散花、果てで君想うゆらり、と揺れる陽炎に万里は頬を伝う雫を雑に拭き取った。今更拭き取ったところでもう汗がずっと流れているけれど。暑い。今夏、最高気温は35℃を上回る日が続き、熱が体力を永遠と奪っていく。幼い頃はもっと涼しくて過ごしやすかった気がするこの土地も、地球温暖化の煽りを受けてか最高気温を上げているらしい。踏切を越してそこから待つ坂道に少しうんざりした気持ちになって、万里は転がった石を年甲斐もなく蹴った。本当ならば、バイトに明け暮れていたはずであったのに大好きだった祖父の背中を思い出すと断れなかったのだ。海に生き、海を愛した祖父の背中は偉大なものだったし、それはもう当然の如くカッコよく見えた。何にも夢中になれなかった自分が祖父の生き様に憧れてしまうほど。荒れていた高校時代は手に負えなかったであろう自分をじっと見守ってくれていた存在でもある。じいちゃん!とついて回る万里を傷だらけの無骨な手が撫でる。その感触を思い出して、万里はひっそりと笑った。大体撫でるのも雑で祖母に嗜められている姿もそれはそれでよかったから。
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