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    himinyunko

    @himinyunko

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    himinyunko

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    ミスタ君が心の中でずっとしゃべってます。ホラーのなりそこない。

    ある日の話 今日は本当にツイてない1日だった。傘持ってねぇのに雨は降るし、依頼人は時間になってもやってきやしねぇ、おまけに家に帰ろうと道を歩いていたら目の前に古びた洋館。念の為に言っておくが、いつもは帰り道に古びた洋館なんてありゃしねぇ。まァ、いわゆる、これは、心霊現象の類いってこった。それはそれとして、何で俺なワケ?世の中理不尽なことなんてとっくに理解してたはずだけど、今回ばかりは盛大に駄々をこねたい気持ちでいっぱいだ。頼むから、家に返してほしい。無視すりゃいいなんて都合良くは行かないらしく、辺りは知らねぇ場所で、あっからさまにやべぇ。おまけに一寸先は闇ってくれぇに真っ暗ときた。つまりは、俺に残された道はこの古びた洋館に足を踏み入れる事だけってワケ。

    「勘弁しろよォ…」

     口から漏れた声はなっさけねぇ涙声で、蚊の鳴くような弱々しい声だった。しょうがないのだ、世紀の大天才探偵ミスタ・リアスは、暗いとこもホラー系統のものも一等苦手なのだから。むしろ今までクールに状況を整理できていたことに拍手してほしいくらいなのだ。本当に、ほんとうに、俺この中に入んなきゃ行けねぇの?好奇心旺盛ってたって限度がある。だって生物には生存本能が備わってんだから、扉の前にいるだけで寒気はするわ、吐き気がこみ上げてくるわのこの状況で突撃しようなんて、よほど死にてぇ奴しかいねぇわけ。そして俺はその限りではねぇんだワ。なんて一人で現実逃避をしていると、膠着状態かと思われた状況に進展が起こる。瞬きする間に、おそらく洋館の玄関に景色が変わっていた。はァ?なんで、?まァいきなり洋館の前に飛ばされた時に薄々勘づいてはいたけど、人を移動させることができるのに。でも今じゃなくない?俺、こんなに必死に泣くの堪えて、奥歯噛んでんのになんで追い打ちかけんの?世界が俺に優しくない。ありえねぇんだけど。

    「ぅ、…ぅえっ、…っぐす。」

     とうとう堪えきれなくなった嗚咽が、噛みしめた歯の隙間から漏れる。こんなに限界なのに、あちらさんはこっちの事情などお構いなしらしい。鼻水で詰まっていても、俺の優秀な嗅覚は十分に仕事をしてくれた。何か、顔をしかめるような異臭を、嗅ぎとった。まるで、生ゴミのような、血を何日も放置したような臭いが混ざった悪臭を放つものが、あろうことか、俺がいるこの場所に向かってきている。気づいた瞬間、身体に流れる血液の温度が著しく下がった気がした。気持ちだけなら多分、もう死んでるくれぇには、冷え切った。足は脳の信号をまるっきり無視して、棒っきれになったみてぇに動かねぇし、手の先は、真冬に素手で雪だるまを作ったときみてぇに温度をなくした。助けて、助けて、たすけて、格好いい大人のふりはやめて、心のなかでそう叫ぶ。口から出そうになった悲鳴は、腹に力を入れて、耐えた。今向かって来ているモノにこちらの存在を悟らせたくは、ない。いや、まァ、今更かもなんだけど。そんなことを考えていても、もう顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃに歪んでなっさけなく眉は下がっていて、ぎりぎり、ほんとぎりぎり、声はあげていないぐらいだ。やっとの思いで踵を数ミリ動かす。臭いはもうすぐそこまで来ている。あと、ほんのちょっと、あの角を曲がれば、姿が、見え__

    「こんなところにいたのか、坊や。まったく、手のかかる息子だ。」

     悪臭を放つ何か、が来るであろう角にくぎ付けになっていた目に、大きな手が被さった。暗闇が視界を覆ったが、苦手なはずのそれに馬鹿みてぇに安心して、聞き慣れた低音を紡ぐ後ろの存在に目をぎゅっと瞑って身を委ねた。きっと次目を開けたら、いつも通りの日常に戻れるはずだから。
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