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    粥のぽいぴく

    @okayu_umaimai

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    粥のぽいぴく

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    相手の気持ちを知った上で自分に本気になるなって言うヴィクが見たかった。その結果相手を焚き付けちゃう展開も見たかった。書けたのかはわからない。
    付き合ってません。一応ガスヴィクのつもりで書いてます。

    「おや、珍しいですね」
     ノースセクター研修チームのリビングにて、ローテーブルの上に置かれたワインボトルと、ワイングラスを手に持ったメンティーの姿がヴィクターの目に留まった。思わず声を漏らすと、その声に気がついた彼のメンティー、ガストはお酒が回り始めているのか少し高揚した様子でヴィクターの方を振り返る。
    「お、ドクター。今戻ったのか?」
     遅くまでお疲れさん、と労いの言葉をかけながら、ガストはソファに沈み込ませていた背中を起こし、手に持っていたグラスをローテーブルに置いた。ヴィクターはリビングの奥へと足を進めガストの側に寄ると、改めてローテーブルの上に視線をやる。そこにはぱっと見ただけでもなかなかに高価そうだとわかるワインボトルに、それが注がれた一人分のワイングラス、ボトルの中身がまだそれほど減っていないところを見ると、まだ飲み始めてからそれほど時間が経っていないように推測できる。時刻は既に午前一時を回っており、普段のガストならもうベッドに入っていてもおかしくはない時間だ。そうでなくとも、この時間帯に部屋ではなくこうしてリビングにいることは非常に珍しい。
    「貴方もこうしてお酒を楽しむことがあったのですね、少し意外でした」
    「ああ、この前行きつけのダーツバーでマスターからよかったら持って行けって渡されちまってさ。なんかリビングに置いておくのも気が引けてずっと部屋に置いてたんだけど、さっき寝ようと思ったら目に入っちまって…今日はオフだし、せっかくなら飲むか、と思ってさ」
     そう言ってガストはグラスを軽く回してワインの香りを嗅ぐ。ワインの楽しみ方を心得ているのかはわからないが、その仕草はなかなかに様になっていた。そしてグラスを置き、今度はワインボトルを手に取ると、その口をヴィクターに差し向ける。
    「そうだ、よかったらドクターも一緒に……いや…こんな時間から飲まねぇか───」
     誘いの言葉を口にしたかと思えば、ヴィクターの返答を聞くより早く望みがないと踏んだのか、ガストは持ちあげたボトルを再びローテーブルに戻そうとする。その流れが何故だか少しヴィクターには気に障った。
    「ご一緒して良いのでしたら、いただきますが」
     ガストの動作を妨げるようにヴィクターが返答する。その予想していなかった返答に、ガストは一拍遅れて反応した。ぎこちなく動かされた首と視線、そして顔に浮かぶ表情は驚きを隠せていない。
    「え、マジで…いいのか?」
    「それはこちらのセリフなのですが…社交辞令だったのなら遠慮しますよ」
    「いやいや!社交辞令なんかじゃねぇって!悪りィ、まさか誘いに乗ってもらえるとは思ってなかったから、少し驚いちまった…」
     そう言うとガストは勢いよく立ち上がり、キッチンへと向かった。その隙にヴィクターがソファへと腰を下ろすと、程なくして上機嫌な足取りでガストがグラスを持って戻って来た。ローテーブルにグラスを置くと、ボトルを持ちそっとワインを注いでいく。ワインラベルがしっかり上を向いているのは意図してやっているのか、それとも単に偶然か。そんなことを思いながら、ヴィクターはガストの一連の所作を眺めた。
    「結構手慣れているのですね、なかなか様になっていますよ」
    「見様見真似だけどな。ドクターは酒の席で作法やら何やら見慣れてそうだよな」
    「まぁ、そうですね。やはり職業柄そういった場に赴く機会は多いですから。貴方もこれから慣れていくと思いますよ」
     メジャーヒーローであり、博士の地位も併せ持つヴィクター、彼がこれまで歩んできた道のりはガストとは大きく異なる。自分とは桁違いの経験を積む彼に、これから慣れていく、とは言われても彼と同じレベルには到底到達できるわけがない
    んだろうな、とガストは胸中で苦笑した。
    「じゃ、遅くまでお疲れさん」
     そう言ってヴィクターにグラスを手渡すと、ガストは手に持った自分のグラスを軽く上げる。
    「はい、お疲れ様でした」
     ヴィクターも受け取ったグラスを上げると、お互いに微笑みを交わす。こうして、二人の深夜の時間が始まった。

