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    粥のぽいぴく

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    粥のぽいぴく

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    執事カフェのガとヴィの話
    CP未満ではありますが、そのように見えるかもしれません。左右は特に明記していませんので、その場合はお好きな解釈でどうぞ

    相互さんへの捧げ物でした☕️

    「お帰りなさいませ、ガスト坊ちゃま、アキラ坊ちゃま」
     ヴィクターが手伝いをしていると聞いたカフェに赴き、店内に足を踏み入れるとガストは聞き慣れた心地よい低音に出迎えられた。しかし、聞き慣れない呼び名で呼ばれたことに衝撃を受け、一瞬その場で動きを止める。一緒にやって来たアキラに横から声を掛けられるまでの短い間、確実に意識はどこか遠くへ飛んでいたようだった。
    「ははっ、ガスト坊ちゃまだってよ。似合わねーな」
    「言われなくてもわかってるって」
     アキラからの言葉に苦笑しながらそう返す。正直アキラも人のことは言えねぇだろ、とガストは思いつつも、自分の似合わなさと比べるとそこまででもないか、と思ったことを胸にしまった。ガストは事前にSNSでこのカフェの評判を見たことがあったが、そこにはヒーローが執事として給仕してくれる事への物珍しさを綴った感想や、対応の素晴らしさ、執事が格好よかった、可愛かった、お出迎えから虜にされた、なんて意見が多く見られた。実際にお出迎えを体験した今、なるほど、これは確かに威力があるな、なんてどこか冷静に先ほどの衝撃をガストは思い返した。執事をコンセプトにしたカフェなのだから、客もそのように扱われるのは不自然なことではない。むしろ、予想できることであったはずなのに予想以上の衝撃を受けてしまったことに、ガストは自分でも少し驚いていた。

    「オスカー、ふたりを席へ。ジュニアも、すぐ仕事を開始してください」
     ジュニアとオスカーも交えて少し談笑した後、ヴィクターがふたりに指示を出す。その指示を受けて動き出すふたり、ガストはアキラと共に席へ案内してくれるオスカーの後をついて行く。その際、横を通り過ぎて再び入り口へと向かうヴィクターの背中をガストは目で追った。来客を知らせるベルの音と共に、また新たに客が入って来る。遠くから微かに聞こえる落ち着いた低音、ヴィクターの背中越しに見えた客の顔が綻んでいることから、あの完璧なお出迎えをまた披露しているのだろう。その一連の出来事を、ガストはぼんやりと眺めていた。

