酷く甘く、酩酊「ミスタ、どうしたんだ浮かない顔して」
Voxは、近頃不安そうに下を向くことが増えたミスタの顔を下から覗き込む。
「え? いや、何でもないよ、気にしないで」
「嘘つけ。毎日そんな顔されて、心配するなと言われても無理だ」
「ごめん……ほら、オレ元気だよ」
そう言うとミスタは不自然に口角を上げる。
「俺に言えないような悩みなら無理には聞かんがな。力になれるならなりたいというだけだ」
Voxに心配をかけたことに対する罪悪感からか、ミスタはおずおずと口を開く。
「いや、最近さ、本当にみんなオレのこと好きなのかなって……」
そんなことか、とVoxがため息をつくと、ミスタはまた申し訳なさそうに下を向く。
「そんなに俺やリスナーのことが信じられないのか?」
違う、と反論しようとするが、自分の言っていることとの矛盾に気づいたのか言葉は途中で消えた。
「だって、わかんないよ、オレのことを好きだなんてさ。オレなんて……」
「いいか、よく聞け。お前はいい男だ、ユーモアも、愛嬌も、思いやりもある。少しドジなところもあるが、それすらも愛しい」
綺麗な形をした口からつらつらと流れ出る言葉に声も出せずぼろぼろと涙をこぼしながら必死に首を振るが、そんな僅かな抵抗もVoxの両手に阻害されてしまう。真っ直ぐ自分に向けられた視線から逃れるように視線を動かすが、そんなことお構いなしにVoxはミスタに口付けをする。餌のように啄んだり、ついて離れないように吸い付いたり、飼い犬を撫でるように舌をなぞったりと絶え間なく繰り返されるそれは数秒の間のことだったが、ミスタには何時間もそうしているかのように感じた。皮膚や粘膜を通じて伝わってくる疑いようもない愛に息をすることも忘れたミスタは、酸素の足りない頭では何も考えることができなくなりふらふらとVoxの胸に倒れ込む。
「これでも俺の愛が信じられないか? 言っておくが、俺は誰にでもこんなことをするような軽い男ではないぞ」
ミスタの目元に溜まった涙を拭いながらそう念押しする。その大きくて暖かな手に、ミスタは縋るように頬を擦り付けた。だらしなく涎を垂らす口からは、甘えるような吐息が溢れている。
「っ……本当に可愛い男だ。罪深いほどに」
頬を紅潮させ自分に縋るミスタを見たVoxは自身の身体の奥が熱くなるのを感じ、もう我慢できないとばかりに細い身体を抱き上げる。
「寝室に行こう。その可愛い声の続きはベッドの上で聞かせてくれ」
「う、ん……」
まだ意識は朦朧としていたが、ミスタはその安心する体温に身を任せることにした。