    「美味しいですね、コクがあって香りも良い。なかなか高価なワインだと思いますが、タダでいただいたのですか?」
     ワインを口にしたヴィクターは、香りを楽しんだ後、ワインボトルを手に取った。実際に飲んでみた感想も含めて、最初に高価だろうと推測したのは間違いではなさそうだ。
    「あ〜やっぱり高いのか?コレ。なんかダーツで良いスコアが出せたときに、マスターがやけにテンション高く押し付けてきたんだけど…」
    「ダーツバーでは、スコアが良いと景品が出るのですか…?」
    「いや、そういうわけじゃねぇけど…たまたまその日は俺が投げるのを見てたマスターがだいぶ気分を良くしたみたいで…常連だからってのもあってかタダでもらっちまったんだよな」
     高いワインだって知ってたらさすがに断ったんだけどな…とガストは困り笑いを浮かべながら頬をかく。彼のこういった価値観は歳相応なところがあるな、とヴィクターはその様子を見ながら思っていた。
    「そういやドクターはこんな時間まで何してたんだ?何か急ぎの研究とか?」
    「急ぎというほどではありませんが、サブスタンスで少し気になる個体がありましてね。区切りのいいところまで調べようとしていたらこの時間になっていました」
     普段から必要最低限の、とはいっても大半の人々と比べると少ない睡眠時間でも問題がないヴィクターは研究に没頭すると朝まで起きていること、ましてや睡眠を取らないことも珍しくはない。そんな彼が区切りをつけて、早いとは言えない時間だがこの時間にこうして部屋に戻ってきているあたり、どうやら本当に急ぎではないようだ。
    「そうだったんだな…あ、それならワインよりメシのほうが良かったか?」
     どうせまた研究に夢中で食事なんて摂っていないのだろうと思い、ガストはそう口にした。空きっ腹に酒は良くないと言うし、誘ったのは間違いだったかと思いながら、ヴィクターの反応を伺う。
    「食事なら研究の合間に摂っているので心配いりませんよ」
    「そうか?でもロクなモン食ってないんじゃねぇのか?」
    「普段なら簡単なもので済ませますが…今日はお掃除ロボさんが食事を持ってきてくださったので、そちらをいただきました」
    「へぇ、ジャックが。それなら大丈夫そうだな」
     ヴィクターの返答に納得すると、ガストは安心したような表情でグラスのワインを飲み干す。グラスをテーブルに置き、おかわりを注ごうとボトルに手を伸ばしたところで、ヴィクターの手がそれを遮った。
    「私が注ぎますよ」
     そう言ってヴィクターは片手でボトルをもつと、ガストのグラスにワインを注いでいく。先ほどガストの所作を褒めたヴィクターだが、彼の所作も同様に美しく様になっていた。
    「こういった場所では特に気にする必要はないかもしれませんが、お店では基本的にワインは注いでもらうものになりますから、少しは慣れておいてくださいね」
     さすがに知っていたでしょうか?と付け加えてヴィクターはボトルをそっと置いた。ヴィクターのその言葉は、ガストの気質を気遣ってのものだったように思える。
    「サンキュ…さすがドクター。飲んでる姿もだけど、注ぎ方もなんつーか、絵になるな」
     ガストはグラスを手に取ると、注がれたワインを軽く回し、色と香りを確認する。先ほどまで飲んでいたワインと何ら変わりないはずなのに、ヴィクターに注がれたワインはなんだかより特別なものに思えた。一口、口に含んで舌の上でころがす。きっと思い込みに過ぎないのだろうが、その味はやはり先ほどまでとはどこか違う美味しさを感じるものだった。ガストはその味を堪能すると、ヴィクターのグラスも中身が減っていることに気がついた。
    「ドクター。まだ飲むだろ?今度は俺が注がせてもらうよ」
     視線でグラスを置くよう訴えると、ヴィクターは素直にそれに従った。まだ一緒に飲んでくれることに喜びを感じながら、ガストは先ほどより気合を入れてワインを注ぐ。