    ◇◇◇

    「お待たせしました。こちら、ヴィクターブレンドエスプレッソとオスカーマウンテンブレンドをお持ちしました」
     席についてオスカーに注文を伝えてからしばらくして、再び出来上がった注文の品を持ってオスカーがガストとアキラの席にやって来た。談笑していた時とは違い、オスカーは執事としてふたりに接している。ガストもアキラも事前に何を頼むかは決まっていたため、迷わずそれを注文した。気になったので、他のメニューにも目を通してはみたのだが、やはりブルーノースというだけあってどれもそれなりのお値段だ。サンドイッチなんかの軽食は魅力的ではあったのだが、それなら帰りにホットドッグを食べよう、というアキラの提案により、それぞれ目当てのコーヒーのみを頼むに至った。
    「こちらのお砂糖とミルクはご自由にお使いください」
     そう言ってオスカーはシュガーポットとミルクピッチャーをテーブルに置いていく。そして最後にアイスクリームが入ったココットをそっとガストの前に置いた。
    「あれ、俺アイス頼んでねぇけど…」
    「あぁ、そちらはヴィクターさんからのサービスになります」
     目の前に置かれた心当たりのないアイスクリームを疑問に思い、オスカーに問いかけるとそんな答えが返ってきた。
    「え、ドクターから?」
    「口に合わなかったり、苦かったりした際でもアイスクリームと合わせたら飲みやすいだろうから一緒に持っていくようにと」
     それを聞いて、アキラが微かに肩を震わせた。後者の理由で子供扱いされているガストのことを笑っているのだろう。ガストはぽかん、と一瞬間の抜けた顔をした後、じわじわと頬を紅潮させた。ほんの少しの悪意が含まれていそうな善意をガストは恥ずかしさから大人しく受け取ることしかできなかった。
    「ガスト、お前…苦いコーヒー飲めねぇのか?」
    「いや、そんなんじゃねぇよ…!」
     ニヤニヤした顔でアキラはガストに問いかける。ガストは軽くアキラを小突くと、目の前のカップを手に取り、エスプレッソの香りを嗅いだ。それは、普段リビングやヴィクターのラボで香るものと近い香りを感じるものだった。
    (そういえば俺、ドクターが淹れたコーヒー…最後に飲んだのいつだっけ…)
     そんなことを思いながら、ガストはエスプレッソを一口含む。評判通り、フルーティーな味わいの飲みやすいと思える味が口の中に広がった。これなら砂糖やミルク、ましてやアイスは必要ない、そう思いながらまた一口流し込んだ。
    「ガスト、無理してねぇか?大丈夫か?」
    「だから、そういうんじゃねぇって!そう言うお前は平気なのかよ?」
     完全に面白がっているアキラに困り笑いを浮かべながら、反撃と言わんばかりに言葉を返す。
    「オレは紳士で大人だからな、ブラックでも余裕だっての」
     アキラはそう言ってコーヒーを口に含むと、ごく、と飲み込む。
    「う〜ん、美味ぇ!なんつーか、アレだな、いい豆使ってんな〜って味がするな!」
     アキラのその様子を見て、ガストはぶはっと吹き出しそうになるのを堪える。
    「はは、何だよそれ…でも美味いよなここのコーヒー、これって実際にドクターとオスカーが淹れてんのかな」
     ガストはふと気になったことを口にする。名前だけ使うなんてことは普通にあることだが、実際に本人がいるのであればその場合は本人が対応するものなのだろうか。
    「え、そうなんじゃねぇの?さっきオスカーが豆挽いてるとこ見たし、てっきりこれもオスカーが淹れてんのかと思ったぜ」
     疑いなくそう答えるアキラを見て、ガストはやっぱりそういうものなんだろうかと思う。そうなると、このエスプレッソはヴィクター本人が淹れたものなんだろうか、そう思っていたところに近くのテーブルのやり取りが耳に入る。
    「私、このヴィクターさんのブレンドで!」
    「私はオスカーさんのブレンドをお願いします!」
     女性客が浮かれた様子で注文をする声がガストとアキラの耳に届いた。ふたりしてそちらに視線をやると、ちょうどジュニアが注文を取っているところだった。
    「やっぱり人気なんだな、ふたりのオリジナルブレンド」
    「だな、味が美味ぇってのもあるけど、ヒーローにコーヒー淹れてもらえるなんてなかなかねぇしな」
    「そうだよな…」
    (そうか、このメニューを頼んでる人たちはみんな、ドクターが淹れたコーヒー飲んでるってことだよな…)
     そんなことを思いながら再び口にしたエスプレッソは、変わらず美味しかったがどこか苦く感じた。それでも、他のものと混ぜることはなくガストは意地でそのまま飲み切った。

    ◇◇◇

     結局、アイスクリームはそのままにしておくわけにはいかなかったので、ガストはそれを単体で美味しくいただいた。アキラはブラックで余裕、と言いつつもあるものは使わないともったいない、と後半はミルクと砂糖も使用していたのだった。コーヒーを飲み終え、そろそろ店を出るか、というタイミングで店員呼び出しのベルを鳴らすとヴィクターがテーブルに向かって来る。
    「お呼びでしょうか」
    「お疲れ、ドクター。コーヒー美味かったぜ」
    「坊ちゃま方のお口にあったのであれば、良かったです」
    「オスカーにも美味かったって伝えといてくれよ!あ、ガキンチョにも頑張れよって」
    「はい、かしこまりました。アキラ坊ちゃま」
     ヴィクターに感想を伝え、会計を済ませると、ガストとアキラはそのままヴィクターに案内されて出口へと向かう。開かれたドアをくぐり外に出ると、ヴィクターが思い出したように口にした。
    「そうでした、ガスト坊ちゃま。アイスクリームはお口に合ったでしょうか?」
    「なっ!?」
    「見たところ、綺麗に召し上がってくださっていた様なので…」
     そのいきなりの問いかけに慌てるガストと、またしても肩を震わせ、ついには耐えきれず吹き出すアキラ。店の外ということもあってか、どこか主人を揶揄うような顔でヴィクターはガストを見ていた。

