しさが、フェイスには嬉しかった。
    「ほら、準備できたぞ」
    「ありがとう、お邪魔しまーす」
     ガストに呼ばれて、フェイスはよいしょとその体を滑り込ませる。尾びれが全部収まると、ガストはその上を隠すようにシートを更に上に被せた。そして最後に仕上げと言わんばかりに、自分が着ていた上着をフェイスに被せる。これで、遠目からは彼が人魚だと気付かれはしないだろう。
    「ゴンドラに乗りたがる人魚なんて、アンタくらいなんじゃねぇか?」
    「どうだろうね、人魚だってたまにはこうして風を浴びたくなるんだよ」
    「はは、そうかよ」
     出発の準備が整うと、ガストはオールを手に取りご機嫌な人魚に向き合う。
    「さ、人騒がせなお客さん。今日はどこに行きたいんだ?」
    「う〜ん、そうだな……いい感じの音楽が聴こえるところとか?」
    「音楽か、OK。あんまり長い時間漕ぐ気はねぇけど、具合悪くなったらちゃんと言えよ」
    「はいはいっと♪」
     軽い確認を済ませると、ゴンドラはゆっくりと進みだす。夜の暗さを利用して、フェイスはこうして人の世界に混ざり込むことが好きだった。さっそく体を撫でる風を感じながら、対岸に見える賑やかな街並みを楽しそうに眺めている。
     こうして、月明かりに見守られながら二人(?)のゴンドラツアーはスタートするのだった。
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    Replies from the creator

    粥のぽいぴく

    MOURNING執事カフェのガとヴィの話
    CP未満ではありますが、そのように見えるかもしれません。左右は特に明記していませんので、その場合はお好きな解釈でどうぞ

    相互さんへの捧げ物でした☕️
    「お帰りなさいませ、ガスト坊ちゃま、アキラ坊ちゃま」
     ヴィクターが手伝いをしていると聞いたカフェに赴き、店内に足を踏み入れるとガストは聞き慣れた心地よい低音に出迎えられた。しかし、聞き慣れない呼び名で呼ばれたことに衝撃を受け、一瞬その場で動きを止める。一緒にやって来たアキラに横から声を掛けられるまでの短い間、確実に意識はどこか遠くへ飛んでいたようだった。
    「ははっ、ガスト坊ちゃまだってよ。似合わねーな」
    「言われなくてもわかってるって」
     アキラからの言葉に苦笑しながらそう返す。正直アキラも人のことは言えねぇだろ、とガストは思いつつも、自分の似合わなさと比べるとそこまででもないか、と思ったことを胸にしまった。ガストは事前にSNSでこのカフェの評判を見たことがあったが、そこにはヒーローが執事として給仕してくれる事への物珍しさを綴った感想や、対応の素晴らしさ、執事が格好よかった、可愛かった、お出迎えから虜にされた、なんて意見が多く見られた。実際にお出迎えを体験した今、なるほど、これは確かに威力があるな、なんてどこか冷静に先ほどの衝撃をガストは思い返した。執事をコンセプトにしたカフェなのだから、客もそのように扱われるのは不自然なことではない。むしろ、予想できることであったはずなのに予想以上の衝撃を受けてしまったことに、ガストは自分でも少し驚いていた。
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    粥のぽいぴく

    MOURNING相手の気持ちを知った上で自分に本気になるなって言うヴィクが見たかった。その結果相手を焚き付けちゃう展開も見たかった。書けたのかはわからない。
    付き合ってません。一応ガスヴィクのつもりで書いてます。
    「おや、珍しいですね」
     ノースセクター研修チームのリビングにて、ローテーブルの上に置かれたワインボトルと、ワイングラスを手に持ったメンティーの姿がヴィクターの目に留まった。思わず声を漏らすと、その声に気がついた彼のメンティー、ガストはお酒が回り始めているのか少し高揚した様子でヴィクターの方を振り返る。
    「お、ドクター。今戻ったのか?」
     遅くまでお疲れさん、と労いの言葉をかけながら、ガストはソファに沈み込ませていた背中を起こし、手に持っていたグラスをローテーブルに置いた。ヴィクターはリビングの奥へと足を進めガストの側に寄ると、改めてローテーブルの上に視線をやる。そこにはぱっと見ただけでもなかなかに高価そうだとわかるワインボトルに、それが注がれた一人分のワイングラス、ボトルの中身がまだそれほど減っていないところを見ると、まだ飲み始めてからそれほど時間が経っていないように推測できる。時刻は既に午前一時を回っており、普段のガストならもうベッドに入っていてもおかしくはない時間だ。そうでなくとも、この時間帯に部屋ではなくこうしてリビングにいることは非常に珍しい。
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