    ◇◇◇


     それから、会話は少なくありつつも、決して気まずくはない時間を二人はワインを飲みながら過ごした。ボトルのワインがもう少しで空になりそうというところで、ガストはヴィクターに尋ねた。
    「ドクター、まだ飲むか?飲むならもう一本持ってくるけど」
     少しずつお酒が回ってきているのか、ヴィクターの頬は僅かに紅潮していた。まだ意識ははっきりしているようで、尋ねてきたガストに伏し目がちになっていた瞳をそっと向ける。
    「貴方がまだ飲むのでしたら、付き合いますよ」
     そう言って優雅に脚を組み直す。その何気ない仕草が、同様にお酒が回ってきているガストには煽情的に感じられた。
    「そういやドクターって、自分の限界ちゃんと把握してるんだよな?あとどのくらい飲めそうなんだ?」
     そんな自分の気持ちを隠すように、とっさにガストは質問を投げる。実際、このまま飲み続けても大丈夫なのだろうかと確認したかったという意図もあるが、純粋にちょっとした好奇心から出た言葉だった。
    「おや、貴方にその話はしましたっけ?」
    「あー…いや、直接聞いたわけじゃねぇけど、前に司令に話してるのが聞こえてさ」
    「あぁ、そうでしたか」
     自分の記憶と照らし合わせて納得がいった様子のヴィクターは、再び視線をガストに向ける。試されているような視線に目を逸らしたくなる気持ちを抑えながら、ガストは彼の返答を待った。
    「教えて差し上げても構いませんが、貴方はそれを知ってどうするのです?」
    「え…?」
     予想外の返答にガストは一瞬言葉に詰まる。ヴィクターの視線は逸らされないまま、ガストに注がれている。
    「例えば、知ったところで私が本格的に酔う前に止めてくださるのでしょうか?それとも、知った上で私を酔わせるのか」
     ガストの反応を楽しむように、ヴィクターは首を傾げて問いかける。まさか質問に質問で返されると思っていなかったガストはすぐに言葉が紡げずに押し黙る。実際、自分でも知った後でどうするのか予想ができないというのが彼の正直な心境であった。
    「いや、ちょっとした好奇心で聞いただけだったんだけど…無理に飲ませる気はねぇし、ヤバそうなら終わりにするよ」
    「そうですか……ちなみに、次の一杯を飲んだらだいぶ本格的に酔いが回ってくるかと思いますが…どうしますか?ガスト」
     私はどちらでも構いませんよ、と挑発的にも見て取れる表情を浮かべてヴィクターが微笑む。ガストはその表情に釘付けにされ数秒固まるが、決心したのかゆっくりと足を踏み出し、次のボトルを取りに向かった。
     ボトルを持ってくると、ヴィクターとは視線を交えずにそっとボトルをローテーブルに置く。ヴィクターはガストの決断を受け入れると言わんばかりに、自分のグラスをそっとガストの前に置いてみせた。
    「注いでいただけますか?ガスト」
     ガストは小さく頷くと、先ほどよりもぎこちない動作でワインを注ぐ。それは恥ずかしさからくるものか、それとも緊張からか、ガスト本人にもわからないが、零さず注ぐことに専念した。
    「ありがとうございます。…よろしければ、続ける選択をした理由をお聞きしても?」
     そんなガストの様子を見ながら、意地の悪い質問をヴィクターは投げかける。それに対してガストは観念したかのように、やっとヴィクターに視線を合わせた。
    「いや、やっぱり好奇心が勝っちまって…ドクターの酔ってるとことか想像できねぇし、見たいと思っちまうのも無理ないだろ?」
     後ろ手に頭を掻くと、悪戯を咎められた子供のような瞳でヴィクターを見る。
    「そうですね、好奇心の赴くままに…悪くないと思いますよ」
     ガストとは対照的に、余裕で楽しげな雰囲気さえ感じるヴィクターはワインが注がれたグラスを手に取ると、躊躇いなく口にワインを流し込む。
    「本当に、大丈夫なのか…?辛かったら無理に飲まなくていいけど…」
     そんなヴィクターをガストはハラハラしながら観察する。先ほどまでの酔いはヴィクターとの会話によって醒めており、ガストは至って冷静になっている。
    「さすがに体調を崩したり、意識を手放すほど飲むつもりはありませんよ。あくまで酔いが本格的に回る頃合いを教えて差し上げただけです」
     そう言うと、ヴィクターはソファの空いた部分、自分が座る横を手で示す。そこに座るように、という意図だと汲んだガストはその場所にそっと腰掛けた。
    「貴方もまだ飲むのでしょう?注ぎますよ」
     先ほどより少しふらつきながらも、ヴィクターはガストのグラスを引き寄せ、そこにワインを注いでいった。どこか表情が柔らかく、上機嫌な横顔をガストは目に焼き付ける。
    「…熱心に観察するのは構いませんが、そんなにすぐには現れませんよ」
     ガストの視線を浴びながら、ヴィクターは目線だけをガストに送る。
    「いや!別に、そういんじゃねぇけど!?あ、そうだ!水!水持ってくるから待ってろドクター!」
     自分の行動を指摘されたことに恥ずかしさが隠しきれないガストはそう言って再び立ち上がると、勢いよくキッチンへと向かっていく。自分のせいといえばそうだが、先ほどから忙しなく動くガストの様子をヴィクターは愉快そうに眺めていた。