    ◇◇◇

     その後、タワーに帰り着いたガストとアキラは、それぞれの部屋に戻った。レンはまだ出かけているのか部屋には誰もおらず、ガストはクッションにもたれこむと、SNSで先ほどのカフェの評判をチェックした。本日もたくさんの投稿がされており、仲間が手伝っている店の評判の良さにガストは自分のことのように嬉しくなった。そこで、一つの投稿がガストの目に留まる。
    『噂の執事カフェに行ってきた。旦那さまなんて初めて呼ばれて最初は恥ずかしかったけど、なかなかいい気分だった』
     そんな内容の投稿を見て、そうか、男性だとそんな呼び方もあるよなぁとガストはぼんやりと思った。
    (…………ん?)
     そこで、ガストはヴィクターにお店で呼ばれた時のことを思い返す。
    (ドクター…俺のこと、坊ちゃまって呼んだよな…?)
     ガストはそこで自分に感じた似合わなさを改めて実感した。二十歳を迎えており、それこそ実年齢より大人びて見られることが多いガストは、子供らしさを感じる坊ちゃまという呼び方をされたことにより強い違和感を感じていたのだと。
    (いや、まぁ確かにドクターからしたら俺なんてまだまだガキだろうし、十以上歳下の、しかもメンティーを旦那さまとは呼ばねぇだろうけど…)
    (でも、そっか。ドクターにとっては俺ってまだ、坊ちゃま…なのか…)
     子供扱い?されていることを実感し、少し恥ずかしくなりながらも、どちらかというと幼い頃から大人びているせいもあり、そういった扱いの方が少なかったガストにはそれはくすぐったくも嬉しいものだった。
    (…っつーか待てよ、アイスもまさかそれで!?)
     子供扱いされていることを裏付けるかのようなアイスクリームの存在を再び意識して、ガストはまた顔がぼっと赤くなる。しかし、ヴィクターの前では子供でいていいんだろうか、という気持ちの芽生えに次第に心がほくほくと温かくなっていくのを感じていた。

    「…ドクター、カフェ以外でも俺にコーヒー、淹れてくれねぇかな…」

     そんなちょっとしたわがままのような願いをガストはひとりだけの部屋でぼそっと呟くと、そのままクッションに身を沈めた。
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    粥のぽいぴく

    MOURNING執事カフェのガとヴィの話
    CP未満ではありますが、そのように見えるかもしれません。左右は特に明記していませんので、その場合はお好きな解釈でどうぞ

    相互さんへの捧げ物でした☕️
    「お帰りなさいませ、ガスト坊ちゃま、アキラ坊ちゃま」
     ヴィクターが手伝いをしていると聞いたカフェに赴き、店内に足を踏み入れるとガストは聞き慣れた心地よい低音に出迎えられた。しかし、聞き慣れない呼び名で呼ばれたことに衝撃を受け、一瞬その場で動きを止める。一緒にやって来たアキラに横から声を掛けられるまでの短い間、確実に意識はどこか遠くへ飛んでいたようだった。
    「ははっ、ガスト坊ちゃまだってよ。似合わねーな」
    「言われなくてもわかってるって」
     アキラからの言葉に苦笑しながらそう返す。正直アキラも人のことは言えねぇだろ、とガストは思いつつも、自分の似合わなさと比べるとそこまででもないか、と思ったことを胸にしまった。ガストは事前にSNSでこのカフェの評判を見たことがあったが、そこにはヒーローが執事として給仕してくれる事への物珍しさを綴った感想や、対応の素晴らしさ、執事が格好よかった、可愛かった、お出迎えから虜にされた、なんて意見が多く見られた。実際にお出迎えを体験した今、なるほど、これは確かに威力があるな、なんてどこか冷静に先ほどの衝撃をガストは思い返した。執事をコンセプトにしたカフェなのだから、客もそのように扱われるのは不自然なことではない。むしろ、予想できることであったはずなのに予想以上の衝撃を受けてしまったことに、ガストは自分でも少し驚いていた。
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    粥のぽいぴく

    MOURNING相手の気持ちを知った上で自分に本気になるなって言うヴィクが見たかった。その結果相手を焚き付けちゃう展開も見たかった。書けたのかはわからない。
    付き合ってません。一応ガスヴィクのつもりで書いてます。
    「おや、珍しいですね」
     ノースセクター研修チームのリビングにて、ローテーブルの上に置かれたワインボトルと、ワイングラスを手に持ったメンティーの姿がヴィクターの目に留まった。思わず声を漏らすと、その声に気がついた彼のメンティー、ガストはお酒が回り始めているのか少し高揚した様子でヴィクターの方を振り返る。
    「お、ドクター。今戻ったのか?」
     遅くまでお疲れさん、と労いの言葉をかけながら、ガストはソファに沈み込ませていた背中を起こし、手に持っていたグラスをローテーブルに置いた。ヴィクターはリビングの奥へと足を進めガストの側に寄ると、改めてローテーブルの上に視線をやる。そこにはぱっと見ただけでもなかなかに高価そうだとわかるワインボトルに、それが注がれた一人分のワイングラス、ボトルの中身がまだそれほど減っていないところを見ると、まだ飲み始めてからそれほど時間が経っていないように推測できる。時刻は既に午前一時を回っており、普段のガストならもうベッドに入っていてもおかしくはない時間だ。そうでなくとも、この時間帯に部屋ではなくこうしてリビングにいることは非常に珍しい。
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