読書感想文課題に読書感想文を出された。高校生にもなって感想文とは如何なものかと思ったが、課題になってしまっては仕方がない。しかし、普段あまり本を読まない立香からしたら予想以上の難関が迫っている。そう、選書だ。難しいものを選んだら読みにくい。長いのを選べば読むのに時間がかかる。
「先輩、選書できそうですか?」
「無理に決まってるよ〜!」
ぐだぐだと机に伸びる。なるべく安めですぐに読めて読みやすくて面白いやつ。狙うはこの4ポイントが揃ってるやつだ。しかし、どんな店に行けばあるのか分からないし、だからといって一軒一軒回りたくない。
「マシュ、いい店知らない?」
「そうですね...ロマン古書店なら大丈夫だと思います」
「ロマン古書店?なにそれ、聞いたことない」
マシュ曰く、『イケメンの店長さんが居て選書の相談にも乗ってくれる秘密スポット』そうだ。これは行くしかない。イケメンの店員さんが居るのはポイントがかなり高いぞ。早速、放課後に行くことにした。イケメンを拝めて選書を手伝ってくれるだなんて一石二鳥じゃないか。
「いらっしゃい、何かお探しかな?」
「あ、あの!選書を手伝って貰いたくて来たんですけど......」
マシュの言う通り......否、以上のイケメン店長だった。象牙色の長い髪は後ろでポニーテールにされており、肌は浅黒く焼けていて、琥珀色の瞳が私を貫き、柔らかい視線を向けている。古書を纏める大きな手には金色の指輪が全ての指に嵌められていた。既婚者、なのだろうか。
「ああ、読書感想文かな?どんな本を探しているんだい?」
「読みやすくて、安くて、すぐ読み終えられて面白いやつでお願いします!」
「言うと思ったよ、ちょっと待っていてね」
そう言って店長さんは古本の積み重なった店の奥へと消えていった。買う目的も目当ての本もバレているだなんて思ってもいなかったけれど、すぐに見つかってよかった。だが、その思いは店長さんが持ってきた分厚い本によってかき消された。すぐに読み終えられるものと言ったはずなのだが。
「おいで、この中からジャンルを選んでご覧」
「え、読みやすければ...」
「私は目的が分かっても好みまでは把握出来ないからね、好きなジャンルを選んで欲しい」
パラパラと捲ってはみるもののあまり本を読まないので好きなジャンルが分からない。しかし、困り果てた私に店長さんは声をかけてくれた。
「小さい頃、どんな本を読んでいたの?」
「絵本ですか?」
「うん、絵本でも何でも」
「シンデレラとかお姫様が出てくるようなファンタジーな本ですね」
そう答えると店長さんは分厚い本を捲って近くの棚から手頃な本を取り出した。文庫本サイズで少しページが茶色くなってしまっているが、表紙には綺麗な星空が描かれている。上の方には大きな文字で「銀河鉄道の夜」と書かれており、下には誰もが知る「宮沢賢治」の名前。しかし、立香はふと思ったのだ。銀河鉄道の夜ってそこそこ長かったような気がすると。
「あの......」
「宮沢賢治は苦手?どの本を取るにも初めは日本の童話作家や絵本作家がいいと思ってね」
「それ、長くないですか?」
あまり長くないもの、と伝えたはずなのにそこそこ長いものを持ってこられてしまった。立香が不安そうに店長の手の中にある本と店長を交互に見つめていると店長はふわりと笑いながらこう言った。
「大丈夫。銀河鉄道の夜と書いてはあるけれど他にも短編が一緒になっているだけだよ。それに、宮沢賢治の表現と書き方は比較的読みやすくて、気づけば作品の世界に入り込んでいる人が多い。普段本を読まなくてファンタジーものが好きな人にいつも勧めているんだ」
試しに読んでご覧と言われて渡された本をパラパラとめくってみる。適当なところでピタリと手を止めればそこには「双子の星」とタイトルがあった。