    ◇◇◇


    「悪りィ、ドクター。待たせたな…って」
     ガストが二人分の水を用意して戻ってくると、ヴィクターはソファに横になった状態で目を閉じていた。水を用意しようとしたところ、冷蔵庫に冷やされている分はなく、ストックはどこだろうかと探したせいで時間がかかったが、まさかその間に寝てしまったのだろうか。ヴィクターにストックの場所を尋ねたらもっと早くに見つかったのかもしれないが、内心ヴィクターから逃げるようにキッチンに駆け込んだガストにはその選択肢は存在しなかった。
    「ドクター…寝てんのか…?」
     そう言ってガストは床にしゃがみ込むと、そっとヴィクターの顔を覗き込む。顔にかかった髪の隙間から、伏せられた目とほんのりと紅が差した頬が見えた。規則正しい寝息が聞こえることからも、おそらく眠ってしまったのだろう。
     ガストはそっとヴィクターの顔にかかった髪をかき上げる。そしてそこから現れた美しい顔に、思わず息を呑んだ。
    (そういや、ドクターの顔こんなに近くで見るの初めてかもしれねぇな…)
     健康的とはいえない生活を送っているはずなのに、ヴィクターの肌はキメが細かく整っており、その白い肌の頬にほんのりと浮かぶ紅がとてもよく映えていた。照明の光を受け、呼吸に合わせて微かに動く髪はキラキラと光を反射する。どこか浮世離れしたその光景に、ガストは魅了されていく。
    (前から思ってはいたけど、綺麗な顔してんな…)
     もっと、近くで…そう思うと吸い寄せられるように顔が近付いていく。そして、遂にはもう少しで唇が触れそう、と思ったところまで来てガストはハッと我に返る。
    (いやいやいや、何してんだ俺、今何しようとした!?)
     心の中で自問自答し、ブンブンと大きく首を振る。綺麗だったから、なんて理由でキスをして許されるはずがない。きっと酔っているせいだ、そう思ってガストは持ってきた水に手を伸ばす。だがそこで、ふと先ほどヴィクターに注いでもらったワインが目に入った。そして脳裏に思い出される先ほどまでのヴィクターの様々な仕草、ガストは少し手を彷徨わせた後、水の入ったコップではなくワイングラスを手に取った。
     グイとグラスを傾け、中のワインを一気に流し込む。もうどうにでもなれ、そんな気持ちでガストは酒に頼ることを決意した。余計なことを考えていては、結局このまま目の前の男に近づくことはできないのだ。
    「悪りィ…ドクター…」
     小さく零すように言うと、ガストは再びヴィクターに顔を近づける。今度は無意識にではなく、明確な意図を持って。息がかかりそうな位置まで顔が近づく、瞼を閉じ、もう少し…と唇に意識を集中させたところで、ガストの唇に温かく、柔らかい感触が触れた。
    「いけませんよ、ガスト」
     突然耳に響く心地良くも、低く強いバリトンの響き。ガストは突然の出来事に固まり、目を見開いた。

    ───そして、こちらを見つめるターコイズグリーンの瞳に射抜かれる。

     ヴィクターはガストの唇に押し当てた自身の人差し指をぐっと押す。そこでガストは唇に触れたのがヴィクターの指だったと気づくと同時に、それを合図にばっと仰け反り、ヴィクターから距離を取った。
    「なっ…ドクター、起きて…」
     ヴィクターは視線を逸らさないまま横たえていた体を起こす。ガストは蛇に睨まれた蛙のようにその場から動くことができずにじっと固まる。しかし、口ははくはくと驚きを隠せず動かされている。
    「貴方の気持ちを確認するにはちょうどいい機会かと思いまして、騙すような真似をして申し訳ありません」
     大して申し訳ないとは思っていないような口振りでヴィクターは淡々と口にする。
    「以前から少し気になってはいましたが…ガスト、貴方は私に好意を抱いているのでしょうか?」
     真っ直ぐな視線でそう問いかけられる。ガストは驚きと恥ずかしさで顔が熱くなるのを感じながら、どう返答するべきかと戸惑う。ここまでしておいて、言い訳をしたところで無駄だとは思いつつも、何の心の準備もないガストはすぐに言葉を紡げずにいた。
    「…沈黙は肯定と捉えますよ」
     そう言うとヴィクターは少し困ったようにふぅ、と短く息を吐く。その光景にガストは内心胸が締め付けられたが、顔には出さないよう努めた。
    「ガスト、私にこれ以上本気になってはいけません」
     ヴィクターはガストに対して、責めるのではなく、諭すような口調でそう言った。
    「貴方が私に抱く感情を恋愛感情と仮定して話しますが、あなたは自分が私に対して抱く感情を、本当にそうだと思いますか?」
    「え…それは…」
     ガストはなんとか言葉を紡ごうと口を開くが、ガストの返答をそれほど重要視していないのか、その先を待たずに話を進める。
    「もしそう思っているのだとしたら、それは勘違いです」
     自分の気持ちを否定されるかのような発言にガストは軽くショックを受けるが、すぐに反論できない自分に対して情けない気持ちを抱きながらヴィクターの言葉の続きを待つ。
    「貴方は私のどこを好きになったのですか?…どんなに考えても、貴方が私を好きになる理由が見つからないのです」
     そんなの俺の気持ちなんだからドクターにわかるわけねぇだろ、とガストは思いつつも、何故かと聞かれてしまうと言葉に詰まる。考えればわかることだが、目の前の男には感情論は通用しない。
    「ガスト、自分の気持ちについてよく考えましたか?」
     品定めするかのようなヴィクターの視線がガストに刺さる。確かに明確な理由を見出さずに好意を抱き、行動を起こしたガストは深く考えるということをしなかったようにも思える。悩んだ時間は多かった自覚があるガストだが、考えたかと問われると肯定できるだけの自信がない。
    「貴方は決して頭は悪くないと思うのですが、答えを急ぐあまり深く考えるということをしないように見えます」
     ヴィクターはそう言ってガストに向ける視線を鋭くする。
    「貴方が私に何らかの好意を寄せていると仮定した状態で、このようなことを言うのは心無いと思われるかもしれませんが…考えることをしない、というのは私から見て好ましくはありませんね」
     その言葉は先ほどまでのどの言葉よりもガストに鋭く突き刺さった。だが、そんなことは気にも留めず、ヴィクターは続ける。
    「ですから、まずはよく考えなさい。それに、貴方はまだ若いのですから、あまり答えを急ぐこともないのですよ」
     そう言ってヴィクターはどこか寂しそうに微笑む。先ほどの言葉によるダメージがまだ抜けきらないガストはその表情に気づくことはできなかったが、ヴィクターにとってはその方が都合がよかった。ヴィクターはまだ中身の残る自分のグラスを手にとると、そっと立ち上がる。
    「貴方がどのような答えを考えて導き出すのか、楽しみにしていますよ」
     ヴィクターはそう言って微笑むと、未だに床に座り込んだままのガストに視線を送る。
    「ですが、そうですね…今はこれだけ、受け取っておきます」
     ガストが見上げるその先で、ヴィクターは先ほどガストの唇を押さえた人差し指を自身の唇に押し当てた。その行動にガストの顔がぼんっと熱くなる。そんなガストの様子を他所に、ヴィクターはグラスの残りのワインを飲み干した。
    「では、私は部屋に戻るとします。…ご馳走様でした」
     そう言って去って行くヴィクターの背中をガストは顔、いや全身が熱いまま黙って見送ることしかできなかった。跳ね除けたいのかと思えば、思わせぶりな態度を取る、そんな読めない曲者のメンターのことを思うと、ガストの頭は考えようにもロクに思考がまとまらなかった。

    (こんなの…考えて答えが出たら苦労しねぇよ!)

     ガストは胸中で叫ぶとソファをぼすっと力なく叩く。視線をローテーブルに移し、雑にワインボトルを手に取ると、ドボドボとグラスにワインを注いでいく。そして再びグイッと中身を煽った。

    「あんなの…ずりィだろ……」

     誰もいないリビングで、そう小さく零すとガストは再びグラスを勢いよく傾けた。
     
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    Replies from the creator

    粥のぽいぴく

    MOURNING執事カフェのガとヴィの話
    CP未満ではありますが、そのように見えるかもしれません。左右は特に明記していませんので、その場合はお好きな解釈でどうぞ

    相互さんへの捧げ物でした☕️
    「お帰りなさいませ、ガスト坊ちゃま、アキラ坊ちゃま」
     ヴィクターが手伝いをしていると聞いたカフェに赴き、店内に足を踏み入れるとガストは聞き慣れた心地よい低音に出迎えられた。しかし、聞き慣れない呼び名で呼ばれたことに衝撃を受け、一瞬その場で動きを止める。一緒にやって来たアキラに横から声を掛けられるまでの短い間、確実に意識はどこか遠くへ飛んでいたようだった。
    「ははっ、ガスト坊ちゃまだってよ。似合わねーな」
    「言われなくてもわかってるって」
     アキラからの言葉に苦笑しながらそう返す。正直アキラも人のことは言えねぇだろ、とガストは思いつつも、自分の似合わなさと比べるとそこまででもないか、と思ったことを胸にしまった。ガストは事前にSNSでこのカフェの評判を見たことがあったが、そこにはヒーローが執事として給仕してくれる事への物珍しさを綴った感想や、対応の素晴らしさ、執事が格好よかった、可愛かった、お出迎えから虜にされた、なんて意見が多く見られた。実際にお出迎えを体験した今、なるほど、これは確かに威力があるな、なんてどこか冷静に先ほどの衝撃をガストは思い返した。執事をコンセプトにしたカフェなのだから、客もそのように扱われるのは不自然なことではない。むしろ、予想できることであったはずなのに予想以上の衝撃を受けてしまったことに、ガストは自分でも少し驚いていた。
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    粥のぽいぴく

    MOURNING相手の気持ちを知った上で自分に本気になるなって言うヴィクが見たかった。その結果相手を焚き付けちゃう展開も見たかった。書けたのかはわからない。
    付き合ってません。一応ガスヴィクのつもりで書いてます。
    「おや、珍しいですね」
     ノースセクター研修チームのリビングにて、ローテーブルの上に置かれたワインボトルと、ワイングラスを手に持ったメンティーの姿がヴィクターの目に留まった。思わず声を漏らすと、その声に気がついた彼のメンティー、ガストはお酒が回り始めているのか少し高揚した様子でヴィクターの方を振り返る。
    「お、ドクター。今戻ったのか?」
     遅くまでお疲れさん、と労いの言葉をかけながら、ガストはソファに沈み込ませていた背中を起こし、手に持っていたグラスをローテーブルに置いた。ヴィクターはリビングの奥へと足を進めガストの側に寄ると、改めてローテーブルの上に視線をやる。そこにはぱっと見ただけでもなかなかに高価そうだとわかるワインボトルに、それが注がれた一人分のワイングラス、ボトルの中身がまだそれほど減っていないところを見ると、まだ飲み始めてからそれほど時間が経っていないように推測できる。時刻は既に午前一時を回っており、普段のガストならもうベッドに入っていてもおかしくはない時間だ。そうでなくとも、この時間帯に部屋ではなくこうしてリビングにいることは非常に珍しい。
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